銀行の「甘い自己査定」によって成長企業を育てられるのか

「金融庁は独自の基準に基づいた画一的な銀行検査を見直す。1990年代はじめのバブル崩壊後の不良債権処理を目的としてきた検査を転換。融資先が健全かどうかの判断は銀行に大部分をゆだねる。銀行がリスクをとりやすくなり、技術力はあるのに決算上は赤字になっている中小・ベンチャー企業がお金を借りやすくなる。日本経済の成長を後押しする効果もねらう」

17日の日本経済新聞の1面は、この「成長企業融資しやすく」という記事で飾られている。「創業期に赤字が続くベンチャー企業や、技術力はあるのに過去の失敗で赤字に陥っている中小企業などが、将来的な成長力や潜在力をもとに運転資金や設備投資資金を借りやすくなる」という効果を狙ったもの。政策変更の裏側には、金融機関の自己資本が充実して来ており「バブル期のように甘い自己査定が原因で銀行の経営が揺らぐリスクが遠のいた」という事情もある。

こうした、銀行に「甘い自己査定」を認める政策で、中小・ベンチャー企業に対する融資が増えるかというと、甚だ疑問である。

筆者の経験に基づいて極論すれば、中小・ベンチャー企業の決算というのは、ほとんどが広い意味で粉飾決算である。金融機関から融資を受けたい企業は、見かけの売上を増やしたり、経費を減らしたりして「黒字」に見せようとするし、利益の出ている企業は、税金を減らすために必要以上の経費を計上し、利益を圧縮しているということ。もちろん、合法的とみなされる範囲でのお話しであるが。

実際に融資や出資をする者は、こうした部分を修正して判断をするが、赤字企業の実態は、提出される財務諸表よりはるかに悪い場合が多い。「銀行は赤字決算を出したり、返済が1~2ヶ月滞ったりした企業を『その他要注意債権』として管理している」が、それはあくまで、返済が滞る可能性が低いと見なして融資を実行した企業が赤字に転落したり、返済が遅れた場合である。決算が赤字なのはともかく、貸出しをする当初から返済が滞ることを前提に、「その他要注意債権」に分類して新規貸し出しを行うというのが、金融機関として正しい判断なのかは意見の分かれるところのはずである。

おそらく、この記事の言う「成長企業」というのは、最初に研究開発費や設備投資が必要で、上手く行けばキャッシュフロー(売上)がその後について来る業態をイメージしているのだろう。問題は、こうした企業は、飲食店や美容院など日銭商売とは異なり、開発期間中を含め、暫く売上(営業キャッシュフロー)が殆どないケースが多いことである。

暫く殆ど売上が立たない企業が、金融機関からの融資を受け、一定期間後から毎月元利金の返済を続けて行くというのは極めて難しい。こうしたリスクの高い融資を実行するとなると、金融機関は通常よりかなり高い金利を要求せざるを得ない。これはリスク・リターンの関係から言って当然のことである。しかし、安定した営業キャッシュフローが見込めない企業が、通常よりかなり高い金利を支払い続けることは現実問題困難であり、それ自体が企業の存亡の危機を招きかねないものとなる。

融資というのは、上手く行って最大収益は事前に決められた「元利金の予定通りの完済」であり、成長企業の成長リスクに見合う高い収益が得られるわけではない。従って、あるべき論からすると、成長企業への資金供給は、基本的には銀行融資ではなく、ベンチャー投資で賄うべきものである。

成長企業が抱える大きな課題は、資金だけでなく、その技術やサービスを試験的にも採用してくれる大企業の存在である。大企業がその企業の技術やサービスを試験的にも採用してくれれば、さらなる改良が可能になるうえ、その会社の技術やサービスに対する信頼性を高める効果によって、他の企業による採用等、波及効果も期待でき、成長企業の成長速度を速めることが可能になる。

成長企業を育てることは重要な政策課題かもしれないが、金融機関に「甘い自己査定」を認めることで実現しようとする考え方は邪道なものである。国が本気で成長企業の後押しをするのであれば、成長企業から技術やサービスを購入した企業に対して税法上の恩恵を与えるとか、公的な機関が成長企業の技術やサービスを積極的に採用するなど、「資金面」だけではなく「売上面」での支援対策を検討する方が近道なのではないだろうか。
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近藤駿介

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