「喧騒にまぎれて十分な国民的理解及び議論のないまま進められる」消費増税議論

「政府税制調査会(首相の諮問機関)は5日に開いた総会で、来年4月の消費税率引き上げについて議論した。ほとんどの委員は『予定通り消費増税を実施すべきだ』と述べ、政府内で浮上する増税見直し論をけん制した。ただ安倍晋三首相は週内に、増税に慎重な有識者も加えた消費増税の検証の場を設けるよう指示する見通し。現時点では増税見直しを排除しておらず、議論の行方は波乱含みだ」(6日付日本経済新聞「消費増税見直し論けん制」)

「波乱含み」という表現を使うところに、日本経済新聞が「増税見直し=波乱」と見做していることが見て取れる。

安倍総理は週内に、増税に慎重な有識者、具体的には「大胆な金融緩和」の理論的後ろ盾となっている浜田宏一イェール大学名誉教授と本田悦郎静岡県立大学教授の両内閣官房参与を加えて消費増税の懸賞の場を設ける予定だと報じられている。しかし、「ほとんどの委員は『予定通り消費増税を実施すべきだ』と述べた」というこの報道が事実なら、その総会に2名の消費増税慎重派が加わっても消費増税実施という大勢に影響を及ぼすとは思えず、慎重派のガス抜きの場に利用されることになりかねない。

不思議なことは、日本経済新聞が、先日7月29日の日経新聞のインタビューで「消費増税は避けて通れない。首相が『やろう』と決めたのだから、やり抜かなければいけない」と、既に「増税推進派」に宗旨替えしている本田悦郎教授を、その後も「増税慎重派」と紹介し続けているところ。「増税慎重派」の本田教授さえも、「消費増税の検証」を行った結果、消費増税を予定通り実施することに賛成したという演出をしたいのだろうか。

さらに、「週内に、増税に慎重な有識者も加えた消費増税の検証の場を設けるよう指示する見通し」というスケジュールも中途半端。消費増税の実施の判断基準として重要視される4-6月期GDP1次速報値が発表されるのは、来週12日月曜日の8時50分であり、「消費増税の検証の場」を設けるにしても、「増税慎重派」に「増税推進派」に宗旨替えさせる場を提供するにしても、タイミング的には「週内」より「来週」の方が適切なはずである。

「新興国発のリスクなどに対応するため(消費増税で)歳入を確保しておく必要がある」

この記事の中で、東芝の佐々木会長の発言が紹介されている。こうした発言は、大企業の経営者の本音は、消費増税は毎年1兆円のペースで増加する社会保障費用を賄うことよりも、マクロ的なリスクが生じた際に大企業を中心とした財政政策を行うための財源確保を優先していることを示唆したもの。これでは、消費増税で、国民が期待している、増え続ける社会保障に対応した財政再建など達成出来るはずはない。

この記事の隣に掲載された「消費税率引き上げ支持 IMF報告書」という記事で、IMFが「海外経済減速など『著しいリスク要因にさらされている』と指摘した」とされている通り、「新興国発のリスク」はいつ起こってもおかしくない状況にある。「海外の成長を取り込む」ことを目指している大企業が、それに伴って増加する「新興国発のリスク」のヘッジの原資として、直接「海外の成長を取り込む」術を持たない消費者や中小企業から徴収する消費増税を考えているのだとしたら、とんでもない話しである。

「『97~98年の経験を挙げるのは間違っている』。5日の総会では吉川洋東大教授はこう主張した。日本がデフレに陥った主因は、消費増税ではなく山一証券破綻などの金融システム不安との見方だ」

この発言は、「97年~98年の経験」に基づけば、「山一証券破綻などの金融システム不安」という「国内発のリスク」に対して、消費増税による「歳入確保」は無力だったということ(もちろん、これに対しては「橋本内閣の財政対応が遅れた」からだという、別の次元の反論があるだろうが)。97~98年の「国内発のリスク」には無力だった消費増税による「歳入確保」が、近い将来起きるかもしれない「新興国発のリスク」には有効だという根拠は何処にあるのだろうか。

また、97年以降の長期のデフレの原因は、「消費増税ではなく山一証券破綻などの金融システム不安」とする、消費増税以外に経済波乱要因がなければデフレにならなかったという見方も、お伽の国を前提とした議論は全くのナンセンス。「新興国発のリスク」をはじめ、経済の波乱要因は常に転がっているのだから。こうした主張をするならば、この先は消費増税以外に経済波乱要因はないということを示す必要がある。

「株式市場では、消費増税を予定通り実施するかが安倍政権の経済政策運営のカギとの見方が徐々に強まっている。消費税論議は金融市場にも微妙な影を落とす形で進むことになりそうだ」

国債の金利急上昇だけでは読者にインパクト不足と思ったのか、日本経済新聞は、消費増税が見直されれば、株式市場が大幅に下落するかのような印象を与える文章でこの記事を締め括っている。こうした、恐怖を煽ることで、冷静な判断力を鈍らせるやり方は、新興宗教に近いもの。

5日の政府税調には、麻生財務相も出席していた。麻生財務相の発言はこの記事では報じられていないが、週内にも設けられる「増税に慎重な有識者も加えた消費増税の検証の場」では、是非、消費増税の議論を「喧騒にまぎれて十分な国民的理解及び議論のないまま進んでしまったあしき例」にしないためにも、「落ち着いて議論することが極めて重要」だと発言して頂きたいものである。
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コメント

日本はバブル崩壊後景気対策に税金を投入しては、完全に景気回復が軌道に乗るのを我慢できず、緊縮財政に切り替えることで、景気回復を潰し、結果的に借金だけを増やしてきた。

今回も来年の増税で同じ轍を踏みそうです。そうなると二度と日本は立ち上がれないダメージを受けることになるでしょう。

ドクター国松様 この度はコメントをお寄せ頂きありがとうございます。仰る通り、アベノミクスは最後のチャンスだと思います。余力がなくなりますから。舵取りを間違ったら、「失われた20年」どころか、「取り返しのつかない◎年間」になりかねません。それだけに、「結論ありきの議論」だけは避けて貰いたいものです。
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近藤駿介

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