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「Buy my Abenomics?」~国際公約になった「大胆な減税」と、言及されなかった「無茶な増税」

「日本に帰ったら直ちに成長戦略の次なる矢を放つ。投資を喚起するため、大胆な減税を断行する」

経済外交に力を入れる安倍総理は、日本時間26日未明、米NY証券取引所で講演し、投資家ら約300人を前にこのように強調し、日本への積極的な投資を呼びかけました。安倍総理がこのように発言したことで、国内では決まっていない「大胆な減税」は、晴れて「国際公約」となりました。

「国際公約」となった「大胆な減税」というのは、法人実効税率引下げや復興特別法人税の前倒し廃止、投資減税など、法人に関わることであることは間違いありません。実際、安倍総理の講演に呼応するような形で、東京では自民党の高村副総裁が26日午前から経団連との懇談会に出席し、復興特別法人税の前倒し廃止について「(減税分が)賃上げに回る道筋が見えないと国民の理解を得るのは難しい」と述べ、「賃上げが条件との認識」を伝えたと報じられています。法人実効税率引下げや復興特別法人税の前倒し廃止、投資減税など、安倍政権が検討している経済対策は、本当に大企業には至れり尽くせりといったところです。

高村副総裁の「賃上げ要請」に対して、経団連の米倉会長は「企業収益が上がれば必然的に賃金は上がっていく」と発言しています。しかし、企業収益と賃金の間に「必然的」な関係はないのは明らかで、「必然性」の高さでいえば、「役員賞与金」の方がずっと高いわけですから、人を食った返答といったところでしょうか。

【参考記事】 高い実効税率が企業収益を圧迫する…?~ 覚悟をもって抜本改革に臨むべきなのは御社です 

政府・自民党が幾ら「賃上げ」を法人向け減税の条件だと叫んだところで、安倍総理が米国で「私は必ずや、言ったことは実行する」と大見得を切って「大胆な減税」を「国際公約」にしてしまったことで、政権側は減税を実施しないという選択肢を失ってしまったわけですから、経団連に対する「賃上げ要請」など、条件交渉にはなり得ないパフォーマンスでしかありません。案の定、米倉会長からは「解雇しやすいルール作りなど、雇用関係の規制緩和や改革」という新たな条件を突き付けられ、「賃上げ」のハードルはどんどん引上げられていくばかりです。

「税制上、賃金を引き上げる企業を支援していく」

安倍総理は講演の中でこのように述べています。資本主義である以上、政府は民間企業に対して賃上げを「要請」することは出来ても、「強制」することは出来ません。そうした状況下で、総理がこのような発言をするということは、税制上の秘策を持っているのでしょうか。それとも、毎度お馴染みの「気持ちを伝えた」だけなのでしょうか。個人的には法人税減税に関しては、「例えば、正社員を増やした企業に対して、従業員の給与から徴収する源泉徴収の一部を還付する」(拙ブログ:「消費増税7割が容認」? 歪められて伝えられる世論調査と、「格差」を固定しかねない設備投資の「税額控除」)など、発想を変えた「大胆な税制改革」を検討すべき時期に来ていると考えています。

安倍総理のNY証券取引所での講演内容を全て確認できたわけではありませんが、報道を見る限り、総理は「大胆な減税」には触れていますが、「無茶な消費増税」には触れてはいないようです。GDPの200%にも及ぶ公的債務残高を抱える日本が、「大胆な減税」だけを「国際公約」にするというのは何ともバランスに欠いたお話しです。

総理が「消費増税」に言及しなかったのは、消費増税は既に「国際公約」になっているので敢えて触れる必要がないと判断したのか、それとも日本への投資を促すうえで、国内景気の腰折れを招きかねない消費増税に言及するのは得策ではないという判断が働いたということなのでしょうか。

安倍総理は「リニアモーターカー」や「大胆な減税」、「再生可能エネルギー」などを挙げて日本への投資を呼びかけたようです。「リニアモーターカー」は日本の高い技術力の例として挙げられたのだとは思いますが、海外に売り込むのが目的だったのか、日本国内での建設費用の一部を海外投資家から集めるのが目的だったのか、報道を見る限りにおいては「落ちのない話し」を聞いているようで、海外投資家の具体的な行動に結び付く内容であったか、甚だ疑問です。

根本的な問題は、安倍総理が日本に投資する外人投資家が、日本に何を期待していると考えているのか、今一つ明確に考えていないというところにあるのかもしれません。海外の投資家に、日本を世界の輸出拠点として投資(進出)してもらいたいのか、日本の経済成長、国内需要に期待して投資してほしいのか、安倍総理はどちらを思い描いているのでしょうか。

輸出拠点として投資して貰いたいのであれば、今後消費増税によって輸出企業に対する「消費税還付金」が増えるうえに、法人実効税率引下げによって投資家の取り分が増える、さらには解雇もしやすくなるというメリットを強調すべきだったはずです。

一方、日本の経済成長に期待して投資してほしいのであれば、消費増税によって国内景気の腰折れリスクがあり、「法人税を払えるほどの利益を出すことが難しい」状況にあることは伝えておくのが政治的信頼を得るうえでは得策ではなかったかと思います。

どちらにしても「消費増税に言及しなかった」というのは筋が通らないような気がします。こうしたことを考えると、安倍総理の講演は、舞台こそ米NY証券取引所で海外投資家を前にして行われたものでしたが、内容は国内向けのものであったということかもしれません。

「世界経済回復のためには3語で十分だ。Buy my Abenomics.」

安倍総理は講演のなかで、映画「ウォール・ストリート」の「君の疑問に答えるには3語で十分だ。Buy my book 」という台詞になぞらえた発言をされました。総理ご自身はウォール・ストリートに位置するNY証券取引所での講演だということで、気のきいた発言だと思っていたようで、満面の笑みで、たっぷりと溜めてからこの言葉を口にされ、かなりご満悦の様子でした。しかし、「ウォール・ストリート」という映画は前作から「インサイダー取引」に絡むストーリーですから、NY証券取引所での講演で取り上げるに相応しい台詞だったかは定かではありません。

「世界経済回復のため」に「Buy my Abenomics」という3語で十分なのかは定かではありませんが、「日本経済回復のため」には、「Bye consumption tax hike(消費増税 さようなら)」という4語が必要不可欠であるように思えてなりません。
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コメント

>安倍総理の講演は、舞台こそ米NY証券取引所で海外投資家を前にして行われたものでしたが、内容は国内向けのものであったということかもしれません。

これでしょうね。こういうパフォーマンスは総じて日本国内ではポジティブに報じられますから。

ところでいつも不思議に思うのですが英語で「国際公約」に相当する言葉ってあるんですか? 私の知る限り、この表現は日本のメディア以外で見たことがありません。

例えばIOC総会での「原発はコントロールできている」は明らかな公約です。それに基づいて投票した委員がいるわけだから。

でも表明しただけの「消費増税」や「財政再建」が公約というのはおかしくないですか。

nobinobi様
この度はコメントをお寄せ頂きありがとうございました。「Buy My Abenomics」は、米国の主要紙では全く取り上げられていなかったようです。それでけ関心が低いということでしょうね。
小生は英語が堪能なわけではありませんので、普段英語版はあまり読まないので、「国際公約」が英語で何と表現されているのかは正直知りません。RNN時事英語辞典によると、「international commitment」と訳されています。直訳に近いように感じますが。
nobinobi様のご指摘の通り、総理や閣僚が海外に行って、勝手に発言してしまうことが「国際公約」になってしまうのは、全くおかしな話しです。国内では批判が出る可能性のある話を、海外に行った時にすれば「国際公約」だというのは、国内軽視も甚だしいと思います。
遅まきながら、先日からFacebookを始めました。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

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