「消費増税見送り」を理由に「長期金利急上昇」を演出出来るのは「逃げ足の速いグローバル・マネー」ではなく「日本国民」である((再掲)

「もしも、消費増税のやり方で前提が崩れると、逃げ足の速いグローバル・マネーは瞬時に『日本売り』に走りかねない」

9日付日本経済新聞は「消費増税、97年と環境変化 成長へ財政再建急務」という見出しの消費増税擁護記事の中で、消費増税実施を先送りした場合、海外投資家の「日本売り」で長期金利が上昇すると警告を発している。また、日銀の黒田総裁も、8日の金融政策決定会合後の定例記者会見で、「財政規律の緩みや財政従属、財政ファイナンス(穴埋め)などが懸念されると、長期金利に跳ね返り間接的に金融政策の効果に悪影響」と発言し、長期金利上昇に警告を発した。

国内では、「消費増税見直し」=「財政規律の低下」=「長期金利上昇」という流れが「恒等式」のように語られているが、その検証は殆どなされていないのが現状である。何の検証もせずに「消費増税見直し」=「長期金利上昇」という恒等式が成り立つかのようなコメントを繰り返すのは、もはや「報道」ではなく「洗脳」である。

この「恒等式」は本当に成り立つのか、成り立つとしたらそれはどのような状況なのか、少し考えてみよう。

まず、「逃げ足の速いグローバル・マネー」が瞬時に「日本売り」に走ることで、長期金利が上昇するかについて考えてみよう。

これまで何回か指摘して来た通り日本国債の海外保有額は2013年3月末で81.5兆円と、国債残高の8.4%(日銀「資金循環勘定」)である。そして、81.5兆円のうち、約57%の46.3兆円が「短期」であり、「長期」は35.2兆円である。

日銀の「資金循環勘定」の時系列データを見る限り、日本国債「長期」の「海外保有額」は、2011年第2四半期以降8四半期連続で30兆円を超えており(最高は2012年第4四半期の35.4兆円)、「逃げ足が速い」と断じるほど大きな変動はしていない。日本国債「長期」の「海外保有額」が大きく変化したのはリーマン・ショックを挟んだ2007年度から2009年度の期間であり、この2年間に保有額は40.3兆円から25.3兆円へと約15兆円減少している。

さて、今回の日銀金融政策決定会合では、「資産の買入れ」については、「長期国債について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加し、平均残存期間が7年程度となるよう買入れを行う方針を継続する」ことが全員一致で確認された。

こうした状況のなか、仮に「逃げ足が速いグローバル・マネー」が「日本売り」に走った場合どうなるのだろうか。

日本国債「長期」の「海外保有額」が35.2兆円であるのに対して、日銀は「長期国債について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加させる」方針を明確に示しており、計算上日銀は8ヶ月程度で「海外保有額」を全て吸収することが可能である。また、「逃げ足の速いグローバル・マネー」が保有する35.2兆円の長期国債を「瞬時」に売却した場合でも、「戦力の逐次導入はしない」と明言している日銀が有言実行して資産買取りを実施さえすれば、「瞬時に」吸収できる。

「グローバル・マネー」が実際の保有分だけでなく、レポ市場で国債を借入して売却することもあるかもしれないが、こうした「必ず買戻しが入る売り」は、長期金利を一時的に上昇させることは出来ても、長続きするものではない。日銀に対抗出来る規模の国債をレポ市場で調達するコストはかなりの金額になり、所詮「短期決戦」しか出来ないのだから。

つまり、規模の力学からすると、「逃げ足の速いグローバル・マネー」が、「消費増税見直し」を理由に日本の長期金利を急上昇させる可能性はかなり低いと言える。

換言すれば、長期金利の急上昇を招くことが出来るのは「日本国民」ということになる。日銀の「資金循環勘定」によると、日本国債「長期」の「家計による保有」は24.2兆円に留まっており、「家計」が「瞬時に」売却に動いたところで、「海外保有」と同様に規模的に長期金利を上昇させるのは困難である。

日本国債「長期」の最大の保有者は、82.4%に相当する664.8兆円を保有している「金融機関」である。もし、「異次元の金融緩和」のゴールである270兆円の2倍以上の規模で長期国債を保有する「金融機関」が長期国債の売却に走れば、日銀とて長期金利の急上昇を阻止することは難しい。しかし、「金融機関」が、「消費増税見直し」を理由に、自らの判断で大量の長期国債を売却することは考え難いことである。

それは、1)貸出しが大きく伸びない中、国債を売却した資金を振り向ける先が乏しいこと、2)自己資本規制(BIS規制)上、日本国債のリスクウエイトは「0%」であり、国債保有のために自己資本を使うことがない(自己資本を気にせずいくらでも国債を保有できる)こと、3)日銀が年間50兆円の国債買入れを明言しており、市場で慌てて売却する必要がないこと、4)国債の金利が0.7~0.8%と低い水準ながら、コール市場の金利0.07%、当座預金付利0.1%等と比較すれば高水準であり、国債保有が「ポジティブキャリー」(国債を保有するのに資金コストが生じない)状況にあること、等々からである。「金融機関の論理」からは、「消費増税見直し」を理由に、長期国債を大量売却することは考え難い。

こうした中で金融機関が国債の売却に動くとしたら、それは預金者である「国民」が、金融機関から預金を一斉に引き出した時、つまり、消費増税見送りによって国家の破綻を懸念した国民が、大量の国債を保有する金融機関の破綻を強く意識し、「取り付け騒ぎ」を起こした時である。

「資金循環勘定」では、「非金融法人」と「家計」が持つ2013年3月末時点での「預金」総額は1006.3兆円であり、「消費増税見直し」=「国家破綻」=「金融機関破綻」=「全金融機関に対する取り付け騒ぎ」が起きた場合には、長期金利は急上昇することになることは確実である。

ちなみに、足許、金融機関は必要な準備預金を64兆9700億円上回る超過準備預金を日銀当座預金に積んでおり、「取り付け騒ぎ」の規模がこれ以下であれば、計算上は、金融機関は保有国債を売却せずに「取り付け騒ぎ」に対応できる(あくまで計算上、長期金利が上昇しなくても済む)状況にある。

「逃げ足の速いグローバル・マネーは瞬時に『日本売り』に走りかねない」

日本経済新聞を筆頭に、消費増税推進派の有識者は、一般国民に馴染の薄い「グローバル・マネー」という「目に見えない敵」が「長期金利の急上昇」をもたらすかのようなコメントを繰り返している。しかし、現実の国債保有状況を見る限り、「消費増税見直し」を理由に「長期金利の急上昇」を演出出来るのは「グローバル・マネー」ではなく、「日本国民」である。「消費増税見直し」によって「長期金利の急上昇」が起きるかどうかの答えは、国民一人一人が「消費増税見直し」によって、金融機関から預金を引き出しに行くかを考えれば想像つくはずである。「目に見えない敵」など過度に恐れる必要はない。

少なくとも、「長期金利の急上昇」を理由に「消費増税」を実施しなくてはならないという主張の根拠は、極めて感情的なものでしかない。
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