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小中学生と同じ課題を抱える日本経済新聞が報じる「堅調な個人消費を背景とした小売価格の先高観」

「複数の内容を含む文や文章を分析的に捉えたり関連付けたりしながら,自分の考えを書くことについて,依然として課題がある」(平成25年8月 文部科学省「平成25年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」 国語 課題等『全体的な状況』)より)

静岡県の川勝知事が、「最下位の校長100名の氏名を公表する」と表明したことで注目を浴びた「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」。文科省がその結果を分析した調査報告書の中で、「国語」の課題として、「分析的に捉えたり関連付けたりしながら、自分の考えを書くことについて、依然として課題がある」と指摘されています。

「全国学力テスト」は、小学6年生と中学3年生を対象とした試験ですが、その結果から見えてきた課題は、子供だけに限ったことではなく、日本経済新聞にも当てはまる課題のようです。

「物価上昇が川上から川下に移ってきた。日銀が2日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)の業種別計数によると、小売り・卸売りの販売価格判断DIがプラスに転じた。『上昇』との回答が『下落』を上回ったのは2008年9月以来5年ぶり。今後も上昇するとの見方が多い。堅調な個人消費などを背景に値上げ交渉が末端まで浸透してきた。モノの値段を引き上げやすい環境が整いつつある」

3日付日本経済新聞は「小売価格 先高感広がる 個人消費の堅調映す」という見出しで、このように報じています。

確かに、1日に発表された日銀短観の「販売価格判断DI」では、「全規模・全産業」の実績が「▲6」、3か月後の予想が「▲3」とマイナス圏であったのに対して、「卸・小売」では、「全規模」で実績が「+5」、予想が「+9」、「中小 卸・小売」でも実績が「+4」、予想が「+10」とプラスに転じて来ており、販売価格の上昇を見込む動きが出て来ていることが示されています。(チャートはこちらから

しかし、このような表面的な結果だけで、「堅調な個人消費などを背景に値上げ交渉が末端まで浸透してきた。モノの値段を引き上げやすい環境が整いつつある」と断じてしまうところに、小中学生と同じ課題を抱えていることが表れているような気がしてなりません。

同じ3日付紙面で、日本経済新聞は「消費増税 転嫁駆け引き 小売り・大手、価格抑制に動く 中小、カルテルで対抗」という見出しを付けて、次のように報じています。

「価格抑制で競争力を高めたい小売りなど大手企業。これに対し、値下げ要請を警戒する中小企業の間では、各社で協調して増税分を転嫁する『価格転嫁カルテル』で対抗しようとする動きが出ている」

中小企業が、大手スーパーなどからの値下げ要請に対して「価格転嫁カクテル」を結んでまで対抗しようとしている姿を、日本経済新聞は、「堅調な個人消費などを背景にした、モノの値段を引き上げやすい環境」だというのでしょうか。個人消費が堅調でモノの値段を引き上げやすい環境であるならば、大手スーパーが販売価格を上げればいいだけですから、中小企業が「価格転嫁カルテル」を結んで値下げ要請に対抗しようとする動きは出ないはずです。

日本経済新聞は、日銀短観の「販売価格判断DI」だけをみて、足下プラスに転じて来たから「モノの値段を引き上げやすい環境が整った」と判断しているようですが、これは小中学生レベルの判断でしかありません。

日銀短観の「卸・小売」の「仕入価格判断DI」を見てみると、「販売価格判断DI」が2008年12月以降ずっとマイナスで推移して来ているのに対して、2010年12月以降プラスで推移して来ています。つまり、「仕入価格」が上昇傾向にあるなか、「販売価格」は下落傾向を辿って来たのです。今回9月の調査でようやく「販売価格判断DI」は「+4」となりましたが、「仕入価格判断DI」は「全規模卸・小売」で「+27」、「中小卸・小売」では「+30」と、「販売価格判断DI」を大きく上回っています。こうしたことから推察されることは、仕入価格上昇を卸・小売段階では吸収できなくなりつつあるということです。

同じく日銀短観の「国内での製商品・サービス需給(『需要超過』-『供給超過』)判断DI」を見てみると、ほぼ全産業でマイナス、つまり「供給超過(需要不足)」という状況にあります。しかも、「全規模全産業」ベースのDIが「▲21」である中で、「小売」では「全規模」ベースで「▲25」、「中小」ベースでは「▲28」となっており、小売が厳しい状況にあることが示されています。(一連の日銀短観DIのチャートはこちらから

これだけ「供給超過(需要不足)」であると判断している小売業者が、「堅調な個人消費を背景」に、「販売価格」を引き上げられやすくなったと感じるということは、考え難いことです。

「小売価格 先高感広がる 個人消費の堅調映す」という記事を書いた記者、そしてそれを掲載した編集者が、日銀短観の都合のいいところだけを見るのではなく全体に目を通したり、同じ日の紙面に掲載される「消費増税転嫁 駆け引き 中小、カクテルで対抗」という記事にも目を通すなり、「複数の内容を含む文や文章を分析的に捉えたり関連付けたりしながら,自分の考えを書く」ことが出来ていたら、異なった判断を下したのではないでしょうか。

静岡県の川勝知事が3日付の日本経済新聞をみたら、「記者と編集長の名前を公表する」と言い出すかもしれません。


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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

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