公共工事入札優遇制度~「金融政策」も「財政政策」も効かない恐ろしい社会

「政府・与党は建設業の人材不足が深刻になっている点を踏まえ、公共工事の入札制度を見直す。価格の安さを追求する姿勢を改め、若手の技術者を活用する企業を優遇する点数制を導入する。熟練労働者との組み合わせでノウハウを引き継ぐ工事も奨励する。復興や防災、古いインフラの更新や東京五輪の施設整備など高水準の工事が続く見通しもあり、次代を担う人材の育成を急ぐ」(10日付日本経済新聞「若手技術者 活用促す 公共事業入札に優遇制度」

政府・与党は建設業の人手不足が深刻化していることを踏まえ、若手技術者を活用する企業を優遇するように公共工事の入札制度を見直すようです。しかし、何とも付け焼刃的な感じは否めません。建設業の人手不足には、高齢化の影響もありますが、根本的にはこれまで公共事業費を削り過ぎて来たことが原因ですから、若手の技術者を増やすためには、公共事業費を一定以上維持することを政治的にコミットする必要があると思います。公共事業が削減され続けることで仕事が減り続ける斜陽業界に身を投じる若手が減るのは当然のことです。

筆者は理工学部土木工学科出身ですが、母校の土木工学科はとっくに消滅しておりますし、社会人のスタートを切ったゼネコンも解体され事実上消滅するなど、建設業界では淘汰が進んで来ており、若手技術者を増やすといっても一朝一夕では出来ない相談です。

しかも、いまや建築工事現場の監督の大半は、元請のゼネコンの社員ではなく、技術者派遣会社から派遣されてくる派遣監督で占められるようになっています。独立採算制の工事現場では、現場監督もコストですから、収益を上げる(残す)ためには、自社で技術者を多く抱えることは困難だからです。大学でも、ゼネコンでも技術者教育をしなくなったなかで、若手技術者を活用する企業を優遇するように制度変更したからといって、事態を好転させることは簡単ではありません。

特に土木工事は経験工学ですから、学校などで幾ら机の上の勉強をしても、実践ではほとんど役に立ちません。これは金融も同様で、机の上で、どんな立派な理論を覚えても、実際にはほとんど役に立たないことは、永田町・霞が関界隈を生息地域としている「専門家・有識者」達が身を以て証明してくれている通りです。土木の技術者から金融業界に転じた経験からいうと、「経験工学である」という点において、土木と金融には共通点があるように感じます。

アベノミクスの「機動的な財政政策」や復興事業によって公共事業費は増加していますが、建設業界に若手技術者を呼び込むためには、こうした一時的な政策対応だけではなく、国民の意識から変えて行く必要があるように思います。日本では長い時間を掛けて国民の間に「公共事業=悪+無駄」という認識が植え付けられて来ました。こうした国民の認識を、「国を支えて行くために公共事業は一定規模以上維持しなければならない」というものに変えて行かない限り、根本的な問題解決にはならないように思います。「公共事業=悪+無駄」という負のイメージが植え付けられている限り、「財政再建」を優先する政権が誕生したら、再び公共事業は真先に減らされる対象にされてしまうことが確実だからです。これでは、若い人は建設業を目指さないでしょうし、大学やゼネコンが技術者育成に力を入れることを望むべくもありません。

「建設業界の人手不足が深刻化している」ということは、今の日本社会は、公共事業を中心とした「財政政策」が効きにくい社会になってしまっているということでもあります。ご存知のように、政府が国内経済をコントロールする方法としては、「金融政策」と「財政政策」の二つがあります。

日本は既に政策金利から10年国債利回りまでほぼ「金利≒0%」といえる状態になっており、「流動性の罠」に陥っているといってもいい状況にあります。「流動性の罠」にはまってしまうと、「金融緩和」に「異次元」という形容詞を付けてお金を大量にばら撒いても、資金が投資に向かうわけではありませんから、「金融政策」による景気刺激効果には期待し難い状況には変わりがありません。

経済が「流動性の罠」に陥った時に有効であると言われているのが「財政政策」です。しかし、長い時間を掛けて「公共事業=悪+無駄」という認識が擦り込まれて来た日本では、「財政健全化」という錦の御旗のもとで、公共事業の削減が続けられて来ました。その結果、建設業界を目指す若い人達も減り続け、遂に、「人手」が「公共事業のボトルネック」となるところまで来てしまいました。「人手」が「公共事業のボトルネック」になってしまうということは、政府が予算を増やしても実際にその資金が社会に行き渡らなくなるということですから、「財政政策」の景気刺激効果が失われることを意味するものです。

つまり、現在の日本社会は、「流動性の罠」によって「金融政策」が効かなくなった上に、「人手」が「公共事業のボトルネック」になることで「財政政策」も効かない社会に近付いているということです。これは、政府が国内景気を刺激する手段を、二つとも失うということを意味しますから、2020年東京オリンピック招致を決めた安倍総理の演説に準えれば、今の日本経済は、「the situation is not under control」という状況にあると言えそうです。

1990年代、バブル崩壊によって金融業界と不動産業界は、経済的にも社会的にも大打撃を受けました。「金融政策」で最初に刺激されるはずの両業界が、経済的打撃に加え、世論のバッシングに晒され必要以上の打撃を受けたことによって「金融政策」自体が無力化してしまったことが、「失われた20年」を招く一つの要因にもなりました。

こうした過去の教訓に目を向けずに、「公共事業=悪+無駄」という感情的な理由で公共事業費を削り続け、建設業界に打撃を与えて来たことによって、遂に、「人手」が「公共事業のボトルネック」になり、「財政政策」までもが効きにくい社会が到来してしまったようです。

公共事業の入札制度を見直すことも必要なことかもしれませんが、景気を「under control」にするためにも、政府は「公共事業=悪+無駄」という負のイメージを払拭するような努力を続けて行くことが必要です。そのためには、政治家や官僚が「利権」を生むことに精を出すのではなく、襟を正し、公共事業の重要性を国民に理解してもらう努力を続けることが必要不可欠ではないかと思います。


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タイトル:近藤駿介 金融経済探考「天馬行空」
 第1号 :アベノミクス崩壊への槌音

消費増税の影響に関して巷では、GDPがどうなるこうなるという分析ばかりがなされています。しかし、アベノミクスは「円安・株高」という金融現象によって景気回復期待を醸成し、気分的高揚によって消費を拡大させようという政策ですから、金融市場への影響を無視してGDP云々を議論しても片手落ちになると思っています。

マーケット感覚からすると、安倍総理による消費増税決定は最悪の選択だと思っています。それは、今回の消費増税が、アベノミクスの要諦を否定することになったからです。

経済の専門家の間からは日銀の追加緩和期待も出て来ていますが、金融政策が効果を発揮する可能性は極めて低いと思います。小生の個人的評価では史上最低レベルの日銀総裁である黒田日銀総裁は火に油を注ぐような対応しか出来ないのではないかと勝手に想像しています。

小生は、安倍総理が消費増税に踏み切った一つの要因は、安倍総理自身がアベノミクスを理解していなかったところにあると考えています。こうしたマーケット感覚からのまとめていますので、ご興味のある方は、是非ご一読ください。
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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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