「遊牧民化」するグローバル企業 ~ 痩せ細る中小企業と個人による「互助会的運営」では財政再建は出来ません

「増税がその後の不況の主因というのは明らかに間違いだ。97年4~6月期はマイナス成長に陥ったが、7~9月期にはいったんプラス成長に戻った。主犯は夏以降のアジア通貨危機と日本の銀行危機だろう。反論するなら数字で根拠を示してほしい」(9月1日付日本経済新聞「日曜に考える 創論 消費増税 どう実行」)

伊藤隆敏東大公共政策大学院長は、「税率を3%から5%に引き上げた1997年度の経験も引き合いに出されます」という質問に対してこのように回答されています。「反論するなら数字で根拠を示してほしい」というところに、学者らしさが滲み出ているようです。

しかし、「97年4~6月期はマイナス成長に陥ったが、7~9月期にはいったんプラス成長に戻った」と、僅か1期プラス成長に戻ったことを、「主犯は夏以降のアジア通貨危機と日本の銀行危機だろう」とする「数字での根拠」として挙げるのは、学者の主張としてはいささか乱暴な論理のような気がします。「主犯は夏以降のアジア通貨危機と日本の銀行危機だ」とするのであれば、「だろう」ではなくて、それがどの位日本経済に影響したのかという「数字的根拠」を示すのが学者として筋ではないでしょうか。

伊藤大学院長が指摘される通り、日本の実質GDP成長率は97年10~12月期から再びマイナスに転じていますが、1年後の98年10~12月期から2期連続で一旦プラス成長(実質で0.3%、0.5%)に転じており、「97年7~9月期に僅か1期プラス成長を記録したことを以て消費増税の悪影響はごく短期であったという論理からすれば、「アジア通貨危機と日本の銀行危機」もこの時に終わったということになります。そうだとしたら、「その後の不況の主因」というのは何だったと言われるのでしょうか。

結局のところ、経済は複合的な要因で動いていますから、論理的に明確に「消費増税の影響分」と「アジア通貨危機と日本の銀行危機の影響分」を分けることは難しいことです。したがって、「反論するなら数字で根拠を示してほしい」という主張は学者としては乱暴過ぎますし、ご自身も「アジア通貨危機と日本の銀行危機」の影響を具体的な数字で示していないわけですから、あまり論理的な反論ではないという印象です。

消費増税に関する議論も、日本のGDPにどのくらい影響するかといった狭い範囲に止めるのではなく、もう少し世界の税制の潮流のようなものも睨みながら、幅広い議論が必要であるように思います。

昨日から日本経済新聞で、「ビジネスも人も国境を軽々と超える時代。先進国は税制の調和に乗り出したが、制度は現実に追いつけるのか」という視点から書かれた「Tax ウォーズ―攻防 最前線」という興味深い特集が始まりました。2日付の「知的財産が天王山に」では、Appleやスターバックスというグローバル企業が利用して注目を浴びた「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」といわれる、国境を越えた節税スキームで重要な役割を果たしているオランダの「イノベーションボックス税制(パテントボックス)」が紹介されています。

パテントボックスの詳細は記事を読んで頂くとして、問題は、グローバル企業は生産拠点や研究拠点など、活動拠点を世界中で最も有利な場所に設けるようになっており、その誘致に向けて世界中で優遇税制の競争がし烈を極めて来ているということです。これに伴って、グローバル企業は実際に収益を上げている地域とは必ずしも一致しない、最も税制上有利な地域に税金を納めるようになって来ています。

グローバル企業が有利な納税地という餌を求める「遊牧民」と化し、「遊牧民」を引き付けるために多くの国が優遇税制競争を繰り広げて行くなかで、国家は「雇用」という切り札を握る企業規模の大きいグローバル企業から、思うように徴税出来なくなって来ています。その結果、「遊牧民」になれず、逃げ場のない地元密着型の中小企業や多くの個人が、膨れ上がる社会保障費など国家財政の重要な担い手となり、相対的に大きな税負担を負うという流れになっています。

世界で最も早く高齢化社会を迎えた日本の消費増税議論も、こうした世界的な流れの中での象徴的な出来事だと捉えると、今の日本経済の状況が消費増税に耐えられるか、消費増税による反動がGDPでどの位になるのかという目先の議論だけでなく、グローバル企業が「遊牧民」となり、日本の国家財政が中小企業と消費者による互助会のような運営になっていくことを放置していいのか、ということも、もう少し真剣に議論されて然るべきではないかと思います。

日本の財政運営が互助会色を強めて行く中での消費税率引き上げは、「タコが自分の足を食べる」ようなもので、本質的問題の解決には繋がるとは思えません。日本で消費増税が不可避であると言われているのは、毎年1兆円規模で社会保障費が増えて行くからです。しかし、これに伴う税負担を、国内に留まるしかなく痩せ細っていく中小企業や個人に求める計画を幾ら描いても、絵に描いた餅で終わることは想像に難くありません。

消費増税による税収増といった「タコが自分の足を食べるような財政計画」ではなく、「歳入庁」の創設や「インボイス制度」の導入、そして輸出企業に対する消費税還付制度の見直しなど、これまで永田町と霞が関の論理で先送りされてきた政策に手を付けるべきではないでしょうか。

「2012年度の新規発生滞納額5935億円のうち消費税は3180億円と53.6%を占めている。国税庁が公表している消費税滞納額は地方消費税(1%)を除いた金額であるから、地方消費税を含めた実際の滞納額は3975億円ということになる」(拙著「これでも消費増税やりますか?~予断を持って議論することなかれ」より)

「日本の2012年の輸出額は63兆7476億円ですから、輸出企業には消費税5%に相当する約3.2兆円が消費税還付として支払われていることになります。2012年度の消費税収入は約10兆2000億円ですから、その31%強が輸出企業に還付されている計算になります」(拙Blog:「『増税後』の分け前を狙う下心が透けて見える有識者会合~「条件付き賛成」有識者が政府に突き付ける尤もらしい条件の中身」より)

1年間に国税庁が把握しているだけで約4000億円に達する消費税の滞納、計算上約3.2兆円規模になる輸出企業に対する還付金の引下げ。この2つを改善するだけでも、毎年1兆円規模で増える社会保障費にも十分対応できる可能性があるはずです。

「安倍首相は慎重派の意見や経済指標などにも配慮し、最終判断に向けて慎重に検討する」と報道されていますが、「経済指標」だけでなく、こうした「取りこぼしている財源」も最終判断に向けての重要な材料に加えて頂きたいと願うばかりです。

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