消費増税実施の判断を日銀短観で確認するのは危険です~「歴史から何も学ばなかった愚かな総理」として後世に名を残すおつもりですか?

「安倍晋三首相は3日、麻生太郎副総理・財務相、甘利明経済財政・再生相と首相官邸で会談し、来年4月に消費税率を8%に引き上げるかどうかを巡り『判断は10月上旬にする』と表明した。判断にあたっては、10月1日に発表する企業の景況感を示す日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)を『最後の経済指標として確認したい』と述べた」(4日付日本経済新聞「増税判断、来月初め」)

安倍総理は「日銀短観」の結果を確認した上で、消費増税を予定通り実施するか最終判断をする方針であることを明らかにしました。10月1日の発表される日銀短観を確認するまで「判断を先送り」にすることで、慎重な判断をする姿勢を見せたのかもしれません。しかし、日銀短観は、「最後の指標として確認」するのにあまり相応しい調査ではありません。

「日銀短観は日銀が民間企業を対象に行う景気に関するアンケート調査だ。9月に調査した内容が10月1日に公表されるため、景気の現状を把握する速報性が高い。民間エコノミストなども景気予測などで最も重視する統計の一つだ」(4日付日本経済新聞「脱デフレの道筋点検」)

日本経済新聞は、日銀短観が非常に重要な統計であるという印象を残すような解説を加えています。安倍総理が消費増税の最終的な判断材料にすると言っていますし、日銀短観は毎回日本経済新聞の夕刊1面トップを飾る数少ない統計ですから、国民の多くが、日銀短観は極めて信頼度の高い重要な指標だというイメージを持ったとしても不思議ではありません。

確かに、日銀短観は調査対象の多さ(6月調査で10,623社)などでは群を抜いておりますし、これに代わる調査はありませんから、貴重な調査であることはその通りだと思います。しかし、その数字の信頼性は、ディーラーの売買の材料としては十分かもしれませんが、消費増税の最終判断に利用出来るほど高いものではありません。

今回、安倍総理が日銀短観を消費増税の判断材料にすると発言したことに関して、幾つかの懸念を感じています。

一つ目は、日銀短観は、企業マインドという数字的裏付けのない極めて曖昧なものをアンケートで集めて指数化したものだということです。数字的裏付けの必要のないアンケート調査ということは、調査結果を操作することは十分に可能な調査だということでもあります。そして、安倍総理が消費増税実施の最終判断に際して10月1日に発表される日銀短観を確認すると述べたことによって、日銀短観の結果が意図的に操作される可能性を高めてしまったことが危惧されるのです。

ご存知のように、財界は日本を代表する大企業の集まりである経団連を筆頭に、消費増税を予定通り進めるべきだという立場にいます。それは、計算上3兆円を超えると見られる消費税の還付金の多くが、経団連企業に渡るからだとも言われています。そして、自民党はこの経団連など財界の支持を得て政権を取り戻しているという現実があります。

もし、安倍総理が、財界に押し切られた形で消費増税の予定通り実施を決めることを避けたいと考え、財界も安倍総理に圧力をかけたように見えない形での消費増税実施を望んだとしたら、数字的な裏付けの要らない日銀短観というアンケート調査は、両者にとって極めて都合の良い統計ということになるのです。

日銀短観で最も重要視されているのは、社数の面では調査対象の1割強(6月調査では、調査対象企業数10,623社のうち大企業製造業は1,157社)を占めるにに過ぎない「大企業製造業の業況判断DI」です。もし、経団連企業などが示し合わせて、業況判断を「良い」と答えることにすれば、「大企業製造業の業況判断DI」を高くすることは十分可能なことです。経営陣が回答を担当する部門に一言釘を刺せばいいだけですから。

10月1日に発表される日銀短観のアンケート調査は、今月一杯かけて実施される予定になっています。ちなみに、7月1日に発表された日銀短観の回答期間は、5月28日 ~ 6月28日でした。つまり、3日の安倍総理による消費増税実施の最終判断材料として日銀短観を確認したいという発言は、消費増税を予定通り実施するべきだという立場に立つ大企業に、自分たちの意思で「大企業製造業の業況判断DI」を高くする動機を与えると同時に、タイミング的に絶妙だったということになるのです。

下駄を履かせて「大企業製造業の業況判断DI」を高くすることで、安倍総理が「信頼性の高い客観的な調査」である日銀短観の結果に基づいて、客観的に消費増税実施を決断したという演出が出来れば、政府にとっても財界にとっても好都合この上ないということになるはずです。

こうしたことが起こり得るのは、日銀短観の結果のなかで、「大企業製造業の業況判断DI」が必要以上に重要視されていることです。

大企業に対するアンケート調査は、どの部署の誰が回答するかによって、かなりばらつき、必ずしも会社の総意が反映されていない可能性があります。これに対して、調査対象の過半を占める中小企業(6月調査では、調査対象企業数10,623社のうち中小企業は5,421社)は、経営者が自らの景況感に基づいて回答する場合が多くなりますから、より現実の景況感が示されているといえます。

例えば、7月1日に発表された日銀短観では、「大企業製造業の業況判断DI」が+4と2期連続で改善し、2011年3月調査(+6)以来の高水準になったことが大々的に報じられました。4日付の日本経済新聞も「7月に公表した前回の6月短観では、幅広い業種で景況感が回復した」と伝えています。

しかし、「中小企業の業況判断DI」は、製造業が▲14(3月調査比+5)、非製造業が▲4(同+4)と、依然としてマイナス圏に沈んだままでした。さらに、6月時点での「先行き」も、製造業で▲7、非製造業で▲4と、決して「幅広い業種で景況感が回復した」とはいえない結果になっていたのです。つまり、6月調査の日銀短観で明らかになったことは、アベノミクスの恩恵が大企業にしか届いていなかったということだったのです。しかし、こうした景気の現状について、消費増税の旗振り役になっている新聞が積極的には報じることはありませんでした。

1997年4月に橋本内閣は消費税を3%から5%に引上げましたが、消費税率を5%にすることが決定されたのは1996年6月の閣議でした。それは、1996年6月調査の日銀短観では「大企業製造業の業況判断DI」は+5と、1991年12月調査以来のプラスを記録し、大企業を中心に景況感に回復の兆しが出始めた時期でもありました。一方、1996年6月調査の「中小企業の業況判断DI」は、全産業で▲11、製造業で▲19と、1991年12月調査以降すっとマイナスを記録し続けており、中小企業まで景況感の回復は及んでいないという、現在と同じような状況にあったのです。

橋本元総理が日銀短観を消費税引き上げの判断材料にしたかは定かではありませんが、結果的に「大企業製造業の業況判断DI」は1997年12月調査以降2000年6月調査までマイナス圏で推移し、「中小企業全産業の業況判断DI」は1992年6月調査以降、2013年の6月調査まで、一度も明確にプラスに転じたことはない状況(2006年12月調査及び2007年3月調査で2期連続「0」を記録したことはある)を招くことになりました。橋本内閣は、結果的に「大企業製造業の業況判断DI」がプラス圏まで回復したことを以て消費増税に踏み切るという大きな判断ミスをし、日本経済を窮地に陥れてしまったのです(「日銀短観 業況判断DIの推移」のチャートはこちらから

安倍総理率いる自民党は、7月の参院選で「ねじれを解消し、(景気回復の)実感を皆さまの手に届けたい」と訴えて圧勝しました。もし、安倍総理が「(景気回復の)実感を皆さまの手に届けたい」と今でも強く思っているのであれば、消費増税実施の最終判断材料として日銀短観を確認する際には、大企業の経営者の意向によって歪められている可能性のある「大企業製造業の業況判断DI」ではなく、経営者の実感をより強く反映した「中小企業の業況判断DI」を重要視した方が賢明だといえるのです。

さもないと、安倍総理の「(景気回復の)実感を皆さまの手に届けたい」という夢が幻で終わるだけでなく、安倍総理は、橋本元総理と同じ過ちを犯した「歴史から何も学ばなかった愚かな総理」として後世に名を残すことになるかもしれません。


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