「至れり尽くせり」の物価連動国債入札 ~政策目標を達成すると財政負担が増える「異次元のおバカな政策」

「財務省は8日、元本や受け取る利息が物価に応じて変わる物価連動債を発行した。新規の発行は2008年8月以来で約5年ぶり。発行予定額の3千億円に対し1兆1231億円の応募があり、2999億円が落札された。日銀の金融緩和や円安を背景に物価は上がる傾向を示しており、財務省は入札の対象である機関投資家からの底堅い需要を期待している」(8日付日本経済新聞夕刊 「物価連動債を発行」)

財務省が、約5年ぶりに発行した物価連動債(表面利率0.1%、10年債)の入札は、応札倍率が3.74倍、最高利回り▲0.352%(発行価格104円65銭)と好調だったことが報じられています。

物価連動国債はあまり馴染がない国債ですので、財務省の商品説明をお読みください。

「物価連動国債は、元金額が物価の動向に連動して増減します。すなわち、物価連動国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加します(以下、増減後の元金額を『想定元金額』といいます。)。償還額は、償還時点での想定元金額となりますが、平成25年度以降に発行される物価連動国債には、償還時の元本保証(フロア)を設定します。利払いは年2回で、利子の額は各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。表面利率は発行時に固定し、全利払いを通じて同一です。従って、物価上昇により想定元金額が増加すれば利子の額も増加します」(財務省HP「物価連動国債の商品設計」

さて、約5年ぶりとなる物価連動債の発行に際して、財務省は入札が成功裏に終わるようにいろいろな手立てを講じて来ました。「物価連動国債の商品設計」の中で触れていますが、今年度以降発行される物価連動債には、これまで付けられていなかった「償還時の元本保証」が付けられています。

そして、「既発債から新発債への乗り換え需要に応えるため、新発債の発行入札と既発債の買い入れ消却入札を同日中に実施するとともに、その後、新発債発行額を上限として既発債を追加的に買入れます」(財務省「日本国債ニュースレター7月号」)と、3000億円の入札を成功させるために、市中残高2兆2108億円の10%に相当する既発債2224億円を購入し、需給を改善するような手立てを打ちました。

さらには、今回の入札では、「全て最低落札価格で売却する『価格ダッチ方式』が採用されたため、高値づかみのリスクがない」(日本経済新聞)方式を採用しました。

償還元本は保証され、入札で高値づかみする心配がなく、手持ちの既発債は買入れてくれる。これだけ「至れり尽くせり」であれば、入札が好調なのは当然の結果でしかありません。

しかも、黒田日銀が「異次元の金融緩和」と称して消費増税の影響を除いて2%の物価安定目標を達成するまで金融緩和を続けることを宣言していますし、10月1日には安倍総理が2014年4月から消費税率を3%上昇させることを決定しましたから、消費者物価指数(CPI)が上昇するのは「必然」といえる状況にあります。物価連動国債の元本はCPIが上昇すれば増えるうえに、今年度以降はCPIが下がっても元本保証が付いていて損することの無い、まさに今回の物価連動国債は、「Buy my Abenomicsの申し子」みたいな商品ですから、需要が強いのは当然です。

物価連動国債の商品性や発行方法は、財務省と市場関係者で構成される「物価連動債の再発行に関するワーキング・グループ」などで議論されて来たものですから、極めて投資家、販売する証券会社にとって都合の良い商品性、発行方法になっています。しかし、物事は表裏一体ですから、投資家及び販売する証券会社にとって「至れり尽くせり」で都合がよいということは、発行する財務省(政府)にとっては都合がよくない条件であるということでもあります。

財務省を筆頭に財政再建原理主義者達は、ことあることに22年連続で世界最大の債権国である日本の国債発行残高が1000兆円に達したことについて、「国の借金は1000兆円」と吹聴し、「財政再建」の必要性を訴えています。

蛇足ですが、日本経済新聞などは、世界最大の債務国である米国の国債については「連邦政府債務の上限問題」「米国の政府債務の膨張」というように、「政府の借金」だと報じています。なぜ、米国国債が「政府の借金」で、日本国債が「国の借金」だというのでしょうか。どちらも「政府の借金」であることに変りはありません。

「国の借金」である国債発行残高を減らさなければならないと主張する財務省は、何故、「2%の物価安定目標」を掲げて「異次元の金融緩和」が実施されているさなか、さらには消費税率が3%引上げられことで、CPIが2%強上昇することが確実な情勢下で、物価上昇に連動して元利金支払いが膨らむ物価連動国債を発行するのでしょうか。

二言目には「財政権」と口にする財務省が、自分達で物価上昇を確実に起こす政策を打ち出す一方で、物価上昇が起きたら元利金支払い(財政負担)が増加する物価連動国債を、元本保証(元利金支払いが減ることがない)で発行することは、「異次元のおバカな政策」だといえるものです。

仮に毎年2%の物価上昇が続くとすると、今年借入れた元本10,000円は、10年後には12,190円になります。そして、その10年間に払う利金総額は111.7円になります。結局、政府は10,000円の借金をこの先10年かけて総額12,302円返済する計算になります。

これに対して、表面利率0.7%の10年普通国債で調達した場合、この先10年かけて政府が返済する元利金総額は10,700円となります。つまり、2%の物価安定目標が実現出来た暁には、国は1,600円強も余分に借金を返済しなければならないことになります。もし、政府が、この先10年間の物価連動国債と普通国債の国の元利金返済額を等しくしようとするなら、物価上昇率を年0.58%に抑えなくてはならない計算上になります。

「財政再建」を繰り返す政府が、日銀が「(消費増税の影響を除いて)2%の物価安定目標」を掲げて「異次元の金融緩和」を続け、自らも消費税率3%の引上げを決定した後に、「物価上昇率が0.58%以下ならば政府の勝ち」、「物価上昇率が0.58%を上回れば投資家の勝ち」という、初めから負けが決まっている勝負を挑むというのは常識では考えられません。

少なくとも、消費増税を熱烈に支持する経団連企業の中で、いま、こんな条件で社債を発行する企業はありません。それは、物価連動(国)債は、発行体(政府や企業)に不都合だからに他なりません。

物価連動国債を発行することのメリットは、10年普通国債の利回りとの差から、「期待インフレ率(=10年国債利回り-物価連動国債利回り)」を測れるということくらいです。ちなみに8日の物価連動国債の入札利回り▲0.352%と、8日時点での10年国債利回り0.657%から計算される「期待インフレ率」は1.09%(=0.667%-▲0.352%)ということになります。

財務省や日銀は、物価連動国債が流通することで「期待インフレ率」が算出でき、政策運営の目安が出来るというメリットを強調しています。しかし、今回の物価連動国債から算出される「期待インフレ率」など当てにはなりません。何故なら、元本保証が付いており、投資家から見て損する可能性の低い物価連動国債の価格には上昇バイアスかかる、つまり、金利に下押し圧力が掛かるのが当然だからです。

元本保証が付いていることで物価連動国債の利回りに下方圧力がかかるということは、「期待インフレ率」には上方圧力がかかるということです。これは、「2%の物価安定目標を早期に達成する」ことをコミットメントしている安倍政権、日銀にとって極めて都合のいい状況です。10年国債の利回りが上昇せず、市場でインフレ期待が醸成されていない局面ても、物価連動国債の利回りに低下圧力がかかっていれば、「期待インフレ率は上昇しており、異次元金融緩和の効果が浸透し、好循環の流れが見えて来ている」と言い続けられるからです。もちろん、アベノミクスが「よいインフレ」を起こすのに失敗すればそのメッキは剥がれ落ちる運命にあるのですが。

財務省からすれば、25年度の物価連動国債の発行予定額は6,000億円と、国債発行予定額42兆8510億円に比べれば微々たる規模ですから、「期待インフレ率」を得られるメリットの方が大きいと考えているのかもしれません。しかし、問題なのは、政策当局が「自分達が目指す政策が成果をあげればあげるほど財政負担が増え」、「財政再建」という本来の目標にマイナスの影響を与えるという、矛盾した財務戦略を平然と掲げるというところです。

今回の物価連動国債の入札で明らかになったことは、物価連動国債に対する需要の強さではなく、財務省に国の財政を任せてはいけないということだったように思います。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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