高ROE銘柄への投資が「経営の緊張感を与える」?~現実を知らない有識者達の思考の限界

「政府は公的年金の運用改革の一環で、成長企業の株式に重点的に投資する検討に入った。上場企業の中から資本を有効に活用し収益力が高い企業を選ぶようにする。約120兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2014年度にも始める。成長企業を後押しし、企業の収益向上を促す狙いもある」(5日付日本経済新聞 「公的年金 成長企業に投資」)

公的年金などの運用改革を議論する政府の有識者会議が、11月中に成長株投資を始める提言をまとめることになったようです。有識者達の提言ですから、「儲かる株を買え」的な下品なことは出来ませんから、東証がROE(自己資本利益率=当期純利益/自己資本)の高い銘柄を中心に経営の健全性や市場での取引量も加味して作成する新しい株価指数に連動する形での運用を始めるよう提言するようです。

ROEが高い企業への投資が成長株投資といえるのか、さらに、それによって高い運用利回りが得られるかは定かではありません。投資家はこれまでもROEを銘柄選択の重要な基準の一つとして来ていますから、過去の実績において高ROE銘柄のパフォーマンスが相対的に良好であったとしてもそれは当然の結果でしかありません。

確かに、東証一部の時価総額第2位に躍り出て注目を集めている「永遠の成長株」ソフトバンクのROEは23.1%(2012年度末)で、6%程度にとどまっている上場企業の平均ROE と比較すると群を抜いて高い水準になっています。しかし、ソフトバンクのこの高ROEは、24.0%という高いとはいえない自己資本比率(2012年度末)によってもたらされている面もありますから、ROEが高い企業への投資が成長企業投資で、高い運用利回りが得られるといっていいのかについては意見の分かれるところです。

「資本効率の悪い企業からは年金マネーが流出するため、日本の企業経営者に経営の緊張感を与えることになりそうだ」

日本経済新聞の報道によると、有識者会議は、ROEの高い銘柄に投資することで、運用利回りの向上とともに、こうした副次的効果も狙っているようです。しかし、高ROE銘柄で構成された株価指数に連動した運用をすることで、「経営者に経営の緊張感を与える」ことが出来るのでしょうか。

ROEを判断基準に置くことは一つの判断ですから、それはそれで結構なことだと思います。ただ、有識者会議が「経営者に経営の緊張感を与える」ことを狙っているのであれば、在り来りのROE投資でなく、もう一工夫して頂きたいところです。

日本の法人実効税率35.64%(所在地東京の場合)は国際的に高いと言われています。しかし、「利益計上法人における益金処分の内訳を構成比で見ると、社内留保45.1% 、支払配当21.8 % 、法人税21.3% 、その他の社外流出11.7% となっている」(国税庁「平成23年度分会社標本調査結果」)という調査結果などから、各種の特別措置法などによって、大企業の現実の実効税率はこれよりも低いことが知られています。さらに、輸出企業に対しては消費税の還付が行われており、大企業の実質的税負担は、言われているほど高くない可能性があることも指摘されています。

こうしたことから言えることは、輸出企業を中心に日本の大企業のEPS(一株純利益)は、特別措置法や消費税還付によって、実際の企業の収益力以上に高く出てしまっている可能性があるということです。

日本の2012年の輸出総額は63兆7476億円です。輸出企業に対しては、仕入の際に支払った消費税分が還付される仕組みになっています。輸出企業の粗利益率(=(売上―仕入)/売上)を、日本最大の輸出企業であるトヨタ自動車と同じだと仮定して、輸出企業に対して還付されている消費税がどの位の規模になるかを計算してみましょう。トヨタ自動車の粗利益率は大雑把に言って15%程度(仕入が売上の85%程度)ですから、これを輸出企業全体の粗利益率とすると、約2兆7100億円(≒63.7476兆円×(100%-15%)×消費税5%)の消費税還付がなされている計算になります。

輸出企業に還付されている可能性のある2.7兆円という規模は、消費税率1%の税収に相当する規模です。現在の消費税5%のうち国税が4%で、地方が1%ですから、仮定の計算上では、国民が国に支払った消費税のうち、約25%が輸出企業に還付されていることになるのです。さらに、国税庁の調査では、「利益計上法人について見ると、営業収入金額は767兆968億円、所得金額は33兆9403億円」となっておりますから、輸出企業に対する消費税還付だけで、所得金額が8%ほど嵩上げされている可能性があるということになります。

つまり、ROEを算出するに際に、分子となる「当期純利益」は、企業の本来の収益力よりも、各種の特別措置法や消費税還付金などで嵩上げされている可能性があるということです。

もし、有識者会議が、高ROE銘柄の投資を通して「日本の企業経営者に経営の緊張感を与える」ことを目指すべきだと主張するならば、ROEを算出する際に、各種の特別措置法や消費税還付という形で国から受けた補助を控除した、企業の「真の収益力を表す当期純利益」を用いるよう提言するべきではないでしょうか。

実効税率の引下げや、消費税率引上げによって、企業努力とは関係なく嵩上げされる「当期純利益」から算出したROEに基づいて銘柄選択をしてしまうと、より多くの特別措置法の恩恵を受けている企業や、より多くの消費税還付を受けている会社が投資対象として相対的に有利な扱いを受けることになりかねません。

こうした状況は、有識者が目指す「日本の企業経営者に経営の緊張感を与える」という目標とはかけ離れたものだといえます。「日本の企業経営者に経営の緊張感を与える」のであれば、是非「真の収益力を表す当期純利益」を算出することを提言して頂きたいものです。

【参考記事】 運用経験のない有識者が示す「公的年金運用改革」 ~「認可法人移行」の前にやるべきことがある

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タイトル:近藤駿介 金融経済探考「天馬行空」
 第1号 :アベノミクス崩壊への槌音

消費増税の影響に関して巷では、GDPがどうなるこうなるという分析ばかりがなされています。しかし、アベノミクスは「円安・株高」という金融現象によって景気回復期待を醸成し、気分的高揚によって消費を拡大させようという政策ですから、金融市場への影響を無視してGDP云々を議論しても片手落ちになると思っています。

マーケット感覚からすると、安倍総理による消費増税決定は最悪の選択だと思っています。それは、今回の消費増税が、アベノミクスの要諦を否定することになったからです。

経済の専門家の間からは日銀の追加緩和期待も出て来ていますが、金融政策が効果を発揮する可能性は極めて低いと思います。小生の個人的評価では史上最低レベルの日銀総裁である黒田日銀総裁は火に油を注ぐような対応しか出来ないのではないかと勝手に想像しています。

小生は、安倍総理が消費増税に踏み切った一つの要因は、安倍総理自身がアベノミクスを理解していなかったところにあると考えています。こうしたマーケット感覚からのまとめていますので、ご興味のある方は、是非ご一読ください。
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