「コミュニケーションの重要性」を掲げるFRBが招いた「ミス・コミュニケーション不安」

「一方で、金融政策に関する見方も要因だ。だからこそ確実に正確な情報が伝わる必要があり、コミュニケーションが極めて重要となる。われわれは今後どのように行動し、何に基づいて行動するのか、最善を尽くして説明する必要がある」(ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」)

18日の「金融緩和規模縮小先送り」を決めたFOMC後の記者会見で、バーナンキFRB議長はこの数カ月間の長期金利の上昇(米国国債及びモーゲージ金利に関する参考資料はこちら)に関してこのように述べ、市場との「コミュニケーションの重要性」を強調しました。しかし、皮肉なことに、FRBが「金融緩和規模縮小先送り」を決めて以降、バーナンキ議長が懸念を表明した長期金利は低下に転じましたが、FRBと市場の間のコミュニケーションはぎくしゃくしたものになってしまったようです。

本来「金融緩和規模縮小先送り」は市場にとって「グッド・サプライズ」と受け取られて然るべきものだったはずです。しかし、それまでのバーナンキFRB議長とのコミュニケーションから「金融緩和規模縮小開始」を織り込みに行っていた金融市場は、「グッド・サプライズ」よりも、これまでの「ミス・コミュニケーション」の方を問題視してしまったようです。「グッド・サプライズ」であっても、「バッド・サプライズ」であっても、FRBが市場に「サプライズ」を与えることが、市場に対して「ミス・コミュニケーション不安」を与えるようになってしまったようです。

中央銀行が「フォワード・ガイダンス」などという耳触りの良い言葉を使って市場を甘やかして来たことで、金融市場の想像力は低下し、中央銀行の金融政策の変更はかえって難しくなって来ているのかもしれません。

この「フォワード・ガイダンス」を最初に導入したのは、1999年2月にゼロ金利政策を導入した日銀だと言われています。「解散と公定歩合に関しては嘘をついてもいい」と言われてきた日本が「フォワード・ガイダンス」などというものを世界に先駆けて取入れたというのも何とも不思議な感じがします。FRBが「フォワード・ガイダンス」を取り入れたのは2008年からだとされていますから、日本は金融政策において米国の10年先を行っているということになります。「量的緩和」も日銀は2001年3月から実施していますから、この面においても2009年3月からQE1を実施したFRBにかなり先行しているといえます。もちろんそれは、伝統的な金融政策が効かないほど日本経済が厳しい状況であったということの裏返しでもあります。

金融市場が「緩和規模縮小」をかなり織り込んでいた中での「金融緩和規模縮小先送り」という決定は、「『QE3規模縮小先送り』というどころか、バーナンキ議長が自分の任期中には規模縮小は実施しない」(拙Blog 「FRBは何故緩和縮小を先送りしたのか ~ バーナンキFRB議長が発したオバマ大統領に対する警告」)というメッセージを市場に与えてしまった可能性があります。それは、バーナンキ路線が「金融緩和規模縮小」の条件として「9月時点以上に雇用環境が改善し、インフレが2%というFRBの目標に近付く中で、長期金利が低下する」という状況が必要だと表明したようなものですから。

今週にも発表されると言われているバーナンキFRB議長の後任人事。FOMC前であれば、バーナンキ路線を踏襲すると言われているイエレンFRB副議長の指名が、金融市場には「グッド・ニュース」であったはずです。しかし、金融市場がFRBとの「ミス・コミュニケーション不安」を抱いてしまった今、イエレンFRB副議長の指名が「グッド・ニュース」として捉えられるかは定かではありません。余程の幸運がないと、バーナンキFRB議長が示した「緩和規模縮小実施の条件」は満たされないでしょうから、誰がFRB議長になっても、「金融緩和規模縮小実施」に向かうためには、バーナンキFRB議長が示した「フォワード・ガイダンス」を変更しなければならないことになります。

金融市場が、「フォワード・ガイダンス」の変更を実行するのがバーナンキ路線を踏襲するイエレン副議長がいいと思うのか、はたまたガイトナー元財務長官のような、バーナンキ路線の延長線上にいない可能性のある人物がいいと思うのか、これは現時点では「神のみぞ知る」の世界です。個人的にはFOMC前まではイエレン副議長の昇格が金融市場にとって好ましいと考えて来ましたが、現在はイエレン副議長では金融市場が好感しない可能性があると考えています。バーナンキ路線を踏襲すると見なされているイエレン副議長が、バーナンキ路線の修正を目指すことになれば、金融市場はまたFRBとの「ミス・コミュニケーション不安」を抱く可能性があるのではないかと考えているからです。

イエレン副議長が指名され、バーナンキ路線を修正すれば金融市場との「コミュニケーション・ギャップ」が生じる可能性がありますし、バーナンキ路線を踏襲すれば、FRBはQE3の継続を迫られ、バランスシートを拡大し続けなくてはならないことになります。既に、米国の準備預金残高は法定準備預金額の19倍にも達しています(米準備預金に関する参考資料はこちら)から、QE3の継続は「出口戦略」をさらに難しくしてしまうことを意味することになります。

数か月以内にバーナンキFRB議長が示唆した「9月時点以上に雇用環境が改善し、インフレが2%というFRBの目標に近付く中で、長期金利が低下する」という夢のような状況が訪れなかった場合、FRBは「出口の見えないQE3」を続けるのか、「バーナンキ路線を否定して出口に向かうのか」、難しい選択を迫られることになります。この困難な選択を、金融市場との良好なコミュニケーションを保ちながらやらなければなりません。FRBは「金融緩和規模縮小先送り」によって、金融市場との「コミュニケーション」を難しくしてしまったのかもしれません。
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