トヨタ自動車社長の明大出張授業から感じた「自動車業界」と「資産運用業界」の差

トヨタ自動車の豊田社長は、26日に明治大学を訪れて行った出張授業で、次のように力説されたことが報じられています。

「まずはクルマが好きな人がクルマをつくること。そうすれば、格好良さなどのオーラが出て来る」(27日付東京新聞 「採用するならクルマ好き トヨタ社長 明大生に出張授業」)

ものづくりにおいて、作り上げるものを好きな人がそれにあたることが重要だということを仰りたかったようです。こうした考え方に対しては、多くの方が同感し、多くの業界に当てはまることだと考えられるのではないでしょうか。

しかし、資産運用業界には、必ずしもこうした考え方は当てはまりません。筆者は運用会社在籍中に、運用会社を志望する動機として「私は株式投資が好きで、もう何年もやっています」というようなことを強調する若い人を何人も見て来ました。

「株式投資が好き」で「経験もある」ことが資産運用業務においてのアドバンテージになるという思い込みがこうした発言を生むのでしょうが、「株式投資好き」は資産運用業務においては、障害になる可能性すらあるものです。

資産運用業務は、顧客からお預かりした貴重な資金に、「顧客が希望するキャッシュフローを付加してお返しする」ものです。

そして、この「キャッシュフローを付加する」ための手段の一つが、「株式投資」であって、「株式の売買」をすることも、「株式投資」で儲けることも、目的であるわけではありません。資産運用業務で「株式投資好き」が必ずしもプラスにならないのは、目的よりも手段を優先してしまうという落とし穴にはまりやすいからです。

株式投資は、自分が選んだ銘柄が、自分が想定した通りに上昇したりすると非常に嬉しいものですし、銘柄研究などを通して経済を知ったり、ボケ防止になったりする副次的効果もあると言われています。

しかし、それは個人投資が求めるべきもので、プロの投資家が求めるべきものであるかは疑問が残るところです。個人的には、人様からお預かりした大切な資金を運用する立場にいるプロの投資家が、人様のお金を使って大好きな「株式投資」に没頭するというのがあるべき姿であるとは思えません。

「辛いもの」と「楽しいもの」、「義務」と「趣味」を比べれば、誰だって「楽しいもの」、「趣味」を優先したくなりますよね。ですから、「お預かりした大切な資金に、求められるキャッシュフローを付加してお返しする」という「辛い義務」よりも、それを達成するための手段でしかない「楽しい株式投資」に流れやすいのです。

2014年からNISA(少額投資非課税制度)が始まることで、「貯蓄から投資へ」というキャンペーンが繰り広げられて来ています。しかし、「貯蓄から投資へ」というスローガンはこの20年間使い古され、ほとんど効果を発揮して来なかったものです。

「貯蓄から投資へ」というスローガンを実現するためには、制度よりも、顧客から大切な資産をお預かりする立場のファンドマネージャーが、「株式投資の楽しさ」は個人投資家にお任せして、本来の目的を見失うことなく業務に邁進出来るかにかかっていると思います。

「アベノミクスによってインフレ社会に向かうのだから株は買いだ」という次元に留まっている限り、プロの投資家に報酬を払ってまで大切な資産を託す人の増加には限界があると思います。「株を買う(売買する)」だけなら、プロの投資家でなくても出来るのですから。

「貯蓄から投資へ」というスローガンが、いつまで経っても実現しないのは、投資家の「投資リテラシー」が低いことよりも、プロの投資家の「資産運用リテラシー」が低いことの方に問題があると言っても過言ではありません。

豊田社長は、出張授業を行った後取材に応じ、「車の未来像というのは」という質問に対してこのように答えられました。

「過去も現在も未来も『愛車』といわれるね、車の前に『愛』がつくというものにしておきたいなというふうに思います」
 
 (FNN「トヨタ自動車の豊田社長を大島キャスターが直撃取材しました。」より)

「クルマ好き」な技術者が、「車」の前に「愛」を付けて貰えるようなクルマ作りを目指す、世界を代表する自動車会社。投資運用業界にも、「ファンド」の前に「愛」を付けて貰えるようにするために何をなすべきなのか、是非真剣に考えて貰いたいものです。それが「貯蓄から投資へ」というスローガンを達成する近道かもしれません。


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