「目利き力」が退化した新聞が報じる「目利き力」向上による中小企業向け融資増

日本を代表する経済紙のレベルがここまで落ちたのかと、愕然とさせられるような記事が掲載されました。

18日から、日本経済新聞で「反転うかがう中小企業」という連載記事が始まりました。栄えある第1回目は「融資増加の足音 景況感上向き投資意欲」という記事だったのですが、この記事は高校生のレポートにも劣るような内容で、愕然とさせられるものでした。

「『この会社の強みは何や。社長にもういっぺん聞いてこい』。中小企業が集まる大阪府守口市のりそな銀行支店。昨年11月から週1回、融資担当者が上司、同僚の前で担当企業をプレゼンする会議を始めた。質問に答えられなければ、再び企業に足を運ぶ。顧客の将来性を見抜く『目利き力』を磨く取り組みだ。効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」

この記事は、銀行による「目利き力を磨く」取り組みが、新規融資額を前年同期の2倍にする原動力となった事例の紹介から始まっています。長年投融資業務に携わって来た人間としては、「昨年11月から週1回」開かれる会議で「目利き力」を磨いたことが、僅か1年足らずで「効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」という結果を生んだと決め付ける「おめでたさ」に、まずは感心させられてしまいました。

これまで中小企業向け融資が伸びなかった原因が、銀行の「目利き力の低さ」によるものだったとしたら(少なくともこの銀行はそう感じたから「週1回の会議」を始めたはずです)、「(目利き力の低い)上司、同僚の前で担当企業をプレゼンする会議」によって、「目利き力」が短期間で養われるものでしょうか。大いに疑問です。

中小企業の決算は、利益の出ている企業は税金を少なくするために売上を小さく、経費を多く計上する傾向が強いですし、逆に資金繰りが厳しく融資を必要とする企業は売上を大きく見せようとしたり、経費を小さく見せたりする傾向が強く、広い意味でほとんど「粉飾決算」といえるような状況になっています。「半沢直樹」でも、2重帳簿をつけている企業が登場していますが、それはレアケースだとしても、辻褄が合わない決算資料は世の中にはごまんとあるといっても過言ではありません。

自らの経験からいうと、半年やそこら「週1回の会議」をやった位では、厚化粧された企業の素顔を見破れるようになれればいい方ではないでしょうか。「目利き力」はここから先の話しですから、とても短期間で「効果てきめん」にはならないのが普通です。この新聞社は「週1回の会議」なしでも「優秀な記者」を育て上げられているので、「週1回の会議」で「目利き力を磨ける」と思い込んでいるのかもしれません。

さらに、「効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」と、「新規融資額」を基準に「効果」を図ろうとするところに、メディアと一般企業の大きな乖離を感じてしまいます。

「半沢直樹」でお馴染みになったと思いますが、通常のビジネスでは売上金(金融では融資金)の増加は「入口」に過ぎず、資金の回収が完了して初めてビジネスとして完結することになるのです。従って、「新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」というのは「入口」段階の話しに過ぎず、収益を生むネタが増えたという面では好材料ですが、ビジネスとしての「結果」を図れるものではありません。日本経済新聞が、「入口」の話しだけで「効果はてきめん」と大袈裟に報じるのは、主張をするだけで、その「結果」を検証する必要ない「入口」だけのビジネスをし続けている弊害かもしれません。

この記事のおかしなところは、これだけ「目利き力」の重要性とその「効果」を語っておきながら、その主張の根拠を自ら否定してしまっているところです。

「反転の足音の裏側には日銀の異次元緩和がある。マネー流入で不動産価格が上がり、融資担保としての価値も上昇。銀行の企業への貸し出し余力が増した。あるメガバンクは担保の不動産が評価額を上回る高値で売れたのをきっかけに、5月に担保の評価基準を緩め、融資枠を広げた」

つまり、「効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」のは、銀行員の「目利き力」の向上によるものではなく、「大胆な金融緩和」によって担保となる不動産の評価額が上昇し、融資可能金額が増えただけのことだったということを示唆しているのです。金融機関の「目利き力」が短期間に改善することは期待し難いことですが、不動産など担保の評価額が短期間に上昇することは十分にあり得ますから、「効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」原因としては、こちらの方が説得力は高いと思います。

不動産の担保評価額の向上であっても、中小企業にまで必要な資金が行き渡るのであれば、それはそれで結構なことでもあります。心配になってしまうのは、「目利き力」を磨いたことで「効果はてきめん。2013年度の新規融資額は前年同期の2倍に伸びた」と言及した直後に、「マネー流入で不動産価格が上がり、融資担保としての価値も上昇。銀行の企業への貸し出し余力が増した」と、自らの主張を否定するかのよう構成になっている記事を掲載する新聞社の編集、チェック能力です。一般企業では、このようなレポートは書き直しさせられるのが普通ではないかと思います。

政府やスポンサー企業に都合のいい記事を書くことを優先して来たことで、この新聞社は、掲載する記事を決める「目利き力」が退化してしまったのかもしれません。購読者の一人としては、退化してしまった新聞社としての「目利き能力」を、「週1回の会議」を開いてでも、出来るだけ短期間で「効果てきめん」といえるくらいまで回復して頂きたいと願うばかりです。


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