年金運用の素人集団「有識者会議」が提言する、公的年金の「恣意的運用」

「恣意的運用 歯止め不十分 秘密保護法案 骨格変らず」(21日付日本経済新聞見出し)

特定秘密保護法案において政府による「恣意的運用」が懸念される中、公的年金の運用においては「恣意的運用」が有識者達によってお墨付きが与えられました。

「安倍政権においては、長期化しているデフレからの脱却を目指し、大胆な金融政策という第一の矢、機動的な財政政策という第二の矢に加え、第三の矢としての成長戦略への取組が進んでいる。当有識者会議は、こうした取組の一環として、各資金の運用に係る検討を行っていることに鑑みれば、日本経済にいかに貢献し得るかを考慮する考えもある」(「公的準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議報告書」Ⅱ デフレからの脱却を見据えた運用の見直し 1 運用目的)

120兆円超の資産を抱える公的年金の運用改革を検討している有識者会議の目標は「日本経済にいかに貢献し得るか」、換言すると「アベノミクスに貢献」することのようです。アベノミクスが効果をあげるために、あるいは効果があがっているように映るように、有識者会議は、公的年金の「国債主体の資金配分を見直し」と、「成長株に重点を置く株式投資に加え、不動産や公共インフラにも投資する」必要があると考えているようです。

アベノミクスが功を奏し、株価が上昇した結果公的年金の運用収益が拡大するのではなく、公的年金が国内株式への配分を増やすことで株価を下支えし、アベノミクスによる景気回復とデフレ脱却を演出しようとするところが「アベコベミクス」と揶揄される所以かもしれません。

有識者会議は、さらに、

「今後、我が国経済がデフレを脱却することを見据えて、金利上昇に備えたリスク管理や資産評価の在り方について十分に検討し、速やかに対応策を講じるべきである。こうした観点から、例えば、最近発行が再開された物価連動国債を運用対象とすることについても検討すべきものと考えられる」

とも指摘し、物価連動国債への投資を「直ちに取り組むべき課題」に加えました。この10月から発行された物価連動国債の2013年度の発行予定額は6,000億円と、GPIFが運用資産の0.5%を配分すれば物価連動国債を全て買い占めることが出来てしまう規模にすぎません。つまり、物価連動国債を「直ちに」組み入れたとしても、GPIFポートフォリオ全体の「金利上昇に備えたリスク管理」には到底なりません。

それでも有識者会議が物価連動国債への投資を「直ちに取り組むべき課題」に加えているのは、期待インフレ率(BEI=10年国債利回り-物価連動債利回り)を都合のいい方へコントロールしようとしている意思の表れかもしれません。

19日付日本経済新聞 「国債市場 進む日銀依存」 という記事で報じられた通り、「夏以降新しく発行した国債のうち日銀が保有する割合は10年債で3~4割に達した」ことで、「市場では国債価格が高止まりし、国債の利回り(長期金利)は0.6%台と低位での推移」が続いています。10年国債の利回りが、本来あるべき姿よりも低く抑えられているということは、そこから物価連動国債の利回りを引いたBEI(期待インフレ率)も本来あるべき水準よりも低くなっているということでもあります。

長期金利が低く抑えられていることは、「アベノミクス」による円安・株高によって景気回復を目指す安倍政権にとっても、「異次元の金融緩和」による長期金利抑制効果を主張したい日銀にとっても好都合なことです。

しかし、「2%の物価安定目標」を掲げる安倍政権、黒田日銀にとってBEI(期待インフレ率)の低下は、世の中にインフレ期待が醸成されていないことを示す不都合なものです。BEIを安倍政権と黒田日銀に都合の良い方向、2%近傍に誘導するためには、物価連動国債の利回りを下げて、BEIを上昇させる必要があるのです。実際には物価連動国債は消費者物価指数に連動しますから、消費税率が8%に上昇する4月以降を睨んで物価連動国債の利回りは低下し、BEIも上昇するはずなのですが、消費増税後の景気腰折れを見込んで期待するほど10年国債利回りが上昇せず、物価連動債の利回りが上昇してしまうことでBEI(期待インフレ率)が上昇しなかったら、「アベノミクス」も「異次元の金融緩和」も失敗だという烙印を押されかねない事態に陥ってしまいます。

こうした最悪の事態を回避するためには、「リスク管理上」GPIFの資金で物価連動国債を「直ちに」購入出来るようにしておく必要があったということです。長期国債の利回りが日銀の「異次元の金融緩和」によって低めに歪められてしまっていますから、物価連動国債の利回りも低めに歪めておかないと、辻褄が合わなくなってしまうのです。安倍政権に任命された有識者達は、「有識者会議」という看板のもとで、「有識者」に任命してくれた安倍政権に対する恩返しとして、「アベノミクス」が上手く行っているようなお化粧に手を貸しているというのが実態ではないかと思います。

また、「有識者会議案」では、「1年を目途に取り組むべき課題」として、「専門性の高い人材の採用」を挙げています。ということは、「有識者会議」のメンバー達は、自分達は年金運用の分野では「専門性の高い人材」ではないと考えているか、「専門性の高い人材」であると自惚れていて「1年を目途」に「高報酬」を得ようという下心を抱いているのかどちらかだということになります。

もし、有識者会議のメンバー達が、少なくとも年金運用の分野では「専門性の高い人材」でないのだとしたら、彼らが「公的年金の運用改革」を提言する資格はないはずです。そして、本当に彼らが「専門性の高い人材」が実在していると考えているのであれば、先に「専門性の高い人材の採用」をして、彼らに「公的年金運用改革案」を提言させるのが「有識者」としての論理的な行動になるのではないかと思います。

少なくとも年金運用の分野においては「専門性の高い人材」ではない「有識者会議」による、「アベノミクス」の効果を「恣意的に」演出するための提言が、「公的年金の運用改革」に繋がることは期待薄だと言えます。公的年金の運用は、まだまだラッキーに賭け続けることを強いられそうです。God bless you.

【参考記事】金融ニッポン 飛躍の条件~「彼我の差はあまりに大きい」と嘆く「有識者」を重用することなかれ


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