嘆く必要のない「増えぬ 若者の起業」

「会社を興し社長になる――。こんな夢に挑む若者が減っている。政府は起業数が会社数に占める『開業率』をいまの2倍に引き上げ英米並みにする目標を掲げた。日本経済の新陳代謝を促す狙いだが、若者の起業をどう増やすかがカギになりそうだ」

5日付日本経済新聞の「エコノフォーカス」では、「増えぬ 若者の起業」という見出しで、20代で開業する人の割合が1990年と比べて5%超低下し、9.8%と全体の1割以下にとどまり、シニア世代の22.5%(50~59歳の16.9%、60歳以上5.6%)にも及ばないことが報じられている。そして、若者の企業の減少を止めなければ、政府が6月に発表した成長戦略で5%弱の開業率を10%台にすると掲げた目標の達成が難しいとしている。

こうした状況に対して政府は、「無担保・無保証融資制度」の拡充や、経営者自らが融資の保証人になる「経営者保障制度」を改め、会社が倒産しても個人財産が全額没収されないようにすることなどを検討しているようだ。

経営者の個人保証制度を改め、「無担保・無保証の融資制度」を拡充して行くことは、起業のハードルを引下げるためには重要な手段である。しかし、「無担保・無保証融資」というのは、過去において、融資を受けた後に企業ごと行方不明になるといった詐欺などの犯罪の標的にされた現実もあり、その運用に関しては、例えば「コミットメントライン契約」にして一時に資金を渡さないようにしたり、「経理の一元化」、「口座管理の一元化」などを図ったりするなどして、資金が正しい目的に使われるようにする対策が必要である。現実問題として、「無担保・無保証融資」に対して「性善説」は禁物である。「性善説」は、結局は「無担保・無保証融資」を不可能にする要因になりかねない。これは、数年前の日本の歴史からの教訓である。

記事では、若者の企業が減少している理由として「日本では起業に失敗したときのリスクが高すぎる。企業は新卒学生を優先採用するので、起業に失敗してしまうとなかなか職にありつけない」と、起業を促すには労働市場の流動化が欠かせないという専門家のコメントを紹介している。確かに、そのような原因もあるかもしれないが、若者の起業を促すために労働市場の流動化を目指すというのは如何なものだろうか。「労働市場の流動化」が、「途中乗船可能」という意味ならばいいが、「強制下車可能」を意味するのであれば、起業に失敗した若者の代わりに強制下車させられる雇用者を生むだけなので、何の意味もないことになる。

さて、日本のベンチャー市場の一つの特徴は、起業からIPOまでの期間を「シード」「アーリー」「ミドル」「レーター」と4つのステージに分類すると、「ミドル」と「レーター」に投資資金が集中してしまい、海の物とも山の物とも分からない「シード」や「アーリー」ステージの企業に投資資金が集まり難いことである。これは、ベンチャーキャピタルの多くが銀行や証券、生損保などの金融機関のグループ会社であり、投資資金回収の確実性を求める傾向が強いことも一つの要因である。こうした状況を変えるためには、エンジェル投資家を増やすことが有効な選択肢である。

また、全くの個人的意見だが、日本のベンチャー企業に不足しているのは、投資資金よりも、ベンチャー企業の新しいサービスや技術を、試験的にでも利用してくれる大企業の数である。大企業にとって、信用力、実績に乏しい新しいサービスや技術の採用を社内で諮り積極的に推し進めることは、ベンチャーキャピタルがベンチャー企業の成長力を見極め投資するのと同じ位リスクを伴うものである。こうした現実的な障壁を取り除くためにも、採用企業に対して税制上の優遇策や補助金を検討する必要があるのではないか。どんなにユニークなサービスでも、優れた技術でも、使用されなければ宝の持ち腐れでしかない。何事でも、最初の1歩目に要するエネルギーは、9歩目から10歩目の1歩とは比較にならに程大きなものであり、政府が本気で「開業率」をいまの2倍に引き上げ英米並みにする目標を達成する気があるのであれば、政策的な後押しを検討して然るべきである。

「現在の20代は、2000年代半ばに若手起業家が証券取引法違反で逮捕されたライブドア事件などを目の当たりにしてきた。事件の影響もあって起業の熱気が冷めた面もあるようだ」

この記事は、20代の起業が減って来たことの要因の一つとしてライブドア事件などの影響も挙げている。尤もな意見だが、2000年前後と今とでは、ベンチャー企業の資金調達の在り方が変わって来ていることも大きく影響しているはずである。

2000年前後、いわゆるITバブルの前後は、インターネットビジネスにとって黎明期であり、市場を支配する巨大企業は存在していなかった。それ故、多くのベンチャー企業は、他社に先駆けて市場シェアを獲得することを目指して、早く大量の資金を調達する必要があった。それまでの既存業態の資金調達の形が、企業の成長に応じて資金を調達して行くという「ジェット機型」であったのに対して、当時のIT企業は市場での確固たる地位を築くために、企業の成長に先んじて資金を必要としており、そのために資金調達の姿は「ロケット型」であった。「ロケット型」の資金調達を可能にしたのは、ネット市場という未知の世界に対する知識は不足していたものの、先駆者利益の大きさを認識していたという投資家側の事情もあった。

それから10年。今ではネット市場は一旦落ち着きつつある。今のネット市場は、プラットフォームを提供して収益を稼ぐ企業と、提供されたプラットフォーム上でビジネスを行う企業とに分かれて来ている。そして、プラットフォーム上でビジネスを行う企業の収益の源泉は、「広告」と「(アイテム等)課金」に収斂して来ている。

一旦秩序が出来上がった今日のネット市場においては、「ロケット型」の資金調達の必要性は、企業側にも投資家側にも乏しくなって来ている(個人的見解だが「ロケット型」資金調達の必要性があるのは、バイオや創薬関係分野になって来ている)。

インターネット市場に向かうゴールドラッシュが一旦おさまった今、20代の起業が減って来るのはある意味当然でもある。バイオや創薬分野は、技術や能力を持った人間しかできないし、農業などはゴールドラッシュを巻き起こすには、イメージとして余りにも古臭い業態である。20代の起業が減ったことと、「草食系男子」が増えたこととの間に相関もあると思うが、インターネットが未開の市場で無くなった今日、時代が「若手の勢いによる成長」よりも、「計画的な成長」を望むようになって来ていることも影響しているはずである。

国がもっと目を向けるべくは、23.5%を占める50歳以上のシニア起業である。シニア起業家は、若手企業家ほど拡大志向はないので「経済の活性化」に貢献しない印象が強いかもしれないが、社会保障や年金を受け取る側に回る年齢になった彼らが起業をし、税金や社会保障料を納める現役でいてくれることは、高齢化社会日本に対する大いなる貢献のはずである。

高齢化社会に向かう中では、「開業率」をいまの2倍に引上げ英米並みにするためにも、「日本経済の新陳代謝」を進めるうえでも、国の財政負担を軽減するためにも、シニア起業を後押しし、「自立するシニア」を増やし、「現役の長期化」を図っていくことは、若手の起業を促すのと同じ位重要な政策のはずである。
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