「際どい判断」で選ばれ、「際どい判断」を迫られるイエレン次期FRB議長

先送りされてきたバーナンキFRB議長の後任人事がようやく決着しました。市場の予想通り、イエレン副議長が次期FRB議長になることが、オバマ大統領から正式に発表されました。イエレン氏は、必ずしもオバマ大統領の意中の人ではなかったと言われていますが、バーナンキFRB議長の任期が来年1月までと時間が迫る中で、議会との対立を避けるためにはイエレン副議長を選ぶしかなかったということかもしれません。ともかく、金融緩和規模縮小、FRB議長後任問題、政府機関の一部閉鎖、債務上限問題と、金融市場には幾重もの暗雲が垂れて籠めていましたが、ようやくその1つが取り除かれた格好となりました。

「ハト派」どころか「超ハト派」と目されているイエレン副議長が、次期FRB議長に決定したことを、バーナンキ路線が踏襲される可能性が高いとして、金融市場は概ね好感しているようです。しかし、次期FRB議長に求められるのは「ハト派」でも「タカ派」でもありませんから、暗雲の一つが取り除かれたことに対する歓迎ムードが長続きする保証はありません。

イエレン次期FRB議長が決定したその日、バーナンキFRB議長が、市場の予想を覆す形で「金融緩和規模縮小の先送り」を決めた9月のFOMCの議事録が公開されました。

「議事録は、経済が債券購入の縮小を正当化できるほど十分に回復しているかどうかをめぐり長時間議論があったことを示している。メンバー数人は、9月の決定は『比較的際どい判断』だったと指摘した」(Bloomberg 「FOMC議事録:大半が年内の債券購入縮小を想定」)

マスコミの報道によると、9月のFOMCにおける「金融緩和規模縮小の先送り」という決定は、「比較的際どい判断だった」ようです。そして、「比較的際どい判断」を下した理由について、バーナンキFRB議長はFOMC後の会見で「経済がわれわれの一般的な見通しに一致しているか確認できる証拠を得るため、もう少し待つというものだ」(ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」 )と説明しています。

「比較的際どい判断」のもとで、バーナンキFRB議長は「確認できる証拠を得るため、もう少し待つ」という決定をしたわけですから、近い将来「比較的際どい判断」であってもFRBが「金融緩和規模縮小開始」に踏み切る際には、「確認できる証拠」を示さなければならなくなっています。では、その「確認できる証拠」は何時頃得られるのでしょうか。

バーナンキFRB議長の任期中に開かれるFOMCは、10月29、30日(記者会見予定なし)と12月17,18日(記者会見予定あり)、2014年1月28、29日(記者会見予定あり)の3回です。

10月は政府機関の一部閉鎖の影響で、雇用統計の発表も先送りされ、FRBが「確認できる証拠」を得られない状況になっていますから、10月末のFOMCで政策変更が行われる可能性はほとんどないと思います。万が一「確認できる証拠」なしに「金融緩和規模縮小開始」が決定されることがあれば、金融市場は大混乱に陥りかねません。

さらに、10月以降の雇用統計や経済指標には、9月の政府機関の一部閉鎖によるマイナスの影響が出て来るはずですし、そのことを含めて統計上の特殊要因が生じてしまいますから、その特殊要因による影響がどの程度なのかを確認する時間も必要になります。このように考えると、政府機関の一部閉鎖が何時まで続くかにもよりますが、12月のFOMCで「金融緩和規模縮小開始」を決定できる可能性は、政府機関の一部閉鎖期間が延びるにつれ低下しているといえる状況にあります。

「金融緩和規模の維持」は、以前なら市場に好感されたはずですが、それが「意図せざる金融緩和規模縮小の先送り」となって来ると、市場で好意的に受け止められるかは定かではありません。また、債務上限問題や暫定予算などについても、常識的には10月31日に国債元利払い、11月1日に社会保障費等の支払いを控えていますから、10月中に何かしらの妥協が図られるはずですので、10月中には一旦は市場を覆う暗雲は取り除かれたような格好になる可能性は高いと思われます。しかし、それも政治的な「際どい判断」による「停戦」の結果に過ぎませんから、金融市場に好材料として受け取ってもらえる保証はありません。

イエレン次期FRB議長にとって大きな問題は、バーナンキFRB議長が自身最後のFOMCで置き土産を置いて行くかということになるのではないかと考えています。置き土産があり、「金融緩和規模縮小」という方向性が示されればいいですが、置き土産がなかった場合、「超ハト派」であるイエレン次期FRB議長自身が「金融緩和規模縮小開始」という「タカ派寄りの政策」を打出さなければならなくなります。

その時までにイエレン次期FRBが最もこだわる「雇用」において「確認できる証拠」が得られなかった場合、FRBはQE3を続けなくてはならなくなります。既に準備預金残高が法定準備預金額の19倍に達している米国にとっては、QE3の継続もこれは大きなリスクとなります。このまま長期国債と住宅ローン債権という期間の長い債券を市場から購入する形で金融緩和を続けて行くことは、出口をより困難なものにしてしまう可能性があるからです。

また、10日に公表されたFOMC議事録の中では、市場とのコミュニケーションについても興味深い記述があります。

「購入縮小を支持したメンバーについて、議事録は『市場は購入縮小が決まる可能性が高いとみているようで、それを踏まえると、縮小の発表を年内のより遅い時期もしくはさらに後に先延ばしした場合、委員会のコミュニケーションの有効性に著しい影響を及ぼす恐れがあるとの見解が示された』と記した。
さらに、『当局がそうした状況で購入を縮小しなければ、経済データの明白な改善や連邦財政をめぐる不確実性の迅速な解消がない限り、今後数カ月において購入縮小の説明が難しくなる可能性がある』との見解が表明された」(Bloomberg)

こうした指摘にも表れていますが、9月のFOMCで「金融緩和規模縮小の先送り」を決定したことで、FRBと市場のコミュニケーションは非常に難しく、慎重さが求められるようになって来ています。
【参考記事】「コミュニケーションの重要性」を掲げるFRBが招いた「ミス・コミュニケーション不安」

このような厳しい状況のなかで、「雇用」を重視する「超ハト派」のイエレン次期FRB議長は、上手く「タカ派的政策」に舵を切れるのでしょうか。「際どい判断」ではありますが、金融市場での「イエレン歓迎ムード」はそれほど長くは続かないように思えます。
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コメント

イエレン氏は2007年に金融危機がヒートアップし始めた際、この問題が深刻なリセッションになることを最初に気が付いたメンバーの一人でした。FOMCの声明では「インフレ懸念を前面にだし、景気下振れリスクは気が付いているがそのまま見守っていこう」とする声明でした。イエレン氏は「景気下振れリスクに対しては中止するだけでは納得できない」と主張したことで「ハト派」のれテルを張られたのでしょうが、それ以前の言動を見ればそうでないことは明瞭です。サブプライム金融危機の原因になった、2000年前半の金融緩和の行き過ぎに対して、誰よりも早く警鐘を鳴らしています。イエレン氏は銀行の安易な融資姿勢、FRB理事会の甘い対応に明確に不満を漏らしているのです。イエレン氏は銀l候セクターに厳しい姿勢で臨むことが予想され、このことからウw-るストリートは意図的にイエレン氏を攻撃する情報を流していたと思われます。金融機関に関係が深いサマーズ氏が辞退したことでイエレン氏が次期議長に就任することは最適な人事だと思います。

Re: タイトルなし

自然様
貴重なご意見をありがとうございます。イエレン氏の指名が最善の選択であったことは同感です。ただ、FRBと市場のコミュニケーションが難しくなった局面で、「ハト派」と目されているイエレン氏が、上手く「金融緩和規模縮小」に向けて市場とコミュニケーションをとって行けるのかという点について懸念を抱いているということです。また、確かにイエレン氏がリーマンショック前にいち早く警鐘を鳴らしたことは事実ですが、投資銀行がBSを膨れ上がらせてしまったことに対する警鐘と、膨れ上がってしまった中央銀行のBSの処理とでは、立場と方向性が違いますから、個人的にはそれを以てイエレン氏が事態を上手く収集できるとは信じきれないというところです。別に彼女でなくても同じことなんですけど。イエレン氏が次期FRB議長に指名されることはごく自然な流れですが、当然なだけに市場が過度な期待を抱いてしまうのではないかということが気に掛かってしまいます。考え過ぎかもしれませんが。
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近藤駿介

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