政府の恩返し~「外貨準備運用民間委託」は消費増税実現の論功行賞

一体今度は何の「恩賞」なのかと考えてしまいました。

「政府は約1兆3千億ドル(約130兆円)に上る国の外貨準備の運用を見直す。全額を政府が運用していた体制を改め、民間の運用会社や信託銀行などと契約を結び、一部を外部に委託できるようにする。民間のノウハウを取り入れ、運用の効率を高めるのが狙いだ。必要な法改正を経て2014年度からの実施を目指す」(13日付日本経済新聞「外貨準備運用 民間でも」)

政府は約130兆円に上る外貨準備の運用の一部を民間に委託するようです。当面は全体の数%と見られていますが、「それでも数兆円規模で投資に絡むビジネスが生まれる」(日本経済新聞)ことになります。日経は「ビジネスが生まれる」というとてもスマートな表現を用いていますが、泥臭く言えば数兆円規模の「利権が生まれる」ということです。

「委託先には手数料を払わなければならない。そのコストが生じても、政府は民間の知見を取り込むことで金利動向に応じて、きめ細かな売買や丁寧なリスク管理ができると期待している」(日本経済新聞)

政府は「民間の知見を取り込む」ことを目指しているようです。では、「民間の知見」が生み出す「付加価値」というのは、実際にどれほどのものなのでしょうか。それを、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用状況から推測してみましょう。

GPIFは公的年金を運用する、資産規模121兆116億円(2013年6月末時点)の世界最大の投資家で、総資産の約10%に相当する12兆1418億円(同)を「外国債券」に配分し、民間運用機関への外部委託という形で運用をしています。

そのGPIFの「外国債券」の運用状況がどうなっているかというと、2013年4-6月期は時間加重収益率が+4.01%となり、GPIFが設定した複合ベンチマークの収益率+4.23%に▲0.22%負けている、つまり「付加価値がマイナス」という状況になっています。

もちろん僅か3ヶ月という短期間で見ても意味がありません。GPIFが公表している資料によれば、2012年度までの「直近7年間」のパフォーマンス(年率)は、時間加重収益率が2.58%と、ベンチマーク収益率の2.45%を0.13%上回っており、「直近3年間」でも時間加重収益率は2.58%と、ベンチマーク収益率4.64%を0.19%上回ってますから、「付加価値はプラス」といえる状況にあります。(参考チャートはこちら

GPIFの資産規模は外貨準備とほぼ同額ですし、日経の記事によれば、外部委託される規模も数%ということですから、GPIFの「外国債券」運用と、ほとんど同じ運用条件だといえます。従って、外貨準備が外部委託された場合に得られる可能性のある「付加価値」は、GPIFの運用状況から推察される「0.13~0.19%」程度と見積もっても問題ないと言えます。

GPIFが外部委託している金額は約12兆円ですから、超過収益率が「0.13%~0.19%」と顕微鏡で見なければならない程度であっても、金額に直すと「約158億円~230億円」と大規模なものになります。しかし、この「0.13%~0.19%」という「付加価値」の実績は、「対ベンチマーク超過収益率=時間加重収益率-ベンチマーク」ですから、ベンチマークよりも「負けが小さかった」という「付加価値」も含まれています。要するに、「超過収益がプラス」ということは、必ずしも「収益がプラス」を意味するものではないということです。

実際に、GPIFの公表資料によると、2006年度以降2012年度までの7年間で見ると、超過収益率がプラスだった年度は4回ありますが、そのうち2回は「負けが小さかった」という「付加価値」になっています。(参考チャートはこちら)

一方、GPIFは外部委託の手数料として約0.06%、金額にすると2012年度で57億円のコストを支払っています。必ずしも「収益がプラス」ということを意味しない「0.13%~0.19%」の「付加価値(= ベンチマークに対する超過収益)」を得るために、「0.06%」の外部委託手数料を固定コストとして支払うという構図になっているのです。

外貨準備の一部を民間に委託した際に得られる「民間の知見による付加価値」は、GPIF同様「0.13%~0.19%」だということ、そして、委託手数料もGPIFと同率の約0.06%だとすると、「手数料控除後の民間の知見による正味付加価値」は「0.07%から0.12%」程度だということを、まず把握しておくべきだと思います。そのうえで、コストパフォーマンスやリスク・リターンの関係から、これをどのように判断するかという問題になります。

コストパフォーマンス等とは違った観点から言えば、数兆円規模の政府資金を民間委託するということは、配分過程において「利権」が生じますし、資金を配分するということは、受託機関にその資金をもとにしたビジネス機会が提供されるということでもあります。

「法改正後は銀行に限られている保有債券の貸出先を証券会社にも広げる。貸出手数料の増加を通じて運用収入の拡大を見込む」

この日経の記事で、もう一つ注目されるのは、ここではないかと思います。外貨準備の外部委託先は、信託銀行と投資顧問会社ということになり、証券会社は含まれません。また、証券会社は政府が外貨準備として保有している債券の貸出先にも含まれていません。ですから、「保有債券の貸出先を証券会社にも広げる」という措置は、証券会社も外貨準備から生じる「利権」にありつけるようにするものだということが出来るのです。

外貨準備の民間委託は、「0.07%から0.12%」程度の「正味付加価値」と引き換えに、主な金融機関が業態の垣根を越えて、皆が「利権」にありつける機会を与えるための措置に思えてなりません。

では、何故そこまでして政府は金融業界が「利権」にありつけるようにする必要があるのでしょうか。

それは、金融機関に属しているエコノミスト等の「有識者達」が、消費増税を支持し、その正当性を訴える提灯記事やコメントを、マスコミを通して出し続けて来たからではないかと思います。先日約5年ぶりに発行された物価連動国債の発行条件が、購入者となる金融機関や、販売をする証券会社が、ほとんど損失を被ることの無い様な条件になったことなども含めて考えると、金融業界に恩恵を与えようとしているようにしか思えません。

物価連動国債の発行、外貨準備運用の外部委託・・・。これらは金融業界あげて消費増税実施に協力したことに対する政府からの恩賞、「政府の恩返し」というのが実態なのかもしれません。


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