配偶者控除 ~ 「かつての標準世帯」を目指すなら、「かつての標準世帯を優遇する仕組み」を続けるのは当然である

「成長戦略の議論が高まりつつあった4月。内閣府の『経済社会構造に関する有識者会議』の専門チームが報告書をまとめた。『配偶者控除などによって就業が不利にならないようにするなど、働き方に中立的な税、社会保障制度を検討すべきだ』。6月の成長戦略にはどこにも見当たらない」(8月6日日本経済新聞 成長戦略 進化のヒント(下) 「配偶者控除見直し 女性活かす環境整備」)

日本経済新聞は、「配偶者控除の縮小・廃止」が、「成長戦略」に盛り込まれなかったことが不満でならないようだ。

「『夫は働き、妻は家』。夫婦のいる世帯の半数近くが共働きなのに、かつての標準世帯を優遇するかのような仕組みが続く」

果たしてそうだろうか。

日本社会の大きな問題点の一つは、「少子化」である。日本の「合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとされる子供の数)」は、2012年に1.41と、2005年の1.26をボトムにやや持ち直しているが、「出生数」は103万7千人と過去最低、「出生率(人口1,000人当たりの出生数)」も8.2と、過去最低を記録しており、「少子化」には歯止めがかかっていない状況にある。

政府は「少子化対策白書」で、「少子化」の原因を「晩婚化、晩産化」だと分析している。

若い人達の未婚率、例えば25~29歳で見ると、男性の未婚率は1980年の55.1%から71.8%へ、女性の未婚率は24.0%から60.3%へと、この30年間で大幅に上昇している。だが、「いずれ結婚するつもり」でいる割合は、1987年以降も男女ともに80%後半から90%で推移しており、未婚者の「結婚の意思」に大きな変化がない中、現実として未婚率が上昇する格好になっている。

25~34歳の女性が独身でいる理由として最も多いのが、51.3%の「適当な相手にめぐり会わない」であり、「仕事(学業)にうちこみたい」という理由を挙げたのは16.9%に留まっている。こうした結果から推察されることは、「仕事」を「結婚」より優先する女性は、言われているほど高くはないということである。

また、「理想子ども数」は、1987年の2.67人に対して2010年で2.42人となっており、減少傾向にはあるものの、「標準世帯」に対する認識がこの4半世紀の間に大きく変わったわけではない。一方、「現在子ども数」に「追加予定子供数」を加えた「予定子ども数」は2.07人と、2人すれすれまで低下して来ている。

理想の子どもを持たない理由として女性側で最も多いのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」の総数60.4%であり、「高年齢で生むのはいや」の同35.1%が続いている。注目すべきは、理想の子どもを持たない理由として、「自分の仕事(勤めや家業)に差し支えるから」は16.8%、「夫の家事・育児への協力が得られないから」という理由も10.9%に留まっていること。こうした統計から指摘できることは、「お金」や「年齢」といった現実的問題は子どもを産むうえでの大きな障害になっているものの、日本経済新聞が主張する「仕事」や「夫の協力」はそれほど大きな障害になっていないということである。

「細りゆく日本の働き手。成長力を保つには、女性の働く意欲を損なう制度の再考は避けられない」

日本経済新聞はこのように主張しているが、「配偶者控除」という制度が現実に「女性の働く意欲を損なう」ものになっているかは怪しい限りである。

内閣府の「都市と地方における子育て環境に関する調査報告書(2011年)」の中の、「妻の就労意欲について」という調査では、「今後は(今後も)正社員として働きたい」が25.8%、「最初はパートとして働くが、ゆくゆくは正社員として働きたい」が14.9%と、「正社員として働きたい」という意識を持っているのは40.7%である。これに対して「今後はパートとして働きたい」は45.3%、「今後は(今後も)働かない予定」は11.6%と、「正社員として働くことを望まない」人は56.9%に達している。

「配偶者控除。会社員ら納税者は配偶者の年収が103万円までなら、課税所得を計算する際、自分の年収から38万円を差し引ける。103万円を少しでも上回ると対象外。専業主婦かそれに近い人がいる世帯は税負担が軽くなる」

日本経済新聞は、「103万円の壁」が、「細りゆく日本の働き手」である「女性の働く意欲を損なう」ことで、日本の成長力を損なう原因だと決めつけている。しかし、「103万円の壁」が日本の成長力を削いでいるのであれば、その壁を引き上げれば良いだけのことであり、これを廃止するというのは「専業主婦かそれに近い人」の家庭や社会に対する貢献を認めないということと同じである。彼女らの家事等への貢献を金額に換算したら会社員の夫の収入から控除できる38万円をはるかに上回るはずである。この程度の金額を「税額控除」ではなく、夫の年収から「経費」として差し引けることが、「不平等」や「女性の働く意欲を損なう」要因になるのだろうか。

「少子化」を食い止めるということは、多くの女性が望んでいる「かつての標準世帯」に戻すことである。政府が「かつての標準世帯」に戻すことを目指すのであれば、「かつての標準世帯を優遇するような制度」を残すのは当然であり、むしろ拡充する必要があるともいえる。「かつての標準世帯」に戻すことを目指す一方で、「配偶者控除」を廃止するということは、明らかな矛盾である。

全ての女性が働くことを望んでいると決めつけ、「専業主婦かそれに近い」立場を望んでいる女性達までも、「配偶者控除縮小・撤廃」などで「成長戦略の戦士」として戦場に駆り出す「徴兵制」のような政策こそ見直しを図るべき時に来ている。

【参考記事】 詭弁に満ちた少子化対策~「専業主婦になりたい女性」を軽視する政策
スポンサーサイト

コメント

全く同感です。

専業主婦を養える位稼いでいる人になぜ控除が必要なのか疑問です。

ドクター国松様  コメントをありがとうございます。夫婦どちらかの収入だけでも安心して子育てが出来、子育て終了後は社会復帰も出来るような理想形を目指して貰いたいものです。

Re: タイトルなし

> 専業主婦を養える位稼いでいる人になぜ控除が必要なのか疑問です。
コメントをありがとうございます。専業主婦を養えることが裕福であるように感じられてしまう経済状況から早く脱却したいものです。
非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR