安倍総理に用意された無意味な「お土産」 ~ 国民の物価目標に対する錯覚を利用した「賃上げを促進する減税」

安倍総理が、2014年4月から消費税率を8%に引き上げる方針を表明しました。

安倍総理も結局は民主党政権と同様に、財務省に取り込まれてしまいました。消費増税を実施するべきか否かという議論は、何時の間にか「消費増税が生み出す利権に群がる勢力」によって、消費税実施に伴う景気腰折れを防ぐための景気対策の話しにすり替えられ、「消費増税が生み出す利権に群がる勢力」は、安倍総理に「消費増税に伴う景気腰折れを防ぐ経済対策に尽力した」という「価値のない勲章」と引き換えに、消費増税実施表明に踏み切らせることに成功しました。

「企業に賃上げを促す法人減税について、現在は『給与総額を5%以上増やした企業』としている税優遇の適用条件を、13~14年度は「2%以上」、15年度は「3%以上」などに緩和する。大綱は『所得の拡大で消費が増えてさらなる経済成長につながるといった好循環を実現する』と強調した」(1日付日本経済新聞「減税規模2兆円 与党税制大綱」)

「賃金引上げを要請する安倍政権」が打ち出す、消費増税による景気腰折れを防ぐ対策の目玉の一つが、「給与総額を増やした企業に対する税優遇策の適用条件の緩和」です。この「税優遇策の適用条件の緩和」によって、賃金総額が増えれば、雇用者の生活が楽になるかのような印象を受けるかもしれません。しかし、この「適用条件の緩和」は国民の錯覚を利用したトリックのようなものに過ぎません。

「優遇税制の適用条件」として、13~14年度は「2%以上」とされていますが、これはおそらくアベノミクスの第1の矢である「大胆な金融緩和」で、「2%の物価安定目標を達成する」という政策目標に対応したものだと思われます。物価上昇の目標が2%ですから、賃金上昇率が2%を越えないと物価上昇を控除した実質所得が増加することにならないからです。言い換えると、適用条件を「2%以上」に設定することで、雇用者の生活が楽になるかのような印象を植え付けているのです。

しかし、「2%の物価安定目標」というのは、「消費増税による影響を除いた物価」です。消費税率が上昇すれば、当然その分物価が上昇することになります。この消費増税に伴う物価上昇がどの位あるかというと、1997年4月に消費税が3%から現在の5%に2%引き上げられた際に、「生鮮食品を除くコアCPI(消費者物価)」が約1.5%押し上げられた実績を参考にすると、今回の3%の消費税率引き上げは、コアCPIを前年比で2.25%程度押し上げる可能性があると推察されます。

総務省が発表した7月のコアCPIは前年同月比で+0.8%ですから、この状況で消費税率が3%引上げられたら、コアCPIは前年同月比で+3%程度(≒0.8%+2.25%)になることが見込まれます。つまり、「2%」程度の賃金上昇では、雇用者の実質賃金は低下してしまうのです。例えば、今、賃金も物価も100とした場合、2%の賃上げがあって賃金が102にまで増えたとしても、消費税率の引き上げで物価は103前後になってしまいますから、雇用者は実質的に貧しくなってしまうのです。

しかも、日銀は「異次元の金融緩和」と称して、「消費税率引き上げの影響を除いたベースで2%の物価安定目標」を達成するまで金融緩和を続けることを表明しています。これが成功した暁には、物価は「日銀の目標2%+消費増税による押し上げ分2.25%=4.25%」上昇することになりますから、104.25になる可能性があるのです。

ですから、企業が安倍総理の要請に応じて企業が賃金を3%上げ、103にしてくれたとしても、アベノミクスの目標が達成された時の物価水準、104.25には追いつかず、雇用者は貧乏になってしまうことに変りません。

もちろん、安倍総理の要請が聞き入れられず賃金が100のまま据え置かれたら、雇用者はもっと貧乏になってしまいますから、102、103であっても賃上げはあった方が良いことには変わりません。しかし、安倍総理の要請が受け入れられたとしても雇用者の実質的購買力は低下することは必至の情勢なのです。つまり、「優遇税制の適用条件の緩和」というのは、多くの国民が「物価上昇2%」ということに抱いている錯覚を利用したトリックで、これが実行されても消費が増えるという経済の好循環は生まれないということです。

9月30日付日本経済新聞に掲載された世論調査で、「消費増税に備え、あなたはどのような政府の対策が重要だと思いますか」という質問に対して最も多かった解答は「食料品などの消費税率を低くする軽減税率:48」で、以下「所得税など個人向けの減税:18」、「現金給付など低所得者対策:10」となっており、「賃上げや設備投資を促す企業向け減税:7」は、軽減税率の7分の1、個人向け減税の半分以下となっています。

こうした結果は、多くの国民が、「企業収益の拡大が賃金上昇に繋がらないことを感じている」こと、「景気回復を実感できていない」ことを示すものです。こうした中で、「給与総額を増やした企業に対する税優遇策の適用条件の緩和」という、トリックを使って国民の目を誤魔化すことが、責任ある政治の在り方なのでしょうか。

蛇足ですが、日本経済新聞には次回の世論調査で「新聞を軽減税率の適用することについてどう思いますか」という質問事項を設けて頂きたいものです。

多くの国民が望む軽減税率の導入は、その線引きのところで「利権」を発生させることになります。本来「消費増税に耐えられる経済状況」というのは、経済対策を必要としない経済のことを指すはずです。「消費増税に耐えられない経済状況下」で消費増税を実施することで、発生しないはずの「利権」まで産もうとする判断には疑問を感じます。

 【参考記事】「消費増税逆進性対応」における究極の選択~モラルハザードを生むか、新たな利権を生むか

昨年の民主党政権時代から続いて来た消費増税議論も、安倍総理の消費税率引上げ表明で一つの節目を迎えました。しかし、「Japan is back!」と訴えた安倍総理が、民主党政権時代から続いて来た、本来行われるべき「消費増税実施の是非」に関する議論をないがしろにし、マスコミを利用して何時の間にか国民の目を欺く形で「消費増税によって発生する利権の分配」の話しにすり替えられてしまう日本の議論の進め方を踏襲したことは残念でなりません。こうした議論の進め方を改めない限り、日本の復活は期待薄なのかもしれません。


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コメント

残念ながら安倍総裁も財務省の論理に取り込まれてしまいました。消費税増税で9兆円、2012年の補正予算の実行が2013年にずれ込んだ分の13兆円の合計22兆円の負担増を5兆円(1回だけ)の経済対策でカバーできると考えているその心理が信じられません。今後、この事実が国民一般医浸透するにつれ実体経済は腰折れとなり金融界は大暴落を見ることになるでしょう。安倍総裁はデフレ脱却の最大のチャンスを逃したことになるでしょう。尤も市場原理主義に洗脳された首相(自民党政権)が倒れるきっかけになるのであれば、長い目で見た場合は良いことなのかもしれません。しかしその間に塗炭の苦しみを味わうのは庶民であることを考えると心が痛みます。国民目線の政権が早く実現することを期待します。

Re: タイトルなし

自然様 コメントをお寄せ頂きありがとうございます。全くの個人的印象ですが、安倍総理は経済的知識に乏しいですから、あまり経済的信念はないのではないかと思っています。一方、集団的自衛権をはじめ、政治的には強い信念を持っています。この政治的信条を実現するためには長期政権が必要ですから、消費増税を受け入れることでその可能性を高める判断をしたのではないかと感じています。幸い暫く選挙はなく、財界と霞が関を味方に付ければ長期政権も可能な状況ですから。内閣支持率が落ちたとしても、その他の政党はあって無い様な存在ですから、安倍総理も冒険が出来ると踏んだのではないでしょうか。
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