本当に「国民の痛みを先送りした」のか ~「結果」を伴わない「なかなか世の中には通らない」消費増税推進派の主張

「来年4月の消費増税に向けた経済対策の大きさをめぐる論争が熱を帯びている。争点の一つは『経済が成長したときに、税収がどれだけ増えるのか』。この議論が繰り返される背景には、国民の痛みを先送りしたがる政治の姿勢がある」(16日付日本経済新聞 :エコノフォーカス 「増税か成長か」議論再燃)

「過度な税収期待に違和感」という小見出しを付けられたこの記事は、「増税か成長か」という議論が繰り返されるのは、「国民の痛みを先送りしたがる政治姿勢」に原因があるかのような指摘をしています。しかし、この記事の「国民の痛みを先送り」という主張には「違和感」を覚えます。本当に「国民の痛み」は「先送り」されて来たのでしょうか。

名目GDPは、1997年の523.2兆円から先日発表された2013年4-6月期の二次速報値の480.4兆円まで、金額で42.8兆円、率にして▲8.2%縮小して来ています。そして、その間賃金指数(年平均)は113.6から99.1まで、▲12.8%低下して来ています。名目GDPが1997年から直近まで年率▲0.53%縮小する中で、賃金指数は年率▲0.91%と、GDPを上回る低下となっているのです。さらには、非正規雇用者の比率は36.2%に達し、年収400万円未満の世帯の比率は1995年の33.8%から2011年には45.6%と大幅に増加して来ています。こうした動きを反映する形で、所得税は1991年の26.7兆円から2013年度13.9兆円(予算ベース)へとほぼ半減して来ており、税収不足の大きな原因になっています(一連のチャートはこちらから)。

このような統計を「予断無く」みれば、これまでの政治は「国民の痛みを先送り」して来たのではなく、「国民に先に痛みを押付けて来た」という結論に至るのではないかと思います。

これまで「痛みを押付けられて来た」にもかかわらず、「景気回復」、「雇用環境改善」、「社会保障制度安定」が「先送り」されて一向に実現しないというのが多くの国民が感じている本音なのではないでしょうか。

「『増税や歳出削減に反対する人たちが、根拠を探して高い税収弾性値を持ち出す』と論争を冷ややかに見る」(同)

この記事は「専門家」のこうしたコメントを紹介していますが、財務省や参議院の委員を務めて来た「利害関係者」である専門家のコメントを、如何にも客観的、中立的な意見として紹介するその感覚にこそ、多くの読者は「違和感」を覚えるのではないでしょうか。

消費増税推進派の有識者は、最近、「消費増税を先送りした場合に生じる財政再建に対する信認低下による長期金利上昇は『コントロール出来ないリスク』であり、消費増税を予定通り実施した際の景気鈍化は『コントロール出来るリスク』であり、『コントロール出来ないリスク』はとるべきではない」というフレーズをよく使っています。15日に放映されたNHKの討論番組の中でも政府の「利害関係者」の一人であるエコノミストがこのような主張をされていました。

 【参考記事】 しっかりとした論理構成が浮き上がらせた「我田引水」の前提と、消費増税推進派にとっての「コントロール出来ないリスク」   

しかし、こうした主張はでたらめとしか言いようがありません。もし、景気悪化が「コントロール出来るリスク」であるのであれば、何故日本は15年間もデフレ経済に苦しみ、「失われた20年」に見舞われたというのでしょうか。政府が日本をデフレ経済に誘導、コントロールしていたというのでしょうか。過去の実績が物語っている唯一の結論は、「景気悪化はコントロール出来ないリスク」だということ以外にありません。

安倍総理は東京オリンピック招致の最終プレゼンで、汚染水問題に関して「the situation is under control」という事実とは異なる発言を世界に向けてされました。この発言に対して批判も上がっていますが、東京オリンピック招致というめでたい結果が伴いましたから、今のところ、国内的にはそれほど大きな問題にはなっておりません。しかし、消費増税の予定通りの実施を訴える「利害関係者」である専門家達が繰り返す、「景気はunder control」という嘘は、国内の景気悪化を招くだけで、見返りの無い嘘でしかありません。

「政治は結果なんですよ。出していない結果に対して、後で出した人に対して『そんなの俺たちだってできた』って言っても、これはなかなか世の中には通らないのではないか」

2月28日の衆議院予算委員会の集中審議で、安倍総理は民主党の玄葉前外務大臣に対してこのような厳しい発言をされました。

安倍総理のこの言葉を借りれば、この15年間に名目GDPが▲8.2%縮小した「結果」を重要視する限り、消費増税推進派の有識者達が繰り広げる「景気悪化はコントロール可能なリスクだ」という主張は「なかなか世の中には通らない」ものということになりそうです。

「出していない結果に対して『景気悪化はコントロール可能なリスクだ』といっても、これはなかなか世の中には通らないのではないか」

安倍総理が消費増税推進派の妄想に対して、このような厳しい言葉を投げ掛け、「増税か成長か」という論争に終止符を打つことが出来れば、オリンピック招致と相まって、世の中は明るさを取り戻すかもしれません。

ちなみに、世界においては先日の「G20サンクトペテルブルク・サミット首脳宣言」において「成長の強化と雇用創出が最優先課題である」と明記されたことで、この議論には決着がついており、「成長より増税」という消費増税推進派の主張は「ガラパゴス化」したものになっています。つまり「増税による財政再建は不可能」というのが世界のコンセンサスになっているのです。「国を開く」ことが求められる今日、消費増税推進派は、「増税より成長」に向かう世界の潮流に逆らってでも「成長より増税」にこだわり続けるのでしょうか。


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コメント

質問がございます

今日もまた、あまりにも激しく同意できるお話で、思わずニヤけながら読ませていただきました。

そのNHKの番組は私も観ていました。

近藤様に質問がございます。
「長期金利が急上昇したら、政府も日銀も手の打ちようが無い。そうなれば住宅ローンの金利も跳ね上がってしまう!
もし4%くらいになったら払えなくなるでしょう?」

などという“脅し文句”がありますが、長期金利の上昇はある程度コントロールできるものですよね?
そして、国債の金利と住宅ローンの金利だけが上がることも無いですよね?

みさか明様
お世話になっています。拙記事をお読み頂けたとのこと、ありがとうございます。
長期金利(国債)市場のプレーヤーは殆どプロばかりで、一般の方には馴染がないので、「有識者達」をそれをいいことに適当なことを言っているというのが実態だと感じています。「〇×総合研究所」という肩書のおかげで専門家っぽく見えているかもしれませんが、実際には「有識者達」も金利市場に参加したことがある人は殆どいませんから、金利動向に関しては殆ど素人同然で、素人が素人に偉そうに講釈を垂れているという構図です。相手が素人なので自分達が素人であることがバレないって感じですね。
問題はどのような状況を「コントロール出来る」といっているのか、全く定かではないところです。小生は、「経済も市場も継続的にコントロールすることは出来ない」という立場です。短い期間をとれば、景気も市場もコントロール出来ているように見える局面はありますが。
日本は過去15年間、景気はコントロール出来ませんでした。その結果、長期金利は足下で0.7%台です。景気をコントロール出来なかった結果として生じた長期金利の低下を、「長期金利をコントロール出来ている」と言うのでしょうか。
正直、小生はNHKの番組はチャンネルを変える時にチラ見しただけです。たまたま「大●総研の熊×」というとんでもない輩のコメントが耳に入ったのですが、「もし4%くらいにになったら(住宅ローンを)払えなくなるでしょう?」などというとんでもない発言があったんですか。絶句してしまいます。
もし、消費増税を予定通りに実施しないことで長期金利が上昇する可能性があるのであれば、「有識者達」は消費増税が決定するまで住宅ローンを組んではいけないと言うべきではないでしょうか。また、消費増税実施に伴う景気腰折れのリスクを、景気対策などで下支えするべきではないと主張すべきでしょうね。本当に消費増税を実施しても景気が腰折れしないのであれば、長期金利は間違いなく上昇しますから、住宅ローン金利が4%になるのはあっという間です。
「御用有識者達」の主張が正しければ、消費増税を先送りにすれば財政に対する信認低下から長期金利が上昇し、消費増税を実施しても景気の腰折れを防げるのであれば、景気に対する信認から長期金利は上昇することになります。つまり、彼らの主張が正しければ、どっちに転んでも長期金利は上昇することになるわけです。消費者からすれば、それが財政不安から来る「悪い金利上昇」であっても、景気に対する信頼から来る「良い金利上昇」であっても、結果は同じになるということです。まあ「良い金利上昇」であれば、支払い能力が保たれる可能性が高まる分マシと言えばマシですが、その時の金利水準は4%などでは収まらないはずですから、支払い能力が高まっているとは断言できませんが。1990年前後はインフレ率≒0%で長期金利は7~8%台でしたし。
金利市場が平常に保たれていれば、住宅ローン金利だけが上昇するということは基本的にありません。金融的にはスワップや証券化でヘッジ可能ですし、証券化する際には「大数の法則」が効きますから。

ご返信、有難うございます

近藤駿介 様


お忙しいところ、ご返信くださり有難うございます。
このお話も勉強になります。

そうです!その「大●総研の熊×」が監修したVTR
「“ウチは国債の金利なんて関係ないよ”と思っている人、住宅ローンの金利も急上昇するんですよ?!仮に今の毎月の返済額が7万円の場合、国債の金利が4%になれば返済額は11万円になります。」
というようなものが流れました。
あれじゃあ不安になります。
あの番組を鵜呑みにすれば「苦しいけど、消費税増税はしょうがない。早くやらないともっと大変なことになる。」と考えるのは当然です。

“せんもんか”達があまりにも自信満々で言っていましたが、やはり単なるポジショントークでしたか。
甘利大臣概ね同調していましたが・・・あの人も“ちょっと”と私は失礼ながら思っています。
しかしこの「長期金利が急上昇し、住宅ローン金利も急上昇し~」という話は、他にもしばしば見聞きします。
連中の“不安を利用するやり方”が腹立たしいです。

「大●総研の熊×」は、最近マスメディアに登場する機会が多いです。“出世街道”に乗っているのかもしれません。
『法人税減税と成長戦略をしっかりやれば、消費税増税しても景気悪化は“小雨”程度で済む』とも言っていました。

最近はTVのコメンテーターや、財務省の委員など政府関係の役職にも就いてますから、完全な「利害関係者」ですね。「長期金利が上昇し、支払いも増える」のは、「変動金利」で借りた場合ですよね。もし、そうしたリスクがあるのであれば「長期固定金利で借りなさい」とアドバイスするのが金融のプロとしての取るべき行動だと思います。「長期固定金利」の方が金利水準が高いから不利だという考えもありますが、「変動金利」に比べて高い長期固定金利で返済が難しい人には、そもそも住宅購入を煽ってはいけないんです。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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