運用経験のない有識者が示す「公的年金運用改革」 ~「認可法人移行」の前にやるべきことがある

「公的年金などの運用改革を議論する政府の有識者会議は26日会合を開き、論点整理案を公表した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などを対象に、国内債券中心の運用を見直し、株式など比較的リスクの高い資産へ運用を拡大するために組織を改革する案を示した。GPIFを日銀のように認可法人に改めることを検討する」(27日付日本経済新聞 「認可法人へ移行 公的年金 運用独法めぐり」)

公的年金の運用に関して、運用経験のない有識者の間でおかしな議論が繰り広げられているようです。「国内債券中心の運用を見直し、株式など比較的リスクの高い資産へ運用を拡大するために組織を改革する」といっているのですが、「株式など比較的リスクの高い資産への運用を拡大する」ことが目的なのか、それとも「組織を改革する」ことが目的なのか、どちらなのでしょうか。

「株式など比較的リスクの高い資産への運用を拡大する」ことが目標だとした場合、GPIFの「組織改革」は必要なのでしょうか。

GPIGは2006年に「•年金資金運用基金」から年金運用業務を引き継ぎましたが、その際の基本ポートフォリオは、「国内債券67±8%、国内株式11±6%、外国債券8±5%、外国株式9±5%、短期資産5%」というものでした。

これに対して、現在の基本ポートフォリオは「国内債券60±8%、国内株式12±6%、外国債券11±5%、外国株式12±5%、短期資産5%」ですから、この7年間で既に「国内債券」の基本配分を67%から60%へと7%引下げ、「国内債券中心の運用」を見直して来ているのです。

さらに、「国内株式」の比率は「11±6%」から「12±6%」と僅かですが引上げられていますし、「海外債券」は「8±5%」から「11±5%」へ、「海外株式」も「9±5%」から「12±5%」へと、かなり大きく引上げられています。つまり、現在の組織体制の中で、「株式など比較的リスクの高い資産への運用拡大」は進められて来ているのです。

GPIF基本ポートフォリオ

「組織改革」をしなくても進めて来られた「株式など比較的リスクの高い資産への運用拡大」を、「組織改革」の必要性を裏付ける根拠にされてしまうと、「組織改革」のターゲットが、資産配分の変更とは関係のないところにあるのではないかと勘繰ってしまいます。

日本経済新聞が掲載した説明図によると、独立行政法人から認可法人に移行することで、「意思決定」が「理事長の専管事項」から「複数で合議制」へ、「報酬」が「公務員並みの給与」から「結果に応じて高報酬、プロ人材を登用」へと変わるようです。

しかし、運用資産120兆円の世界最大の投資家であるGPIFの投資方針は、理事長一人の判断で行われているわけではなく「運用委員会」などを経た実質合議制で決められていますから、変わるのは「報酬」の部分ということになります。

「結果に応じて高報酬、プロ人材登用」とされていますが、「高報酬」というのは、GPIF内で資産配分を決める人達に対するものなのか、GPIFが外部委託している運用会社に対して結果によって「報酬」を増やすということなのか、どちらなのでしょうか。有識者達が将来GPIFの「運用委員会」のメンバーに加わることを前提に、「高い報酬」を得られる体制作りを進めているわけではないことを願うばかりです。

運用経験のない学者やエコノミストによる議論の恐ろしいところは、「運用結果に応じて高い報酬を与えられる」ようにすれば、運用成績が上昇すると錯覚を抱いているところです。

現実はともかく、年金運用は長期投資と言われています。長期投資ですから、結果も長期的にみなくてはなりません。「高報酬」が誰に対するものであるにせよ、「運用結果に応じて高い報酬を与えられるようにして」(日本経済新聞)というのは結構ですが、少なくとも5年や10年の「長期の運用結果」を見た後に報酬は決めるようなシステムにしなくてはなりません。1年間のような短期間での結果に基づいて高い報酬などを与えるという「勝ち逃げ」を認めるシステムにしてしまえば、2000年前後のITバブルの時代に、似非「カリスマファンドマネージャー」を多数作り上げてしまったのと同じ過ちを犯すことになりかねません。短期的な運用結果に応じて高い報酬を与えるシステムにしてしまえば、年金運用がギャンブル化するリスクを高めてしまうというのは、長年金融業界を見ている有識者なら理解していて当然です。

26日夜のテレビ番組では有識者会議のメンバーの一人がコメンテーターとしてこの件に関してコメントをしていました。「アベノミクスによってこれからインフレの時代に向かうのだから、それに合った資産配分をする必要がある」、「インフレになれば長期金利が上昇、債券価格は下落することで損失が発生することになりますから、株式などリスクの高い商品に投資をしなくてはならない」などと、尤もらしいコメントをしていました。

投資方針を決める過程で最も危険で避けなくてはならないことは、「アベノミクスによってこれからインフレの時代に向かう」というように、都合の良い投資環境を前提にすることです。インフレになれば、債券投資より株式投資の方が有利になることは確かですが、「株式投資の比率を高める」という「予め決めた結論」を正当化するために、「アベノミクスによってこれからインフレの時代に向かう」というのは本末転倒の議論で、有識者がすることではありません。

消費増税を正当化するためにも「インフレン時代に向かって欲しい」という気持ちは理解出来ますが、実際にインフレの時代に向かうと決まったわけではありません。もしインフレ時代の到来が市場で確実視されているのであれば、日本の10年国債利回りが0.6%台に留まっているのでしょうか。

さらに、「長期金利が上昇すれば債券価格が下落して運用損失が出る」と指摘をする専門家は、なぜ、日銀が長期国債を買い入れる「異次元金融緩和」について、何も指摘をしないのでしょうか。GPIFが保有している「国内債券」が6月末時点で72兆4508億円であるのに対して、日銀が保有する「長期国債」は、9月20日時点で123兆4427億円と、GPIFの1.7倍の規模に上っています。

「アベノミクスによってこれからインフレの時代」になるという理由で、「長期金利が上昇し、国債を持っていると損失を被る」と主張する有識者が、GPIFの1.7倍も長期国債を保有している日銀が「異次元の金融緩和」と称して長期国債をさらに買い増していくことを放任しているというのは、どういう神経なのでしょうか。

本当にアベノミクスによってインフレ時代が訪れ、長期国債の価格が大きく下落することになれば、日銀の自己資本は大きく毀損しますし、一般会計の歳入金に繰り入れられている国庫納付金も減ることになりますから、国家財政に負担を与えることになります。そうなれば、もっと増税が必要になるかもしれませんし、国債の利回りはさらに上昇するかもしれません。これも、ここに来てFRBが「出口論」に関して金融市場とのコミュニケーションに苦しんでいる姿をみれば、有識者なら容易に分かることのはずです。

【参考記事】 「コミュニケーションの重要性」を掲げるFRBが招いた「ミス・コミュニケーション不安」

公的年金運用を改善して行くためには、「運用結果に応じて、高い報酬を得られるようにし、国内外のプロ人材を集める」ことが出来るように「組織改革」するよりも前に、実践経験の乏しい「似非有識者による矛盾だらけの机上の空論」を排除して行くことの方が必要に思えてなりません。


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