FRBは何故緩和縮小を先送りしたのか ~ バーナンキFRB議長が発したオバマ大統領に対する警告

なかなか意味深なFOMCでした。

「経済がわれわれの一般的な見通しに一致しているか確認できる証拠を得るため、もう少し待つというものだ」(ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」 )

FRBは17、18日2日間のFOMCで、QE3を維持する方針を決定しました。マーケットは100億ドル程度の規模縮小を想定していましたから、今回の「緩和縮小見送り」という決定は、サプライズとなりました。

バーナンキFRB議長の会見での発言から想像されることは、FRBは「Plan‐DO‐See‐Check」サイクルの「See‐Check」の部分がまだ不十分だと判断しているということです。「Plan‐DO」の段階で、「See‐Check」をすっ飛ばして消費増税実施を目指す日本の一部の勢力にも、是非FRBのこうした慎重さは見習って欲しいものです。

それはさておき、今回の声明文で個人的に気に掛かったのは、次の部分です。

「but the tightening of financial conditions observed in recent months, if sustained, could slow the pace of improvement in the economy and labor market」
「過去数カ月に金融状況の引き締めが見受けられ、継続すれば経済および雇用市場の改善ペースを減速させる可能性がある」(和訳は「ロイター:米FOMC声明全文」)

FOMCの声明文は、毎回ほとんど同じフォーマットになっているのですが、このパラグラフはこれまでの声明文のフォーマットにはなかった部分です。そこで、「過去数カ月に金融状況の引き締めが見受けられ」(Bloombergは「金融の逼迫」というかなり強めの表現を使っています)と、ここ数ヶ月間の長期金利の上昇によって、金融状況が「引き締め」になっていると強い懸念を表明しています。このパラグラフを新たに加えたところに、長期金利の上昇に対して、FRBがかなり強い警戒感を抱いていることを強調する意図を感じるのです。

そもそも米国の長期金利が上昇ピッチを速めたのは、バーナンキFRB議長が5月22日の議会証言で、QE3の規模縮小に言及したからです。バーナンキ議長の発言を受け、当時2%弱であった米国10年国債利回りは、直近では一時3%を付けるところまで上昇して来ました。

「住宅市場については状況を注視したい。ただ、現時点でこれまでと異なる重要な点の一つは、国民が住宅についてより楽観的になっており、住宅価格が今後も上昇すると予想していることだ」(2013年6月20日ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」)

QE3の規模縮小に言及した議会証言の1か月後に開かれた6月のFOMC後の記者会見では、バーナンキ議長は「低過ぎるインフレは問題だ」とデフレへの警戒感を表明する一方、このように発言し、低インフレ下での住宅価格の上昇に強い警戒感を示していました。

それから3か月が経ちましたが、その間米国のインフレ率(コアPCE)は前年同月比+1.2%程度で推移するなか、住宅価格は約7.4%上昇(S&Pケースシラー20都市住宅価格指数ベース;現在6月分まで公表済⇒チャートはこちらから)、前年同月比では4か月連続で2桁の上昇を記録しているのです。住宅バブルの再来を懸念していた議長が、住宅価格が前年比で2桁の上昇を見せる中で、長期金利上昇によって「金融状況が引締めになっている」ことに懸念を表明するように変って来ているのです。本来ならば、住宅価格の上昇が金利上昇を起こしているのであれば、それは住宅バブル発生のブレーキ役になっているということですから、容認してもおかしくないはずです。実際に、バーナンキ議長はFOMC後の記者会見で、「いくつか要因があるが、1つは景気改善だ。それが国内外で金利が上昇している理由の1つだ。金融市場の引き締まりが見通し改善を反映している限りは望まいことで、問題はない」(ロイター)と発言しています。

それにもかかわらず、何故わざわざ新たなパラグラフを追加して長期金利の上昇を「金融引締め/金融逼迫」だと強調するかのような演出をしたのでしょうか。住宅を除くインフレ率が低過ぎること、住宅以外のセクターの経済活動が弱すぎるという経済的理由があったと考えるのが普通かもしれません。しかし、下衆の勘繰りかもしれませんが、個人的にはそうした経済的理由に加え、「誰にもQE3の規模縮小ペースを速めさせない」というバーナンキ議長の強い意思が込められているような気がしてなりません。

「いくつか要因があるが、1つは景気改善だ。それが国内外で金利が上昇している理由の1つだ。金融市場の引き締まりが見通し改善を反映している限りは望まいことで、問題はない。一方で、金融政策に関する見方も要因だ。だからこそ確実に正確な情報が伝わる必要があり、コミュニケーションが極めて重要となる。われわれは今後どのように行動し、何に基づいて行動するのか、最善を尽くして説明する必要がある」(ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」)

この「一方で、金融政策に関する見方も要因だ。だからこそ確実に正確な情報が伝わる必要があり」というところからは、この数ヶ月間の長期金利の上昇は、「正確な情報が伝わらなかったこと」にも原因があると強調している印象を受けるのです。それは、「次期FRB議長にサマーズ元財務長官が有力」という報道を指しているように思えるのです。

つまり、QE3の効果に疑問を抱いているサマーズ元財務長官が「次期FRB議長に有力」という「結果的に誤った情報」が流れたことが、市場のQE3の規模縮小・終了がバーナンキ議長が5月に示したスケジュールより早まるという「金融政策に関する見方」に影響を及ぼして、長期金利の上昇を招いたと言っているように聞こえるのです。

「われわれは経済の緩みの程度を予知することにおいて、多少なりともうまくやってきた。失業率の予想などは、成長に関する予想よりも当たっている」(ロイター)

来年1月に任期が切れることも影響しているのか、バーナンキ議長は珍しく自己賛辞とも取れるような発言もしています。そして、

「資産買い入れプログラムはあらかじめ決まった道筋ではない。買い入れペースに関するFOMCの決定は引き続き、経済見通しやFOMCが想定する同プログラムの効果やコスト次第だ。今回の会合で資産購入ペースを小幅縮小することが適切かどうかを見極めるにあたり、資産買い入れの縮小を正当化する基本見通しを経済指標が十分に裏付けていないとの結論に至った。さらに、ここ数カ月見られる金融状況の急激な引き締まりが成長を鈍化させる恐れがあることが懸念される。状況がさらにひっ迫すれば、懸念はさらに高まるだろう」(ロイター)

と発言し、QE3の規模縮小は、その政策に対する個人的見解に基づくべきではなく「経済指標の十分な裏付け」があるか否かで決定すべきだと強調しています。前の「われわれは今後どのように行動し、何に基づいて行動するのか、最善を尽くして説明する必要がある」と主張することで、これまで「多少なりともうまくやってきた」バーナンキ体制での金融政策の継続の必要性を強調しているように感じます。

今回バーナンキ議長が、この数カ月間金利上昇に関して、「金融状況の引き締まり」だと強調したのは、後任のFRB議長には、「今後どのように行動し、何に基づいて行動するのか」という点で不確実性の高いサマーズ元財務長官などQE3の早期終了を目指す人物をつけてはいけないという、オバマ大統領に向けてのメッセージが込められていたように思います。

おりしも、来年2014年のFOMC投票メンバーには、ブロッサー(フィラデルフィア連銀総裁)、フィッシャー(ダラス連銀総裁)、コチャラコタ(ミネアポリス連軍総裁)という「タカ派3兄弟」が加わることになっています。こうしたFOMC内でのパワーバランスが変化するときに、議長までがタカ派に近い人物が就くことになれば、FRBの政策の継続性が失われる可能性もあり、それが金融市場の混乱を招く原因になりかねませんよ、というオバマ大統領に対する警告だととれば、筋が通るような気がします。

今回のFOMCは、「QE3規模縮小先送り」というどころか、バーナンキ議長が自分の任期中には規模縮小は実施しないと宣言しているようにも受け取れるものだったのは、オバマ大統領に対して強いメッセージが込められているからかもしれません。

シリアへの軍事介入の可能性が薄れ、QE3の規模縮小も先送りされることが決まった今、金融市場で見えているリスクは、「債務上限の引き上げ問題」と、「FRB議長の後任人事問題」になっています。債務上限の問題は政治マターですから、金融面においてはFRB議長の後任人事が最大の不確実性といえます。

こうしたなかでバーナンキ議長は、「これまでうまくやって来た」自分のやり方を否定するようなQE3の早期縮小を主張する人物を選んだ場合、あるいはそれを画策しているという情報が市場に流れるだけで、長期金利上昇などを通して景気への悪影響が出ることを、オバマ大統領に伝えたかったのではないでしょうか。

目指すのは自らの続投か、イエレン副議長の昇格なのか定かではありませんが、今回の「緩和縮小の先送り」という決断は、一日も早く金融政策の継続性を維持することの出来る後任人事を発表することが、「金融状況の引き締め」を生まないための「最良の決断」だとする、バーナンキFRB議長のオバマ大統領にあてたメッセージだったと受け取るべきではないでしょうか。こうしたメッセージがオバマ大統領に正しく伝わるのか、これが金融市場にとって当面の最大のポイントになるかもしれません。


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コメント

はじめまして。
これは<span style="background-color:#FFFF00;">バーナンキ</span>の完全な逃げです。断言します。キセル改革だと思います、彼のやってる経済政策は。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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