詭弁を積み重ねた「社長100人アンケート」 ~刻一刻と迫る、安倍総理が「近藤」になる日

「半沢直樹」の最終回の視聴率42.2%(関東地区)には届きませんでしたが、41.1%と高い数字を記録したと報じられました。

「日本経済新聞社が23日まとめた『社長100人アンケート』で、2014年4月からの消費増税を前提に1年後の国内景気を聞いたところ、現在より上向くとの回答が41.1%に達した。設備投資が増え個人消費も底堅いとみており、増税前の駆け込み需要の反動による影響は限定的との見方が多い。経営者が景気先行きに強気であることが浮き彫りになった」(24日付日本経済新聞 「景気『増税後も改善』4割 社長100人アンケート 設備投資けん引」)

24日付日本経済新聞の朝刊1面トップを飾ったのは、日経版「企業短期経済観測調査(短観)」とも言える、「社長100人アンケート」の集計結果でした。

この記事によると、2014年4月からの消費増税を前提とした1年後の国内景気については、「よくなっている=21.2%」「改善の兆しが出ている=19.9%」に対して、「悪化の兆しが出ている=13.0%」「悪くなっている=4.8%」という結果となったようです。この結果を、景気が良いと答えた企業から悪いと答えた企業を差引いたDIで表すと、差し詰め「+22.9%(=21.2%+19.9%‐13.0%‐4.8%)」ということになるのでしょう。その結果、日本経済新聞は「経営者が景気先行きに強気であることが浮き彫りになった」と報じています。当然、その裏には、「だから消費増税を予定通り実施するべきだ」という同社の主張が隠されています。

安倍総理は10月1日に発表される日銀短観を、消費増税実施決定の最終判断の材料にすることを表明しています。この「社長100人アンケート」自体は重要な経済統計ではありませんが、大企業を対象としたアンケートですから、10月1日に発表される日銀短観の「大企業景況判断DI」の結果を占うことが出来るアンケートだといえます。

今回のアンケート結果が、「経営者が景気先行きに強気であることが浮き彫りになった」という内容であったということは、10月1日に発表される日銀短観の結果が、安倍総理の消費増税実施の決定の障害にはなり得ないということが明らかになったということでもあります。政府やマスコミの景気判断というのは、大企業の景況判断に基づいて行われるもので、中小企業や国民の景況判断は判断材料にされることはないですから、安倍総理が消費増税の予定通り実施という決断を下す可能性は限りなく100%に近付いたということなのだと思います。

【参考記事】 消費増税実施の判断を日銀短観で確認するのは危険です~「歴史から何も学ばなかった愚かな総理」として後世に名を残すおつもりですか?

この「社長100人アンケート」の結果を見ていると、大企業の経営者の本音が透けて見えて来るような部分がいくつもあります。

「国内向け投資意欲も高まってきているものの、市場の成長力を見据えて、海外で需要地生産を進める動きが鮮明になって来ている」(24日付日本経済新聞「海外生産 『拡大』44%」

「社長100人アンケート」の結果について、日本経済新聞はこのような分析結果を報じています。そして、国内生産については次のように報じています。

「国内生産は『拡大』が7.5%にとどまった。目先4割弱の企業が13年度の国内設備投資を12年度より増やす見込みだが、中長期的には海外を重視している」(同)

こうした結果から推察されることは、日本の大企業経営者は、「消費増税が実施される前までに国内で必要な設備投資を済ませ、それ以降は海外で需要地生産を進める」つもりでいるということです。

ここで引っ掛かるのは2点です。

一つは、1年後の(14年9月ごろ)の国内景気が「現在より上向くとの回答が41.1%に達した」その要因として最も多かったのが「設備投資の回復」(55.0%)だったということです。「消費増税が実施される前までに国内で必要な設備投資を済ませ、それ以降は海外で需要地生産を進める」方針を持っている大企業の社長達が、自分達が海外生産にシフトするなかで、消費増税後の景気回復の主役が「設備投資の回復」だと見込むというのは、理論的整合性を欠いているといしか言いようがないものです。

もう一つは、「海外で需要地生産を進める」というところです。1年後の国内景気が現在よりよくなっていると見込む要因として、「設備投資の回復」(55.0%)の次に挙げられたのは「個人消費の回復」(48.3%)でした。もし、「需要地生産を進める」意向を持っているのであれば、「個人消費の回復」が見込める日本での国内生産よりも海外生産を重要視する必要があるのでしょうか。

また、注目される点は、「生産地としては東南アジアへの注目度が高く、設備投資を増やすとの回答は38.4%と、米国(19.9%)や中国(19.8%)を上回った」と、設備投資を増やす国として、米国が中国を上回ったところです。これは、「需要地生産を進める」方針を持っている大企業の経営者達が、米国には需要が存在すると見なしていることでもあります。4-6月期の実質GDPが+3.8%であった日本より、+2.5%であった米国を「需要地生産を進める」うえで重要視する大企業の経営者の方針を、どのように理解したらよいのでしょうか。+3.8%成長を達成した4-6月期よりも日本経済が回復しているというのであれば、何故日本は「需要地生産」の対象から外れてしまうのでしょうか。

結局のところは、大企業の経営者達は、足下の景気拡大は自らの「設備投資計画」も含め、消費増税前の駆け込み需要によって嵩上げされているだけで、消費増税後に国内需要は腰折れすることを見込んでいるということではないでしょうか。政府は5兆円の経済対策で景気の腰折れを防ぐといいますが、消費増税によって魚を追いやった(需要低下)後に撒餌(法人税率引下げ)をまいても、釣果(海外企業日本進出)が上がるはずはありません。釣果を得たければ、消費増税などで魚を追いやる前に撒餌を撒くのが理に適った戦略のはず。魚を追いやった後に撒かれる撒餌は、海の底でヘドロ化(公的債務残高の拡大)し、さらに魚が棲みつき難い環境を作り上げてしまう要因になってしまうのかもしれません。

それにもかかわらず大企業の経営者の景況感が悪化しないのは、経済に疎い安倍総理が「世界で最も企業が活動しやすい国にしていきたい」という方針を掲げ、「法人税の減税」や、消費増税によって輸出企業に対する「消費税還付」を増やすなど、「世界で最も大企業が活動しやすい国」に向かって突き進んでいるからだと思われます。

消費税が10%になれば、輸出企業の「消費税還付」も現在の倍になるわけですから、「売上」が伸びなくても「税引前利益」は増える可能性があります。さらに「法人実効税率」を引下げて貰えば、経営努力なしに「役員賞与金」を増やせる可能性が高まりますから、輸出企業の経営者の景況感は「悪化し難い構造」になっているのです。

【参考記事高い実効税率が企業収益を圧迫する…?~ 覚悟をもって抜本改革に臨むべきなのは御社です

「悪化し難い構造」になっている輸出企業を中心とした大企業の経営者の景況感を、消費増税実施判断の材料にすれば、「景気回復は『実感していない』が75%」(日本経済新聞8月世論調査)という人たちに「景気回復の実感を届ける」という安倍総理の目標は、単なる「夢物語」で終わることになるはずです。

「何のために消費税を上げるのかと言えば、税収を増やして、増えた税収で社会保障費をしっかりと維持をして行く。そして国家の信認を維持をしていく」

安倍総理は、22日にテレビ朝日で放送された番組内でのインタビューで、このように答えられていました。これに対して、「社長100人アンケート」の結果は、「安倍政権に期待する経済政策では、『法人税率の引下げ』が73.3%と最も多く、『大胆な規制緩和』(59.6%)、『財政の健全化』(36.3%)が続いた」(日本経済新聞)となっており、「財政の健全化」を求める声は、「法人税率の引下げ」の半分にも満たない結果になっています。

つまり、大企業の経営者達は、安倍総理が目指す「増えた税収で社会保障費をしっかりと維持をして行く。そして国家の信認を維持をしていく」ことよりも、「法人税率の引下げ」で、自分達の分け前が増えることを優先しているということです。「消費増税予定通り実施」という点では安倍総理と財界の意向は一致しつつあるようですが、実際には「同床異夢」であるようです。

「社長100人アンケート」の結果から浮き彫りになったことは、「経営者が景気先行きに強気であること」だけでなく、政界に影響力を持つ大企業の経営者が、「クロだと思っているものを詭弁でシロにすり替えている」ということです。日本の政財界は「大和田常務」だらけなのかもしれません。半沢直樹のように「クロはクロ。シロはシロです」と主張することは出来ても、国民は黙って「島流し(消費増税)」に応じるしかないというのが、日本の悲しい現実なのかもしれません。

安倍総理には、「クロはクロ。シロはシロです。消費増税を予定通り実施できる経済状況にはありません」という勇気ある決断を期待していましたが、財界を牛耳る「大和田常務」達の前では所詮無理な役回りだったのかもしれません。安倍総理には「半沢直樹」になることを期待していましたが、「近藤」になる日が刻一刻と迫って来ているようです。


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