「詭弁」によって生まれ、「誤解」によって批判を浴びる「毎月分配型投資信託」 ~「認知されども理解はされていない」人気商品

3日から日本経済新聞で「金融商品 選ぶカギ」という特集が始まりました。そして、その栄えある第1回のテーマとして選ばれたのは、「分配金の落とし穴 元本、一部取り崩しも」という見出しを付けられた「毎月分配型投資信託」でした。「毎月分配型投資信託」が登場したのは1997年ですから、かれこれ15年以上が経過し、「株式投信の6割」を占めるほどポピュラーな商品になっているにも拘わらず、栄えある第1回目のテーマに選ばれるということは、未だに「毎月分配型投資信託」という商品が、「認知はされども理解はされていない商品」という立場にあることを表しているようです。

「毎月分配型投資信託」に対する批判の矛先は、分配金が元本の一部を取り崩して支払われることがあるところに向けられています。こうした批判は、2000年前後から「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」が大ヒットし、「毎月分配型投資信託」ブームが始まったころから、延々と続いているものです。それから15年近くが経過した今日でも、分配金が批判の対象になっているというのは、販売会社や、投信を購入する投資家の間で、投資信託の商品性に対する理解が進んでいないことを表しているようです。

「運用が悪化しても出続ける分配金、投資初心者には不思議に思えるが、投信の分配金は銀行預金の利息とは全く異なる。最初に投じた元本の一部を取り崩すことが制度上、認められているからだ」(日本経済新聞)

この記事では、「投資初心者には不思議に思えるが」という書き方で、「元本の一部を取り崩すことが制度上、認められている」という説明がされています。しかし、「制度上、認められている」という、いかにも「タコ足配当」が出来るかのような印象を与える一言の説明で済ませてしまうところに、説明者自身が「投資初心者」であることが滲み出ています。「毎月分配型投資信託」の理解が遅々として進まなかったのは、「実際には投資初心者」である人が、「名実ともに投資初心者」に対して、尤もらしく聞こえる正確ではない説明をし続けてきたことに原因があったのかもしれません。

この記事は、「制度上、認められている」の一言で片付けていますが、正しく理解してもらうためには、「会計上」の制度と、「商品分類上」の制度の両方を説明する必要があります。

まず、「会計制度」ですが、投資信託は「会計上」、投資信託全体の収益状況に関係なく、「債券などからの配当金収入等(インカム)」から「管理費用(≒信託報酬)」を差し引いた額を「分配原資」とすることができると定められています。この記事で例に挙げられているブラジル国債に投資するファンドを例にとると、ブラジルの金利は9%台、一方、「モーニングスターが調べた保有時の管理費用(信託報酬)も日本は平均1.36%」(8月27日付日本経済新聞「投信の監督強化」)ですから、ブラジル債に投資すれば、単純に言って「9%-1.36%≒7.64%」の「会計上の分配原資」を確保できる計算になります。

この「会計上の分配原資」があれば、運用成績(基準価額の動向)に関係なく「分配金」を出すことが可能なのです。この例で、元本を10,000円とすれば、その7.64%、金額にして年間約760円程度は分配可能ですから、毎月60円程度の分配金は出せることになるわけです。これに、為替や債券のキャピタルゲインがあればそれも「分配原資」に積み上げられますから、円安局面にある時には「会計上の分配原資」は積み上がっていくことになります。こうした「会計制度」が、「毎月分配型投資信託」という商品を可能にしているのです。

次に「商品上」の問題ですが、「毎月分配型投資信託」は、おそらく全てが「追加型投資信託」という商品形態になっています。「追加型投資信託」ですから、基本何時でも時価(基準価額)で追加設定、解約が可能になっています。したがって、投資家の投資元本は、同じファンドであっても購入時期によってバラバラになって来ます。

2000年4月までは、追加型投資信託は「平均信託金」という、ファンドの「想定投資元本(≒全投資家の平均コスト)」を定め、これを税法上のそのファンドの元本とみなしていました。「平均信託金」を用いると、例えば「平均信託金」が9,000円の時に、8,000円で購入した投資家が、8,800円と「平均信託金」を下回る価格で売却した場合、コストを下回って売却(損切)したと見なされ、売却益が出ても税金はかけられませんでした。一方、このファンドを10,000円で購入し、9,500円で損切をした投資家は、実際には実現損が生じたにもかかわらず、「平均信託金」を上回る価格で売却したので売買益が出たと見なされ、税金を引かれるという理不尽なことが起きていたのです。

これを改めるために、2000年4月からは、現在のように、投資家毎に投資元本を把握する「個別元本形式」が採られるようになりました。これで税法上の不平等は修正されたのですが、投資家毎に投資元本を把握することは出来ても、例えば含み益がある投資家にはその範囲内で分配金を出し、含み損を抱えている投資家には分配金を出さないというように、各投資家の投資元本に応じてファンドの分配金を決めて行く「個別分配金形式」を採用することは実務的に不可能に近いことですので、ファンドの分配金は、運用会社によって「個別元本」は考慮せずに一律に決定されることになります。

ですから、ファンドの基準価額が10,000円の時に70円の分配金を出した際には、投資元本が10,000円以下の投資家は分配金を全額「収益分配」として受け取ることになりますが、投資元本が10,000円以上の投資家は、分配金の一部または全部を「元本の取り崩し」として受け取る形になるのです。参考までに、「平均信託金」が採用されていた時代は、投資家の個別元本とは関係なく、原則、基準価額が「平均信託金」を上回っていた場合は「収益分配(有税)」、下回っていた場合は「元本の取り崩し(無税)」として処理されていました。

つまり、「毎月分配型投資信託」の分配金の一部または全部が、「元本の取り崩し」に相当する場合があるというのは、「追加型投資信託」という商品性格上、投資家の「個別元本」が投資時期によってバラバラになっているという現実によって生じる仕方のないことで、「タコ足配当」という批判は必ずしも当たらないのです。同じ「分配金」が、ある投資家にとっては「収益分配」であり、ある投資家にとっては「元本の取り崩し」になってしまうのですから。

投資信託を運用する会社や販売会社が、このような分配金の仕組みを正確に分かりやすく伝えて来なかった(伝えるための正確な知識を持っていなかった)ことで、「毎月分配型投資信託」は「タコ足配当」という必ずしも正しくない認識が、そこそこ知識を持っている専門家と称される人によって、そこそこ投信の知識を持っている投資家を中心に伝えられ、それが定着してしまったというのが実際のところです。

また、「毎月分配型投資信託」の分配金に関して正確な情報を伝えて来なかったことは、投資信託に関してほとんど知識を持たない投資家に対しても、誤ったイメージを植え付けて来ました。筆者が「毎月分配型投資信託」を運用している運用会社に在籍していた際には、「今日このファンドを購入しても、今月の分配金を受け取れるでしょうか?」という問合せが営業部門に頻繁にかかって来ていました。

こうした問い合わせは、銀行預金は1年預けないと利息が貰えないのに、「毎月分配型投資信託」なら投資したその月から分配金を貰えるから、ものすごく得をするのではないか、という錯覚に基づいたものです。

今でもこのような誤解が残っているかは定かではありませんが、こうした投資家が抱いている妄想は、ファンドの元本以外に、これまで自分以外の投資家が溜め込んだ「分配原資」が別にあり、投資するとその分け前を頂けるのではないか、というものです。しかし、残念ながらこれは全くの妄想です。ファンドの基準価額というのは、「元本」と「分配原資」を含めた収益の合計になっているからです。

例えば、「分配原資等」2,000円を含む、基準価額10,000円のファンドがあったとします。このファンドに追加設定があった場合、追加設定された10,000円は、「会計上」の「分配原資等(収益調整金)」に2,000円と、「元本部分」の8,000円に分けて計上されます。したがって、この投資家が今月受け取る「分配金」は、この「分配原資等」に振り分けられた2,000円の中から受け取るのであって、人様がこれまで積み立てられて来た「分配原資」の分配を受けられるわけではないのです。投資信託の会計は、誰かが一方的に得をしたり、損を被ったりすることがないように作られているのですから。

「毎月分配型は長期投資に向かない」「運用効率が悪く買わない」

この日本経済新聞の記事の中では、このような専門家の指摘や、長期の資産形成を目指す若者の意見が紹介されています。しかし、こうした指摘は必ずしも正しいものではありません。

例えば、ブラジル債など外貨建て資産に投資するのであれば、「毎月分配型」であろうがなかろうが、収益がブラジルレアルの動きに大きく依存するという点では同じですよね。

確かに、毎月分配を出すということは、その度に投資資産が流出して減ることですから、「投資効率」が低下する可能性があるという指摘はもっともなものだと言えます。しかし、こうした指摘は「リターンの大きさ」を基準にしたもので、「リスクの大きさ」を基準にしたものではありません。ですから、「リスクの大きさ」という基準からすると、必ずしも正しい指摘であるとは言い切れないのです。

投資リスクを小さくする一つの方法として、「回収期間を短くする」というものがあります。例えば、銀行が一般企業や個人に融資をした場合、通常数か月後から元利金返済が始まります。これは、回収期間を短くすることでリスクを抑えようという考え方です。

企業が資金調達をする手法として社債がありますが、これは満期まで元本返済をせず、利金だけの返済をすればいいという方式になっています。債券方式は、投資家からすると元本が満期日に返って来るかというリスクをより多く抱えることになりますから、信用力の高い企業でないとこの方法では資金調達が出来ないのが現実です。例えば期間30年の住宅ローンを例に挙げると、30年間金利だけ払って、30年後に元本を一括返済してもらった方が、金融機関の回収金額は多くなるはずですが、そんなローンは実際には存在しないですよね。それは、貸手にとってリスクが高すぎるからです。このような身近な例で考えて頂ければ、銀行融資方式と債券方式の「資金回収リスク」の違いがお分かり頂けると思います。

「資金回収リスク」という点において、銀行融資方式に近い「毎月分配型」は、それ以外の債券方式に近い投信に比較するとリスクが低いという見方も出来るのです。投資をする際には、「リターンの大きさ」に目が奪われがちですが、様々な「リスクの大きさ」にも目を向けなければ、片手落ちになってしまいます。「毎月分配型」とそれ以外では、「投資対象のリスク」は同じだが、「資金回収リスク」が異なっている、という認識を持つことも必要だと思います。ですから、「毎月分配型は長期投資に向かない」かどうかは、「リターンの大きさ」を基準にしてみる投資家か、「リスクの大きさ」を基準にしてみる投資家かによって、結論が異なって来て当然なのです。一概に「長期投資に向かない」と決め付けられるわけではありません。

予定より説明がかなり長くなって来てしまいましたが、最後に一つだけ付け加えておきたいと思います。

「毎月分配型投資信託」は、「会計上の分配原資(インカム-管理報酬)」を確保する必要があるために、原則はクーポンの高い外貨建債券を主要投資対象にしています。しかし、ファンドに組み入れられる資産が全て債券であったとしても、投資信託の分類上は「株式投信」になっています。

それは、「公社債投信」にしてしまうと、元本割れになった場合、追加設定が出来なくなってしまうからです。つまり、「公社債投信」にしてしまうと、為替が少し円高に振れたりしただけで追加設定が出来なくなってしまいますから、「追加型」の「毎月分配型投資信託」は商品として成り立たなくなってしまうのです。

「会計上の分配原資」を確保するためには「主要投資対象を債券」にする必要があり、「追加型」で「毎月分配」を可能にするためには、「株式投資信託」にしなくてはならないという、相反する二つの命題を解決するために編み出されたのは、約款上株式に投資出来るようにして主要投資対象を債券にするという「詭弁」を使ったのです。こうした「羊頭狗肉」が認められなければ、「毎月分配型投資信託」はこの世に生まれることはなかったのです。

「毎月分配型投資信託」は、商品設計上の「詭弁」によって生まれ、「会計上」のルールや、様々な人達の誤解と錯覚をエネルギーに拡大してきた商品であることは間違いありません。しかし、それに対する批判の多くも、その誤解と錯覚に基づいているのも事実なのです。「日本は株式投信の6割を毎月分配型が占める」ほど「毎月分配型投資信託」はポピュラーな商品になっていますが、その実、殆どの人に正しく理解されていないかわいそうな商品でもあるのです。
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