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「自由貿易は『ウィン・ウィン』だ」というのは、非現実的な妄想である

「自由貿易は『ウィン・ウィン』だとされる。相手も自分もお互いに勝者であり、敗者はいないという意味だ。交渉で相手国に市場開放を迫るとき米政府の当局者はこの言葉を好んで使う」(8月25日付日本経済新聞「経済解読 見えてきたTPPの本丸」)

「自由貿易は『ウィン・ウィン』」。TPP交渉に関する報道では、このフレーズが当たりまえのように使っています。しかし現実問題として、「相手も自分もお互いに勝者であり、敗者はいない」ということがありえるのでしょうか。

「オバマ大統領は来年秋に中間選挙を控え、TPP交渉の妥結を対外的な経済戦略の成果としてアピールする構えだ」(8月24日付日本経済新聞「年内妥結へ交渉加速 TPP共同声明に明記」)

オバマ大統領が「TPP交渉の妥結を経済戦略の成果としてアピールする構え」だということは、米国は少なくともトータルで勝者になると踏んでいるということです。自国が勝者になることを目論んでいる米国が、市場開放を迫る際に好んで使う「自由貿易は『ウィン・ウィン』」だという言葉を、交渉相手である日本が何の疑いもなく受け入れるというのは、不思議というかお人好しというか、こんなことで本当に国益が守れるのかが心配になってしまいます。

「TPPを通じて米国が製造業での中心的な役割を拡大できることを期待しており、TPP交渉が成功したら『数百万人の雇用創出につながるだろう』と述べた」(3月12日Bloomberg)

こうした発言からの明らかなように、2014年末までの輸出倍増計画を掲げるオバマ大統領は、TPPを利用して米国が輸出を伸ばし、国内雇用増加を目指しています。米国の2012年の輸出額は2兆2106億ドル(物の輸出1兆5612億ドル、サービスの輸出6493億ドル)となっており、2009年比でみると約40%増加して来ています。オバマ大統領自身が「順調に進んでいる」(Bloomberg)と評価するように、輸出倍増経計画は順調に進んでいますが、公約を達成するためには、輸出を2012年比でさらに9458億ドル、率にして40%強伸ばす必要がありますから、決して簡単な目標ではありません。

欧州経済が低迷し、中国を始め新興国経済が不安定な動きを見せる中では、TPPを利用して輸出を増やす必要があります。オバマ大統領が目標として掲げる2014年末までに輸出を倍増させるために必要な輸出額は9458億ドル、そして、2012年の米国の貿易赤字額は5346.6億ドルです。米国がTPPによって輸出を増やし貿易赤字を解消することを目論むとしたら、そのターゲットは自ずと限られて来ます。

オバマ大統領が公約達成するために増やさなければならない輸出金額は9458億ドル、2012年の貿易赤字は5347億ドルですが、米国を除いたTPP交渉参加国のなかで、2013年のGDP規模(IMF WEO April 2013推計)がこの規模を上回っているのは、オーストラリア(1兆5891億ドル)とカナダ(1兆8438億ドル)、メキシコ(1兆2750億ドル)、そして日本(5兆1499億ドル)の4ヶ国しかありません。そのうちカナダとメキシコは既に米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を締結済みですから、米国が輸出を伸ばす対象は、実質日本とオーストラリアしかない状況といえます。(参考資料はこちら

しかし、GDPの規模でみるとオーストラリアは米国の9.8%に過ぎませんから、米国が輸出倍増計画を実現するためには、世界第3位の経済大国でGDP規模が米国の31.7%である日本向けの輸出を増やすのが現実的な戦略ということになります。

「自由貿易の勝者と敗者」を、何を以て図るかは定かではありませんが、仮にGDPだとすると、輸出の増加はプラスに、輸入の増加はマイナスに働きますから、米国が輸出を伸ばせばその分GDPは伸びることになりますし、日本が輸入を増やせば、その分GDPは減ることになります。2012年の米国貿易赤字は5347億ドルですから、仮にこれを全て日本向け輸出で埋めるとしたら、日本のGDPはドルベースで10%強縮小することになります。従って、日本がGDPを増やして「勝者」になるためには、それ以上の規模で輸出を増やす必要があります。しかし、米国を除くTPP交渉参加国の中で米国の貿易赤字を上回る経済規模がある国は、オーストラリアとカナダ、メキシコしかありませんから、現実的には非常に難しいと言えます。

このような現実を考えると、「自由貿易は『ウィン・ウィン』だ」という主張は、非現実的な妄想に思えてなりません。

日本経済新聞の記事は、「TPPの本丸」の代表例として「国有企業を規制するルールづくり」であり、その流れを敏感に察知した日本郵政はアフラックと業務提携を進め、「新たな郵便ネットワークの商業価値を内外に誇示」する戦略に出たと報じています。

それはその通りかもしれません。しかし、「がん保険で7割を超えるシェアを持つアフラック」(7月24日日本経済新聞「日本郵政、米アフラックと提携 がん保険を共同開発」より)と日本郵政の提携が、独占禁止法の「排除型私的独占ガイドライン」である50%を上回っている問題が何も議論されずに認められるというのは、TPPという錦の御旗の下で日本の法律が米国に有利になるように解釈され運用されているような印象を与えるものでもあります。もしそうだとすると、TPPという錦の御旗の下で日本の国益は既に犯され始めているともいえます。

「2011年11月に後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた9カ国から『交渉を打ち切る権利は9カ国のみにある』『既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない』などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた」(3月8日付東京新聞「、「極秘条件6月には把握 TPP交渉 政府公表せず」」

日本は23日に閉幕したブルネイでのTPPを巡る閣僚会合から正式な参加国として全ての会議に出席することが許されまし。しかし、3月に国会でも取り上げられた正式な参加国として、最優先に確認すべき事項である「交渉を打ち切る権利」の有無については一切報じられていません。

日本が「交渉を打ち切る権利」を持たない自由貿易交渉で「相手も自分もお互いに勝者であり、敗者はいない」ということがありえるのでしょうか。そもそも「自由貿易に敗者はいない」のだとしたら、全ての交渉参加国に反対する理由はないということになります。それにもかかわらず、2010年3月に始まったTPP交渉が3年以上経過した今日でも未だに妥結していないという現実は、交渉参加国がどこも「自由貿易に敗者はいない」いう妄想を抱いていないからに他なりません。日本が「国益を守る」という強い姿勢で交渉に臨むのであれば、国内向けに「自由貿易は『ウィン・ウィン』」という非現実的なスローガンを掲げるのは止めるべきではないでしょうか。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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