「ゆがみを蓄積」してまで長期国債購入にこだわる無能な中央銀行

「債券市場で強まる日銀依存。『長期金利に押し下げ圧力をかける』という日銀による巨額の国債買い入れがまずは奏功している証しである半面、市場では、じわりとゆがみも蓄積しつつある」(19日付日本経済新聞 「国債市場 進む日銀依存(解説)」)

「夏以降に新しく発行した国債のうち日銀が保有する割合は10年債で3~4割に達した」ということですから、日銀の巨額の国債買入れが「長期金利に押下げ圧力」をかけていることは事実なのだろうと思います。しかし、それを以て日銀が大量の長期国債を購入し続ける「異次元緩和」が「奏効している」と決め付けるのは短絡的です。

そもそも、黒田日銀は何故巨額の国債買入れを実施する必要があったのでしょうか。

「デフレ脱却に向けて資金供給量であるマネタリーベースを年60兆~70兆円増やす」ことが目的のための当然の策だという見方もあろうかと思いますが、マネタリーベースを増やすことが目的であるならば、長期国債ではなく、短期債を購入対象にしても同じです。

財務省の統計によると、3月末時点での普通国債残高は、705兆72億円ですが、最も残高が多いのは「1年以下」の126兆4402億円で、残高全体の17.9%を占めています。そして、「3年以下」までの国債残高は271兆3776億円で、残高全体の38.5%を占めています。これに対して、「長期国債」と言われる残存期間「7年以上」の国債残高は258兆4401億円と、残高全体の36.7%と、「3年以下」の国債を下回っています。また、「長期国債」のうち、通常「長期国債」と言われる「7年超10年以下」の国債残高は100兆6298億円と、残高全体の14.3%に過ぎません。

普通国債残存期間別内訳

つまり、「ゆがみ蓄積」を生まずにマネタリーベースを増やすのであれば、残存期間が「3年以下」の国債を購入した方が賢明だということです。

それにも拘らず、日銀は「質的緩和」と称して、残存期間が7年超の国債の購入にこだわっています。

「新発10年物国債の利回り(長期金利)は0.6%台。株価が上昇すれば、安全資産である国債は下落(金利は上昇)するが、このところの株高でも金利の上昇の勢いは限られる。18日の10年債利回りは前週末比横ばいだった。国内の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比で上昇が続き、米欧経済も緩やかな景気改善が続く。金利の上昇要因は増えているが、金融機関に『買った国債を日銀に売ればよい』との安心感が広がり、金利の上昇を抑えている」(日本経済新聞)

日経は、このように株高やデフレ脱却による金利上昇を抑えていると、ポジティブな評価をしています。しかし、本当に長期金利上昇を抑える必要があるのか、その効果があるのかという点は全く検証されておりません。

長期金利の上昇は、銀行が保有する国債価格の値下がりを通して金融システムへの悪影響が及ぶことが考えられます。しかし、大手行が保有する国債の「平均期間も1.4年~2.7年に圧縮し、仮に金利が上昇しても含み損が膨らみすぎない」(19日付日本経済新聞 「銀行 好決算の死角」)ようになって来ており、金利上昇が金融システムリスクを引き起す可能性は低下して来ています。

また、長期金利の上昇は住宅ローンの貸出金利の上昇等を通して、景気下押し要因になりますから、これを抑えたいという理屈は理解出来ます。しかし、日本の新発10年国債利回りは0.6%程度に過ぎませんから、金利水準が景気を下押ししているとはとても思えない状況です。

結局のところ、黒田日銀が「ゆがみを蓄積」することを厭わず、長期国債を購入してマネタリーベースを増やしているのは、米国の真似をしているのと、日銀が購入する国債の残存期間を3年以下に限定して来た白川前日銀総裁との違いを出したいということだけと言っても過言ではないと思います。

その米国のイールドカーブは、日本に比較するとかなり立っている(期間が長い金利の方が高い)状況にあります2008年以降の国債長短金利差(=10年国債利回り-2年国債利回り)の推移を見ると、米国は平均して2.1%であるのに対して、日本は0.9%に過ぎません。直近で見ると、米国は2.5%程度、日本は0.5%強になっています。つまり、長短金利差が少ない(イールドカーブが平坦な)日本では、米国と比較すると長期国債を購入して長期金利を押下げるメリットがほとんどないということです。

日銀は、10月時点でマネタリーベースを3月比で52兆1274億円、率にして約38.7%増加させてきています。しかし、同期間の日銀当座預金増加額は51兆3902億円となっており、日銀が増やしたマネタリーベースのうち98.6%は、日銀当座預金にブタ積みされ、貸出等には向かっていません。これは、長期金利が、景気回復のボトルネックになっていないということの証左でもあります。

米国と欧州は、ともに国債による資金調達を海外に頼らなければならない国ですから、資金調達を円滑に進める為に、長期金利の上昇は避けなくてはなりません。必要な資金の92%を国内で調達出来ている日本とは決定的に違っているのですから、日銀が盲目的に米国の金融緩和策を真似る必要はないわけです。マネタリーベースを増やすのであれば、国債市場での「ゆがみを蓄積」させるリスクの少ない白川日銀方式の方が、ずっと日本の実情にあっているといえるのです。

FRBが金融緩和規模縮小の先送りする姿勢を見せ、ECBがマイナス金利や資産購入による金融緩和を示唆する中で、日銀によるさらなる金融緩和を期待する声が上がって来ていますが、長期国債購入額を増やすような金融緩和規模の拡大は、将来の「出口」を極めて難しくすることになるということを忘れてはなりません。黒田日銀総裁は「出口論は時期尚早」としていますが、「出口」を考えない金融緩和策を打ち出すというのは、中央銀行としての怠慢でしかありません。

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR