高い実効税率が企業収益を圧迫する…?~ 覚悟をもって抜本改革に臨むべきなのは御社です

ここまで来ると冗談の域を超えて、国民をバカにしているのではないかと疑ってしまいます。

「高い実効税率が企業収益を圧迫し、雇用や賃金を抑制し続ける」(20日付日本経済新聞「法人減税 個人にも恩恵」)

「高い実効税率が企業収益を圧迫」するんですか・・・?

当り前のことですが、税金というのは「収入」から「支出」を差引いた「利益」(税務上の「課税所得」)に対して課せられるものです。会計上、企業利益には「売上総利益(粗利)」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前利益」、「当期純利益(税引後利益)」の5段階あります。そして、「雇用や賃金」は、「営業利益」段階で「支出」として反映されており、「雇用や賃金」が増加すれば「営業利益」は減ることになります。そして、それに連動して「経常利益」以下の「利益」も減少することになります。

企業会計と税務会計には若干差がありますが、法人税算出のもとになる税務上の「課税所得」は、企業会計上の「税引前利益」に近いものです。企業が納めなくてはならない法人税は「課税所得≒税引前利益」×「税率」ですから、「高い実効税率」が圧迫する可能性のある「企業収益」は、「当期純利益(税引後利益)」だけだということになります。

そして、この税金を払った後に残る「当期純利益」がどのように使われるかというと、「利益準備金」として内部留保されたり、「配当金」として株主に還元されたり、「役員賞与金」として経営者に対するボーナスに充てられるものなのです。資本主義社会では当然のことですが、税金を支払った後の「当期純利益」は株主と経営者に分配される仕組みになっています。

つまり、仕組み上、「高い実効税率」が直接圧迫するものは、日本経済新聞が主張する「雇用や賃金」ではなく、「配当金」と「役員賞与金」なんです。会計上の「税引前利益」を多く出しても、「実効税率」が高ければ、税金を多く持ってかれてしまいますから、株主と経営者で山分けする原資である「当期純利益」は減ってしまうことになっているのです。

さて、株主と経営者が山分けする原資となる「当期純利益」を増やすためには、2つの方法があります。

一つは、「実効税率」の引下げによって「当期純利益」を増やことです。「実効税率」が下がれば、「税引前利益」が同じであっても、支払う税金が減りますから「当期純利益」が増えることになります。しかし、「実効税率引下げ」は企業努力ではなく政治マターですから、財界首脳達は「実効税率引下げ」を実現すべく政府に働きかけるという「企業努力」を続けているのです。

もう一つは、「営業利益」段階で経費として計上されている「雇用や賃金」を減らすことで、「税引前利益」そのものを増やすというものです。「税引前利益」が増えれば、「実効税率」が高いままでも「当期純利益」は増えることになります。この「雇用や賃金」の引下げは、企業努力で出来るものですので、これまで企業はこれを引下げるべく「企業努力」を続けて来たのです。

簡単に言ってしまえば、「実効税率」の引下げは、「税引前利益」を増やさなくても、株主と経営者に対する分け前を増やすことを可能にする政策だということです。もし多くの経営者が聖人君主であれば、「実効税率引下げ」という経営努力を伴わずして増加する自らの取り分を、「雇用や賃金」に回す(これによって「営業利益」、結果的に「税引前利益」を減らすことで自らの取り分を「実効税率引下げ」前と同じ水準に保つ)ことを考えるかもしれません。

ようするに、「法人実効税率の引下げ」は直接「雇用や賃金」に影響を及ぼしませんから、経営者の慈悲深い思し召しがなければ、「実効税率の引下げ」が「雇用や賃金」の増加に繋がることを期待することは出来ないのです。日本経済新聞の「高い実効税率が企業収益を圧迫し、雇用や賃金を抑制し続ける」という主張は、「実効税率」が高過ぎることによって経営者の取り分が微々たるものになってしまっており、「慈悲深い経営者」が「雇用や賃金」を増やせないでいると言っているのと等しいものです。

では、法人税の「実効税率の引下げ」を主張する日本の財界首脳たちの慈悲深さに期待をかけて良いものでしょうか。残念ながら、現実を見る限り期待は出来そうもありません。

「法人実効税率引下げ」を求める経団連の米倉会長が代表取締役会長を務める住友化学の業績を見てみましょう。住友化学の「当期純利益(連結)」は、2011年3月期244億円をピークに、2012年3月期56億円、そして2013年3月期は▲511億円と、大幅減益となっています。しかし、2011年3月期に1億円未満であった米倉会長の報酬は、2012年3月期には1億2200万円、2013年3月期には1億1300万円と、業績と反比例する形で1億円を突破して来ているのです。その間、住友化学の一株当たりの配当金は、2011年3月期、2012年3月期の9.0円から、2013年3月期には赤字転落を受け6.0円へと3.0円引下げられています。つまり、株主と経営者の分け前の原資である「当期純利益」が減る中、株主への分配を減らすことで経営者の取り分を確保している形になっているのです。

しかも、住友化学の2013年3月期の決算は、「雇用や賃金」を増やせるような経営状況にはないことを演出するためのアリバイ工作を行ったのではないかという疑念を感じさせるものでもあり、とても「実効税率の引下げ」で「雇用や賃金」を増やす意思があるような経営が行われているとは思えないものとなっています。

【参考記事】
アベノミクス成功のために必要なもう一つのタブー ~「私の考えを理解して賃上げを実行する財界首脳」

このような、とても聖人君主とは思えない経営者がリーダーを務めている財界が、「法人実効税率の引下げ」を政府に求めても、それは「雇用や賃金」を増やすためではなく、経営者が企業利益を伸ばさなくても自分達の取り分を確保出来るようにするためだと思われても仕方ない状況にあるのです。

「結果が全て」という安倍総理ならば、「実効税率の引下げ」を訴える企業経営者達が行って来た「結果」をみれば、「(雇用や賃金を増やすという)結果を出す気のない人が、『実効税率の引下げ』があれば結果を出せると主張するのは、なかなか世の中には通らない」と言い放っても不思議はないのです。

日本経済新聞は、「復興法人税終了後も日本の法人実効税率は30%台半ばで世界的にみて高止まりしている」と指摘し、世界標準に合う水準まで日本の法人実効税率を引下げるべきだという見解を示しています。しかし、今、G20やIMFが、世界経済を支える役割を期待しているのは、米国と日本だということを忘れてはいけません。そして、世界経済を支える役回りを期待されている日米両国の法人実効税率は、米国40.75%、日本35.64%(ともに財務省HP「法人所得課税の実効税率の国際比較」より)と、奇しくも「世界的にみて高止まりしている国」の2トップとなっているのです。

「高い実効税率が企業収益を圧迫し、雇用や賃金を抑制し続ける」、「企業の負担軽減は個人のためであることを忘れてはならない」という日本経済新聞の主張は、理屈上間違っているだけでなく、事実からかけ離れた「机上の夢物語」でしかありません。

「それだけの覚悟で抜本改革に臨めるかが安倍政権に問われている」

この記事はこうした文章で結ばれています。しかし、記事の内容からは、「覚悟」をもって「抜本改革に臨む」必要があるのは、日本経済新聞であるような気がしてなりません。


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