どっちが危険?~GPIFと日銀が抱える「金利上昇リスク」

「有識者会議座長の伊藤隆敏東大大学院教授は20日夕の記者会見で、日本経済は政府・日本銀行が2%の物価目標を目指す中で、約15年にわたるデフレから脱却しつつある『大きな転換点』を迎えていると指摘。金利上昇に弱い現在の資産構成を変えないと『危険だ。被保険者のためにならない』と語った」(11/21 Bloomberg 「GPIFの国内債偏重 『危険』、新リスク資産検討を-有識者会議」)

公的年金の運用改革を議論する有識者会議座長の伊藤東大大学院教授は、このように述べ、「日本銀行が2%の物価目標を目指す中」で、「金利上昇に弱い現在の資産構成」は「危険だ、被保険者のためにならない」と断言されています。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の現在の基本ポートフォリオは、今年の6月に国内債券67%から60%に引き下げられたばかりですが、有識者会議は「約15年にわたるデフレから脱却しつつある『大きな転換点』を迎えている」現在の局面では、60%でも「(金利上昇リスクが大きく)危険」と判断しているようです。

GPIFの国内債券のベンチマークは、修正デュレーションが7.5年程度の「NOMURA-BPI総合」が基本になっていますから、「金利上昇に弱い」という指摘はあながち間違いではありません。

不思議なことは、国内債券を60%抱えるGPIFのポートフォリオを「危険だ、被保険者のためにならない」と警鐘を鳴らす座長が、「2%の物価目標を目指す」日銀のポートフォリオに対して何の警鐘をならしていないことです。

「慎重な金融緩和」を続けてきた早川日銀時代の2012年には概ね60%台であった日銀のポートフォリオにおける「国債」の比率は、直近11月20日時点で82.1%へ、さらに「長期国債」の比率は50%台前半から62.5%へと、「異次元の金融緩和」によって大幅に上昇して来ています。 つまり、有識者会議の言葉を借りれば、日銀のポートフォリオは、急速に「金利上昇に弱い」「危険」なポートフォリオになっているのです。

このまま日銀が「2%の物価目標」を達成するために長期国債を購入し続け、その目標が達成されたとすると、それ以上日銀が長期国債を購入し続ける必要が無くなる訳ですから、日銀が大量に購入することで抑制されていた長期金利には上昇圧力がかかることになります。つまり、「異次元の金融緩和」というのは、日銀が自らが掲げた目標を達成すれば、長期金利の上昇によって日銀自身が多額の損失を抱えかねないというおかしな構図を自らが作り出しているところが「異次元」になっているのです。

日銀は中央銀行で、公的年金の運用をしているわけではありませんから、長期金利の上昇に伴う国債の価格下落で多額の含み損を抱えても、「被保険者のためにならない」という事態に陥ったようには国民の目に映らないかもしれません。しかし、そうではありません。

日銀の2012年度の経常利益は、「為替円安に伴い外国為替関係損益が大幅益超に転化したことを主因」(日銀HP)に、前年度比5,956億円増益の1兆1,316億円となり、「5,472億円を国庫に納付」しています。公的年金の「基礎年金」には、国の税金が半分投入されていますから、日銀が長期金利の上昇によって多額の含み損を抱え、国庫への納付が出来ない事態に陥るとなると、その穴埋めのために増税されることも十分あり得る話なのです。つまり、「被保険者のためにならない」事態が生じる懸念は存在しているのです。

「運用成績が上がらなければ年金給付の財源が不足。増税などの形で国民負担が増す懸念もある。安全性と運用収入増の両立を探る仕組みが実現するかは、『政治の意志にかかっている』(伊藤座長)」(21日付日本経済新聞 「脱デフレにらみ運用改革」)

伊藤座長はこのように述べていますが、GPIFの運用において「長期金利上昇リスク」を軽減しても、「長期金利上昇リスク」を日銀が一手に抱え込む構図では、「増税などの形で国民負担が増す懸念もある」状態からは脱することにはなりません。「増税などの形で国民負担が増す懸念」を増やすことなく、マネタリーベースを増やすことでデフレ脱却を目指すのであれば、日銀の購入対象国債を長期国債ではなく、早川前日銀総裁時代と同様に、短期国債中心にすべきであると主張するのが有識者としての品格のように思います。株式などを下支えする理屈付けをするために存在する有識者会議など、無用の長物であるとしか言いようがありません。

「政治の意志にかかっている」のは、GPIFの資産構成を国内債から株式などのリスク資産にシフトさせるか、という枝葉の議論ではなく、「日銀が長期金利上昇リスクを負うことで、GPIFの金利上昇リスクを軽減する」という考え方が、論理的に正しい選択肢なのか、という本質的な議論のはずです。

株価を下支えするために、年金や投資信託が利用されてきた過去の不幸な経験から、有識者達は何も学んでこなかったのでしょうか。有識者会議の話しを聞くたびに、日本が金融後進国であるという悲しい現実を突き付けられるような気がしてなりません。


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