アブラハム社「6ヶ月間の業務停止命令」~登録制を維持しつつ悪徳業者にレッドカードを突き付けた金融庁

金融庁は11日、投資助言会社大手のアブラハム・プライベートバンクに対し、「登録取り消しに次ぐ厳しい処分」(日本経済新聞)である、同日から2014年4月10日まで「6ヶ月間の業務停止命令」を出したと発表しました。

また、アブラハム社と同時に、同じ「無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」を理由に行政処分勧告を受けたIFA JAPANとK2Investment に対する行政処分は、IFAが「3ヶ月の業務停止命令」、K2 Investment に対しては「1ヶ月の業務停止命令」となりました。

アブラハム社の処分が「登録取り消しに次ぐ厳しい処分」になったのは、運用会社から報酬を受け取るために海外子会社まで設立していたという「悪質性」に加え、「誇大広告」、「損失補填・利益供与」という違法行為が重なったからだと思われます。

今回の金融庁の行政処分の重要なところは、これまでグレーゾーンでもあった「金融商品販売業者登録をしていない投資顧問会社(「投資助言・代理業」あるいは「投資運用業」の登録業者)」による「海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」を、本来の法解釈通り「クロ(違法行為)」だと断定し、今後は業務停止命令を出す姿勢を明確に示したことです。

そして、「無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」がどのような行為を指すのかということについては、具体的に「投資顧問契約を締結した顧客又は当社に問い合わせをした者に対し、外国投資証券の商品内容、コスト、手数料及びリスク等の説明を行うとともに、外国投資証券の取得申込みを依頼した者に対し、取得申込手続のサポートを行うことにより取得契約を成立させている」という行為と、「当該取得契約の成立の対価として、外国投資証券の発行者から委託を受けている管理会社又は運用会社から顧客の外国投資証券の購入額に応じた報酬を受領する」という行為の2つであるとしています。

そのうえで、このような「外国投資証券の発行者のために行う募集又は私募を取り扱う行為」は、第一種金融商品取引業に該当するものであり、当変更登録を受けることなく第一種金融商品取引業を行うことは、金商法に違反するものだとしています。

ここでの注目されるのは、「外国投資証券の発行者のために行う募集又は私募を取り扱う行為」を行うために必要な登録は、有価証券を取り扱う「第一種金融商品取引業」であり、集団投資スキームを取り扱う「第二種金融商品取引業」ではないと、ハードルを高くしたところです。「第一種金融商品取引業」の方が役員の兼務や兼業などに関して強い規制がありますから、アブラハム社のように「(100%親会社である)AGH(アブラハム・グループ・ホールディングス)と役員及び事務所を同じくする」スキームは、今後は許されないということになります。

「助言業者は顧客からアドバイス料を受け取り、中立的な立場で最適な金融商品を提案する。…(中略)…アブラハムは取り扱っていた海外ファンドから『広告料』などの名目で販売手数料を受け取っていたことが判明。中立的な立場を逸脱し、無登録で販売業を営んでいたと認定した」(11日付日本経済新聞「全業務停止6ヵ月 アブラハム無登録販売」)

日本経済新聞は11日付朝刊でこのように、「投資助言・代理業」は顧客にとって「中立的な立場」を維持するために、運用会社から実質的な販売手数料を受け取ってはいけないような書き方をしていました。しかし、今回「業務停止命令」を受けた3社は全て「運用会社から報酬を受領」していましたが、金融庁の公表文書では、これを「外国投資証券の発行者のために行う募集又は私募を取り扱う行為」だとして、「第一種金融商品取引業」が行う業務であり、「運用会社から報酬を受領する」こと自体は違法行為だとしていませんから、「第一種金融商品取引業」の登録をすれば、投資顧問会社が「運用会社から報酬を受領する」ことは認められる可能性はあるように思います。

「運用会社から報酬を受け取る行為」が違法行為なのではなく、「第一種金融商品取引業」の登録をせずに「運用会社から報酬を受け取ること」が違法行為だということです。つまり、運用会社から報酬を受け取りたいのなら「第一種金融商品取引業」の登録をしなさいということのようです。

日本経済新聞が指摘する「中立的な立場」を維持するという概念は、金商法41条「〈顧客に対する義務〉金融商品取引業者等は、顧客のため忠実に投資助言業務を行わなければならない。2 金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもつて投資助言業務を行わなければならない」に含まれているということで、何を以て「中立的な立場」なのかを具体的に示す必要はないという判断だったのかもしれません。

8月末時点で「投資助言・代理業」として「金融商品取引業者」に登録している業者は1,023社ありますが、そのうち「投資助言・代理業」と「第一種金融商品取引業」の2つだけを登録をしている業者は僅か9社に過ぎません。そしてその殆どが、「第一種金融商品取引業者」である証券会社が「投資助言・代理業」の登録をしているという状況で、「助言・代理業」登録業者が「第一種金融商品取引業」の登録をしていのは1社程度に過ぎません。

今回金融庁がアブラハム社を含む3社に対して「(金融商品取引業の登録をしていない)無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況」が違法行為であることを明確に示し、「業務停止命令」を出したことによって、「第一種金融商品取引業」の登録をしていない投資顧問会社が特定の海外ファンドに投資することを前提に投資顧問契約を締結することは事実上出来なくなりました。

金融庁は、現時点ではほとんど例のない「助言・代理業」に「第一種金融商品取引業」の登録を義務付けるという高いハードルを設けることで、登録制を維持しつつ、悪徳業者の参入を防ぎ、厚生年金基金に続いて個人投資家がカモになることのないようにしたようです。

(金商法の解釈等は、個人的印象に基づくもので、正確性を保証するものではありません)


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コメント

一種・二種

今回問題になっている(アブラハム社が取り扱っている)有価証券は第一項有価証券(投資信託・外国投資信託の受益証券 / 投資証券・投資法人債券・外国投資証券)でしょうか、それとも、第二項有価証券(外国集団投資スキーム持分)でしょうか?

Re: 一種・二種

Skywalker様 この度はコメントを頂きありがとうございます。ご質問の件ですが、ハンザ―ド社の商品に関しては、商品形態が不明ですので、どちらかは断定できない状況です。アブラハム社が取り扱っていた商品という点からは、証券取引等監視委員会、金融庁が「外国投資法人が発行する外国投資証券及び外国で発行される集団投資スキーム持分(以下、これらを総称して「海外ファンド」という。)」と表現をしたうえで、「第一種金融商品取引業」に該当する業務を無登録で行っていたとしていますから、投資対象に外国製投信が含まれていたことは間違いないと思います。また、アブラハム社もHP上で「日本に出回っている投資信託は、世界で流通している金融商品のわずか3%」と謳っており、外国籍投信を扱う意思があったことは間違いないと思います。

あのー、何度もすみません。

「募集又は私募の取扱い」を業として行うにあたって、第一種業が必要か第二種業が必要かは、取り扱う有価証券が、一項有価証券(株やら債券やら投信やら)か、二項有価証券(信託受益権とか集団投資スキーム持分とか)かによって決まるんですよ。

金融庁のハードル云々の問題では一切ないです。
金商法の条文がそうなっているだけのことです。
海外集団投資スキームしか取り扱っていないなら、二種の登録で足りますし、外投の取り扱いがあれば、一種の登録を要します。


>「第一種金融商品取引業」の登録をすれば、投資顧問会社が「運用会社から報酬を受領する」ことは認められる可能性はあるように思います。

そんなことは当たり前です。
「ように思います。」じゃなくて。

休みの日の朝から申し訳ないですが、金商法の入門書の最初の方(有価証券の種類や金商業の種類のところ)だけでよいので、お読みになるべきです。
正確性を保証しなさすぎの誤導文章になっております。

和牛預託、はたまた、MRI投資など金融被害に対し世間は他人事扱いをしているので、私は近藤様のブログを評価します、

金商法の解釈がどうだ、、、というコメントを気にせず好きなことを書いてください。とにかく悪いことは悪いんだというネットで声を上げることが今の日本で正しく行われていません。

この件についてフォーローしますと。もともとアブラ社は、広告で金融機関で投資をせずにダイレクトで直接海外投資をしよう!と勧誘していたので、ビジネスモデルではなく金商法に抵触する事は予想できたはずです。また、必要となるのは第一種となります

一般的な投資助言業者はIFA制度で日本の証券会社に顧客やファンド紹介し、顧客との販売責任は証券会社が負います
実際に、海外のファンドを日本で販売できるように届出をし合法的に業務を行っている証券会社もあります(IFAの間では有名な会社です)、そういった点では甚だ迷惑な事件でした

半沢風に言えば金融庁のクロサキ検査官から倍返しされたわけです、今回の処分もメイヤー・アセット(現メイヤー・インターナショナル)の経験があったからこそ踏み切ったと思います。日本人から金融被害を減らしたいとの一念が有ると思います

>おもうことさん

私も、私のコメントなどは気にせず、近藤さんにはクソ業者に関する記事を書いてほしいと考えております。
過去の私のコメントのとおり、近藤さんの仕事は素晴らしいものと思っております。
私のコメントに反応したエントリも立てていただきましたし、本件の盛り上がりに貢献できたかも、とも思っております。

ただ、近藤さんは、業者の悪行そのものより当局の姿勢に焦点を合わせた記事を書かれるので、それいろいろ違うでしょ、と突っ込みたくなった次第です。

おもうことさんが繰り返し書かれているメイヤー社への処分を、近藤さんはスルーされていますし…。
この手の処分の嚆矢ですから、なぜ無視するのかと…(以下略)。

どなたかがつぶやかれてましたが、「想像が旅立ってしまった感じ」なんですよね…、近藤さんの文章は…。
もったいない。。。

いずれにしても、(そんなことはありえないと思いますが)私のコメントにより近藤さんの活動が委縮するようなことは私の本意ではないので、ウンコ業者に知識で負けないよう弁護士さんと連携されて、今後もやつらの糾弾を頑張ってください…!

オレンジさん

ご意見ありがとうございます。了解しました
この問題の本質は年金基金問題ではなく、投資助言業に見せかけた詐欺や高リスクなどの危険なファンド仲介、さらには自ら関与する詐欺事件と認識しています
(APBが詐欺師ということではありません)

メイヤーの問題は多くの専門家で掘り下げてほしいです
メイヤー摘発という経験があったからこそ、APB取締りの布石となった、それ程に海外ファンド取締りの起爆剤となった事件だと思います
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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