「増税後」の分け前を狙う下心が透けて見える有識者会合~「条件付き賛成」有識者が政府に突き付ける尤もらしい条件の中身

「多くの有識者が法律通りの消費増税を容認しつつも、増税による販売減少など反動を抑える対策を政府に求めた。税制の見直しや補正予算を唱える声もあり、『増税後』の対応に関する要望が目立った」(29日付日本経済新聞「消費税 有識者聞き取り3日目 増税後の対応要望」)

28日に開催された消費増税の影響を聞き取る「集中点検会合」の3日目に出席した産業及び国民生活、社会保障分野の17人の有識者達は「条件付」ながらも概ね税率の引き上げに賛成し、参加者の関心は既に「増税後」に向けられているようです。人選の段階から消費増税賛成派が過半数を占めていましたから、このような出来レースになることは十分想像されたことではありました。

それでも、消費増税に賛成する有識者が、次々に「増税後」の対応を求めていることは釈然としないものです。「増税後」の対応を求めるというのは、消費増税が日本経済に「致命的な打撃」(日本自動車工業会豊田会長)になることを消費増税に賛成する有識者達も皆認識しているからに他なりません。それを承知で有識者達が「増税後」に関心を向けるのは、国民の目に、自分達が国民の代弁者として「増税後」の対応を政府に要望しているように映るような演技をすることで政府に恩を売り、その報酬として「増税後」の対応から自分たちの利益を得ようという下心があるからに思えてなりません。

税金というのは、基本「所得の再分配」を行うものです。仮に、マクロ的に消費増税による「致命的な打撃」を、「増税後」の対応によって埋め合わせることが出来たとしても、それは少なくとも一時的に消費者から別の主体への所得移転がなされたということでしかありません。現在の経済状況を「0+0=0」だとすると、「増税後」は「▲1+1=0」になるということです。結果は「0」で変わりませんが、「+1」が生じることで、利権を生みだすことになります。「0+0=0」と、「▲1+1=0」とでは、大きく違うのです。

「消費税率を10%まで上げた場合、16年度の国内販売が353万台と、税率を5%に比べて93万台落ち込むとの試算を示した。豊田会長は『国内市場が落ち込めば、国内生産を維持できない』として、車体課税の軽減を求めた」(日本経済新聞)

自動車業界だけではありませんが、こうした発言からは、産業界は「雇用」を人質にして「+1」を得ようとして画策している姿勢が透けて見えるように思えてなりません。消費増税によって落ち込むと試算されている自動車販売93万台は、率にして▲20.85%に相当する規模になります。2012年の自動車業界の業界規模(主要対象企業10社の売上高計)は45兆5824億円ですから、単純に金額ベースに直すと、消費増税によって自動車業界だけで約9兆5700億円、実に名目GDPの約2%に相当する落ち込みが想定されていることになります。そしてそれは、消費者の実質購買力の低下の結果として生じてくるものです。

豊田会長が示した販売台数が約20%落ち込むという試算は、前回1997年4月に消費税が3%から5%に引上げられた際の、新車販売台数の動向を根拠にしたのかもしれません。前回の消費増税時に新車販売台数(軽自動車を含む)は1996年度の729万台から1997年度には628万台へと100万台強、率にして▲13.9%落ち込み、1998年度には587万台と1996年度比で142万台、率にして▲19.4%落ち込んでいます。

ここで引っ掛かるのは、消費増税に賛成する有識者がその根拠として「1997年当時よりも日本経済は強い」ということを主張していることです。仮に、消費増税推進派の見立てが正しければ、新車販売台数の落ち込みは前回よりも少なくて然るべきではないでしょうか。前回と同じ位落ち込むというのであれば、それは「1997年当時よりも日本経済は強い」という前提が間違っているということになります。ある時には「1997年当時より日本経済は強い」と主張し、ある時は「1997年当時と同じ位販売が落ち込む」と主張する姿をみていると、「+1」を得ることが目的の議論であるように感じてしまうのです。

日本の2012年の輸出額は63兆7476億円ですから、輸出企業には消費税5%に相当する約3.2兆円が消費税還付として支払われていることになります。2012年度の消費税収入は約10兆2000億円ですから、その31%強が輸出企業に還付されている計算になります。そして、輸出額が変わらないとすると、消費税が1%上げられると消費税還付金が約6,300億円増加することになります。1%の消費税引き上げで税収が2兆5000億円程度増えると言われていますから、最終消費者が負担した税金のうち約25%が輸出企業に流れて行くことになります。

また、日本最大の輸出品である自動車の2012年輸出額は12兆7521億円ですから、自動車メーカーには約6400円の消費税還付がなされていることになります。こうした状況の中で「自動車ユーザーに配慮を」と主張されても、すっきりとはしないというのが正直な感想です。「致命的な打撃」があることを承知の上で、最終消費者が負担した税金の4分の1は輸出企業に還付されていくという、「一般消費者から輸出企業へ」という所得の再分配が、日本の目指す方向として正しいものなのでしょうか。この点に関して「増税後」の「税制の見直し」を主張する有識者が一人も現れなかったというのは残念な限りです。

消費増税に賛成の意思を示した有識者も、殆どが「条件付き賛成」ということになっています。そして最も要求が多かったのは、「社会保障制度の整備」というものです。「社会保障制度の整備」は日本の喫緊の課題ですから当然の主張なのですが、金融的観点からいうと、議論の進め方は手順前後と言えるものです。

国に資金を提供する国民側からすると、まだ何のビジネスプランも出来ていない「社会保障制度の整備」に、消費増税という形で資金を提供するというのは極めて危険な投資行動になります。金融的な常識からすれば、政府が「社会保障制度の整備」に着手、あるいは少なくとも事業計画が出来上がっていて、その実現性が高いと思われた時に資金を提供するのが本筋なのですが、消費増税に賛成する有識者達は、国が何の事業計画も見せていない今の段階で資金を提供することに同意してしまっているのです。これも「金融後進国」のなせる業なのでしょうか。このような金融的な感覚の乏しい有識者に限って、政府の税金の無駄遣いに対して厳しい批判を浴びせるのかもしれません。何のチェックもせずに資金を提供して、後で「騙された」といっても遅いのですが・・・。

「このチャンスを逃すと次いつできるか分からない」

日本商工会議所の岡村会頭は、有識者会合の後にこのように発言をされていました。消費増税推進派からはこうした主張は良く聞かれますが、「このチャンス」とは何を指しているのでしょうか。もし本当に日本経済が好循環の流れに乗っているのであれば、税収は増え、一般消費者にも恩恵が及んでくるはずです。従って、消費増税を推進する立場をとる有識者にとっては、時間の経過とともに消費増税を実施できる環境が整ったという主張の正当性が高まっていくことになるはずですから、「チャンスはどんどん膨らんでいく」と考えるのが普通だと思います。

それにもかかわらず「このチャンスを逃すと次いつできるか分からない」と、まるで今が「最後のチャンス」と言わんばかりの発言が繰り返されるということは、本心では日本経済はこの先、消費増税を実施できる環境から乖離して行く、つまり、「一般消費者に恩恵が及ぶことはない」と考えていることを暴露しているようなものです。

消費増税に賛成する有識者で占められた有識者会合の視線は「増税後」に向けられているようですが、消費増税の是非を検討するのであれば、本来するべきことは、アベノミクスの恩恵が「一般消費者に及んでくるか」を確認することのはずです。恩恵が一般消費者に及んでくるのであれば、世論も消費増税を受け入れるでしょうし、恩恵が及んでこないのであれば、「景気条項」に従って消費増税を先送りすればいいのですから。

有識者達には、「増税後」の自分たちの分け前を考えるのではなく、まずは日本経済の現状と将来の姿について、客観的かつ公正に「集中点検」して頂きたいものです。
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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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