「金利が急騰するぞ!」と叫び続けた「オオカミ少年」の苦しい言い訳

「オオカミ少年」も、少しは改心したのでしょうか。

「国債売りを仕掛けやすい海外勢がシェアを落していることも、市場の不安を和らげている。昨年末時点で9%超に高まっていた海外勢の保有率は6月末には8.4%と低下。(某アナリスト)は『仮に国債格下げなどで海外勢が売りを仕掛けてきても、影響は軽微にとどまるのでは』とみる」(20日付日本経済新聞「日銀、国債残高が最高」)

これまで「オオカミ少年」は、消費増税を先送りにすれば、日本の財政に対する信認が失われ、海外勢が日本国債の売りに走り、長期金利が急騰すると繰り返し、このような「コントロール出来ないリスク」はとるべきではないと声高に叫んで来ていました。

実際、財務省出身で消費増税の予定通り実施を主張している黒田日銀総裁は、8月30日に開かれた第6回「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」で、「国債に対する信認が失われてしまえば、中央銀行の買入れは対応にならない」(9月6日内閣府発表「議事要旨」)と発言したことが明らかになっています。

公開された議事録からは冷静な発言であったように感じられますが、実際には「内閣府が内部でまとめた詳しい議事録によると、黒田総裁は金利急騰の危険性に触れ『確率は低いかもしれないが、起こったらどえらいことになって対応できないというリスクを冒すのか』と、政府側に予定通りの増税を強く迫った」(9月7日日経電子版「黒田総裁、消費税先送りは『どえらいリスク』 点検会合で発言」)と、かなり感情的な発言をされたようです。発言がかなり感情的なものであったことは、「内閣府が公表した議事要旨ではこうした発言を修正・削除している」(同)と報じられているところから十分に推察されるところです。

根拠も示さずに「どえらいこと」などという、有識者とは思えない非論理的な言葉を使って感情的な主張をされたということは、それだけ自身の主張の根拠があいまいで、内心説得力に欠けるという恐怖感を抱いているからに違いありません。

黒田日銀総裁を始め、「財政の信認が失われることによる金利の急騰」というリスクを叫ぶ人たちのシナリオの中で決定的に欠落しているのは、「誰が国債を売って金利を急騰させるのか」という、「誰が」という視点です。彼らは、何となく「海外勢が国債を売却する」というニュアンスを醸し出しているのですが、はっきりと「海外勢が国債を売却する」とは言っていないのです。何故ならば、現時点で「海外勢」には金利の急騰を招くことは物理的に出来ない可能性を感じているからです。

【参考記事】「消費増税見送り」を理由に「長期金利急上昇」を演出出来るのは「逃げ足の速いグローバル・マネー」ではなく「日本国民」である

日本経済新聞の記事にもあるように、2013年6月時点での日本国債の「海外による保有」は81.4兆円と、総発行残高の8.4%に過ぎません。さらに、その内の59.0%に相当する48.0兆円は「短期」であり、金利の急騰をもたらす「長期」は33.4兆円でしかありません。つまり、海外勢が保有する国債は、「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」という「異次元の金融緩和」を実行中である日銀にとっては、「戦力の逐次投入」をしない限り「対応にならない」どころか、十分対応できる規模に過ぎず、現時点では海外勢の売りで日本国債の金利が急騰することは「考えなくても良いリスク」に近いものだといえる状況にあるのです。

それにしても「昨年末時点で9%超に高まっていた海外勢の保有率が6月末には8.4%と低下した」ことが「市場の不安を和らげている」というのも苦しい言い訳です。さらにこの言い訳は違っています。「海外による保有」比率が9%を超えていたのは「昨年末時点」ではなく、「昨年9月末時点(9.1%)」であり、「昨年末時点」で既に8.6%まで低下し、さらに「今年3月末時点」では8.4%まで低下しているからです。また、「海外勢の保有率が8.4%まで低下した」ことが「市場の不安を和らげた」のだとすれば、遅くとも「今年3月末時点」での統計が発表された6月19日以降「市場の不安」は和らいでいたはずですから、「6月末には8.4%と低下した」ことが「市場の不安を和らげた」というのはおかしな話しなのです。(「日本国債の保有状況」に関する一連の資料はこちらに掲載中

今でも「財政に対する信認が失われれば金利が急騰する」、「このリスクはコントロール出来ないリスクだ」と叫び続けている「オオカミ少年」はいますが、20日付のこのお粗末な記事は、彼らは根拠もなく大騒ぎしているだけだということを明らかにした点においては貴重な情報だったといえるかもしれません。

しかし、日本を代表する経済紙であるならば、「仮に国債格下げなどで海外勢が売りを仕掛けてきても、影響は軽微にとどまるのでは」という「常識的見解」は、3か月から半年前には出しておくべきものだったはずです。今回、このタイミングで「常識的見解」を出して来たということは、安倍総理が消費増税の予定通りの実施を決定したという確信を持ったからかもしれません。そうだとしたら今回「オオカミ少年」が行ったカミングアウトは「勝利の勝どき」だったのかもしれません。

新発10年国債の利回りは、約4か月ぶりに0.6%台まで低下して来ました。「オオカミ少年」達はこうした市場の動きを「消費増税の予定通りの実施が確実になったことで財政に対する信認が増した結果だ」と考えているのかもしれません。しかし、「常識的見解」に従えば、市場が「消費増税が予定通り実施されることが確実になったことで景気が腰折れする」ことと、「消費税率2%に相当する規模の景気対策では成長軌道には乗らない」ことを織り込み始めた結果だとも言えるものです。

どちらの見方が正しいかの判断は「歴史が判断する」ことになりそうですが、「常識的見解」が正しかったことが判明した際には、もう政策的に打つ手はないという状況に陥ることになるはずです。この20年間「コントロール出来ないリスク」であり続けた景気低迷と、可能性の低い「長期金利の急騰」というリスクを比較すれば、どちらのリスクをとるべきかは火を見るよりも明らかだと思うのですが…。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR