「半沢効果」によるアブラハム行政処分? ~「シロはシロ。クロはクロ」を明確にした金融庁

証券取引等監視委員会は3日、「いつかはゆかし」という老後資金を毎月積み立てる会員制サービスを展開している投資助言会社のアブラハム・プライベートバンクを行政処分するよう金融庁に勧告したと発表しました。

証券取引等監視委員会(以下SESC)が公表した「アブラハム・プライベートバンク株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」という資料では、以下の3点を法令違反行為だと指摘しています。 
  1. 無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況 
  2. 著しく事実に相違する表示又は著しく人を誤認させるような表示のある広告をする行為 
  3. 顧客の利益に追加するため財産上の利益を提供する行為
こうしたSESCの発表から言えることは、アブラハムに対する行政処分勧告は、AIJやMRIインターナショナルのような「投資詐欺的事案」として出されたわけではないということです。

SESCが指摘している2項目は「誇大広告」で、3項目は「損失補填的行為」ですから、法的な見解の相違は余り大きくないと思われます。おそらく、アブラハムが反論しているのは1項目だと思われます。

今回SESCが行った行政処分勧告は、ある面では画期的なものです。それは、SESCが、これまで曖昧にして来た、「無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」という違法行為に関して、明確に「法令違反行為」と認定したところです。

2012年にAIJ事件が起きた際にも、「海外ファンドの募集又は私募の取扱い」に関する部分は問題の一つとなりました。筆者もAIJ事件発生後、この部分に関する法的な解釈などについて複数の弁護士と打ち合わせを行った経験があります。その経験に基づいて、今回のSESCによるアブラハムに対する行政処分勧告の、どこが画期的だったのかについて説明をしていきたいと思います。

まず、金融商品取引法では、金融商品取引業務を以下の4つに分類しています。 
  1. 一般的な証券業務及び外国投信の販売に必要な「第一種金融商品取引業」 
  2. 第二項有価証券(例えば、組合やリミテッド・パートナーシップの持分等)の販売に必要な「第二種金融商品取引業」 
  3. 投資助言業務、及び投資一任契約締結に向けての斡旋・媒介業務に必要な「助言・代理業」 
  4. 投資一任業務を行うための「投資運用業」
SESCの発表文のなかでは、アブラハムが取り扱っていた商品について、「外国投資法人が発行する外国投資証券及び外国で発行される集団投資スキーム持分(以下、これらを総称して「海外ファンド」という。)」という記載になっており、外国投信なのか、第二項有価証券に相当するものなのかは特定できません。しかし、どちらであったにせよ、アブラハムが「第一種金融商品取引業」か「第二種金融商品取引法」の登録をせずに「勧誘行為」「販売行為」を行えば、「違法行為」に相当することになります。

それならば、アブラハムとSESCで見解の相違が出る訳はない、と思われるかもしれませんが、そうではないのです。それは、問題が「法律解釈」ではなく、「法律の運用」に関するものだからです。

「第一種金融商品取引業」か「第二種金融商品取引法」の登録がない業者が「勧誘行為」「販売行為」を行うことが「違法行為」であるという点に関しては、法的な論争にはなりません。見解の相違がでるのは、アブラハムが行っていた行為が「勧誘行為」「販売行為」に当るかという点です。

実際、「第一種金融商品取引業」登録を済ませていない投資顧問会社による、外国投信の「勧誘行為」と目されても仕方がない行為は、日常的に行われていると言っても過言ではありません。しかし、それによって投資顧問会社が金融庁から行政処分を受けたことは殆どありません。

それは、金融商品取引法が施行された2007年当時は、投資顧問会社による国内投信の直販のみが考慮されていて、現在のように外国投信が投資対象として一般的になることは想定されていなかったという事情があることに加え、投資顧問会社による外国投信の「勧誘行為」は、外国投信を直接販売することを目的とするものではなく、投資顧問契約締結を目的に行われていること(外国投信の購入は、結果的には投資顧問契約に基づく業務の一環として行われているという建前があること)により、金融庁は容認していると考えられて来たからです。

報道等から察するに、アブラハムも、顧客に紹介したファンドを自社が国内で販売していたわけではなく、顧客がアブラハムの投資助言に従って、海外のファンドを海外の販売会社から直接購入する「直投」の形をとっており、表面的な販売会社は海外の会社(代理店)という形式をとっていたようです。

実質的には国内で海外ファンドの「勧誘・販売行為」に相当する行為をしていても、投資顧問会社が、顧客が海外ファンドを直接海外の販売会社から購入するという「直投」スキームにすることで、国内での行為を「勧誘・販売行為」に相当しないという「詭弁」が、これまで通用して来たということです。

「無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」という、明らかな「違法行為」を、金融庁がこれまで摘発せず黙認して来たことについては、金融商品取引法を作った当時、金融庁もこうした行為が一般的になることを想定しないで法律を作り、施行したという負い目があったからだと、業界では解釈されていたのです。

アブラハムと同様の海外「直投」スキームは、厚生年金基金を中心に、企業年金の世界ではごく当たり前のように行われて来ていましたから、アブラハムも「違法行為」だと認識しつつも、「摘発されることはない」と高をくくっていた可能性が高いと思われます。

今回、SESCが金融庁に対してアブラハムに対する行政処分を勧告した裏には、AIJ事件を契機に、厚生年金基金制度を実質廃止する方向に動いているという事情があるように思います。厚生年金基金制度が維持されていれば、今回のアブラハムに対する行政処分勧告は、企業年金業界に大きな衝撃を与えることは必至だったからです。

「これ以上、自分達を誤魔化し続けるのは止めましょう。クロはクロ。シロはシロです。そうは思いませんか」

大人気ドラマとなった「半沢直樹」の最終回で、半沢は取締役会でこのように訴えました。「半沢直樹」では、「金融庁検査」が大きなテーマになっていました。単なる偶然かもしれませんが、「半沢直樹」の陰の主役であった金融庁が、厚生年金基金制度の実質的廃止をうけ、これまで誤魔化し続けて来た「無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」に対して、「クロはクロ。シロはシロ」と判断を明確にしたのも、「半沢効果」なのかもしれません。
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コメント

金商法はもともと、海外からの違法な活動という法律のザルをなくすというのが目的なので、貴意見とは異なります。今回の違法行為も検査の想定内です

むしろ、今回を含めて投資助言業者が金商法を理解せず、金融商品の販売・勧誘は金融庁の免許を受けた金融機関のみが許された行為であるということを知らないという無知に突きます。
金商法を熟読し理解している業者は殆どいません。なぜなら、媒介行為に当たることが明確で金融機関でもない輩がかかわりあうことは許されません

ただ、オフショアファンドと代理店というスキームにおいて、日本人に対してビジネスを行った場合は違法であるが実際には、海外まで処分を行うのは難しいのは事実でしょう
今回の事例は、代理店が助言業者と同一人格であったため処分に踏み切ったに過ぎません

そもそも海外IFAの違法摘発は平成22年8月5日の関東財務局報道発表が発端と思いますし、今後もオフショアファンドの日本人への勧誘については監視が強化されると思います。
ただし個人投資家としては認可もされていない投資にはかかわりあわないのが鉄則でしょう
オフショアファンドの勧誘を受けたという情報を提供するということが投資家のモラルではないかと思います

無登録の海外所在業者による勧誘にご注意ください

金融商品取引法に基づく登録を受けていない海外所在業者が、インターネットに日本語ホームページを開設する等により、外国為替証拠金取引(FX取引)や有価証券投資等の勧誘を行っている例が見受けられます。

海外所在業者であったとしても、日本の居住者のために又は日本の居住者を相手方として金融商品取引を業として行う場合は、原則として、金融商品取引業の登録が必要です。登録を受けずに金融商品取引業を行うことは、禁止されています。(違反者は罰則の対象となります。)

Re: タイトルなし

おもうこと 様
この度は貴重なご意見をありがとうございました。小生は霞が関の人間ではありませんので、金商法の真の目的が何であったのかを断定は出来ません、自分の意見が絶対に正しいと主張するつもりもございません。今回の記事も、運用会社の投資運用部長と営業部長という両方の立場から金商法に関わって来た経験に基づいた意見です。個人的感想としては、金商法のターゲットは最初は不動産ファンドではなかったかという印象は抱いております。現実に、第一種、第二種の金融商品取引業者登録をしていない投資顧問会社が、海外直投という形で実質的な営業活動をしており、金融庁も黙認しておりました。金商法に関しては、日本でも専門家とされる弁護士の方とも議論をして参りました。金融商品取引業登録をしていない投資顧問会社によるこうした活動が違法行為であるについては、法曹界では共通の認識だということでしたので、小生との議論の中心は、「何故金融庁は処分をしないで放置しているのか」というところでした。今回の記事もその時の弁護士とのやり取りに基づいて書いたものです。
おもうこと様のご指摘の通り、投資顧問会社に限らず、証券会社にも金商法を正しく理解していない人は沢山いるのは事実で、この点においては、想定の範囲、自業自得だといわれる通りだと思います。

こちらこそ、このようなニュースに対してブログ化いただきありがとうございます。
金融庁もオフショアファンドビジネスという日本人におこなう怪しげな投資に規制をかけたいという意図は感じていました。メイヤーアセット違法の取り締まりがよい例です。やはり規制できなかったのは個人投資家からの情報不足にあると思います。今回のAPBを通じて、オフショアファンドビジネスという違法にメスが入ることを望みます。やはり認可もされない違法な投資から個人投資家を守るということに尽力してほしいと思います

Skywalkerさんのおっやるとうりです

オフショアファンドはファンド会社直販ですが必ずディストリビューターやエージェントと称する代理店を通じて申し込みを行います
(保険と同じ仕組みです)

日本人に対して営業行為(勧誘、広告を含む)を行うためには、日本在外を問わず
① ファンド会社がファンドを金融庁に届出をし
② 代理店が金融機関免許を持っていなければいけません
これ以外は全てモグリとなります。顧客へ投資資料を整備し、コンプライアンス体制を整え、外務員登録を行ったもののみが投資家に勧誘を許されるわけです。もちろん金融庁の検査も定期的に行われます。

それが助言業には全くありません、これだけでも無法地帯とわかると思います。こういった無法業者から個人投資家を守るのが使命と思います

Re: タイトルなし

個人投資家を守らなければならないとのご指摘には完全に同意いたします。日本の強みであった「分厚い中間層」が、フローの面から削り取られ始めていますから、ストックを守らなければ、国力自体が失われてしまいます。個人投資家の大切な資産を守るべく、微力を尽くしたいと思っておりますので、今後とも宜しくお願いいたします。

まず、大事なことを。
上の方がおっしゃる通り、このニュースをブログ記事にされたことに敬意を表します。

しかしながら、外投がらみの金商法の運用実務については、実際と離れた記述が少なくないです。

とくに年金の直投スキームとの絡みは、強引なこじつけであるとの感想をもちました。

まず、何をもって「年金の直投スキーム」と位置づけておられるのか判然としません。
アブラ社その他のそれと年金のそれ(こちらは通常、投資運用業者と顧客である年金が投資一任契約を締結します。)とは、ストラクチャーや当事者(のライセンス)が異なりますよ。

厚生年金基金がなくなっても、他の形式の企業年金は、外投への直接投資を続けるでしょう。
また年金による直投スキームは、証取法の時代から行われてきたものです。
もちろん、当局もその存在を認識してきました。

AIJ事件後、年金から運用を受託(直投スキームの受託を含む。)していた投資運用業者に一斉検査が入りました。
厚生年金基金の解体の方向がすでに打ち出された後のことです。
このなかで年金の直投スキームそのものが違法と判断された事案はないと認識しております。

貴方が「打ち合わせ」をされた弁護士は、金商法の知識が不十分か、年金運用の実際をごぞんじないか、どちらかだと考えます。

最後に、アブラ社型の直投スキームが従前からアウトだったことは、上の方がおっしゃる通りです。
(むろん、年金の直投もやり方を間違えれば、同じ理由で従来からアウトです。)
今のタイミングになったのは、アブラ社が調子に乗って事業を拡大したので、当局が動かざるを得なくなっただけです。
彼らは、有象無象の投資助言業者に多くの人員を割くほど閑ではないので、対助言業者の場合、影響が大きく悪質な事案に注力するのも、以前と変わりありません。

それにしても、こちらのブログ、着眼点が面白かったです
クロをクロとネットで発言しますと、法務関係者が仮執行をかけてきて、名誉毀損として損害賠償をかけてくる

こんな、バカな話が今後はなくなると思います(笑)

そういえば、APB以外にも、IFA JAPANと K2 INVESTMENTも行政処分が出るようです。

金商法では有象無象の投資助言業者だけではなく
個人が主催する勉強会でのファンド説明も勧誘とみなされます。ファンド会社の社員やディストリビュータが参加していたら、言い逃れはできません
要するに日本でオフショアファンドを啓蒙すること自体が違法と考えられます


Re: タイトルなし

おもうこと様
コメントありがとうございます。
> それにしても、こちらのブログ、着眼点が面白かったです
もし、このように感じて頂けたのだとしたら本望です。今後とも宜しくお願い致します。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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