「支離滅裂な理屈」と「歪んだグローバルスタンダード」で増発される物価連動国債

「財務省は物価の動きに応じて元本が変動する物価連動国債の発行額を2014年度に1兆2000億円と今年度に比べ倍増する方針だ。来春の消費増税や日銀の金融緩和で、公的年金を中心に物価上昇に備えた金融商品への需要が高まると判断した」(3日付日本経済新聞「物価連動債の発行倍増」)

財務省は物価連動国債の発行額を2013年度の6,000億円から倍増し、1兆2000億円とする方針のようです。「物価連動債は総務省が発表する消費者物価指数が上がると、元本が大きくなって利息も増えるため、実質的な価値の目減りを防げる」(日本経済新聞)という、物価上昇局面で「投資家に優しい債券」です。

物価連動国債が「投資家に優しい債券」ということは、裏を返せば「発行体(政府)にとって厳しい債券」ということでもあります。何しろ、「消費者物価指数が上がると、元本が大きくなって利息も増える」わけですから、政府が投資家に支払わなければならない元利金、つまり返済額が増えることになるからです。

安倍政権が14年4月から消費税率の引上げに踏み切ったのは、政府が1,000兆円にも及ぶ借金を抱えているという理由からです。一般的な借金は、理論上インフレによって実質的に軽減して行きます。だからこそ、アベノミクスでは「デフレからの脱却」、「2%の物価安定目標」を政策目標として掲げているのです。

しかし、一般的な借金ではなく、物価連動国債という「消費者物価指数が上がると、元本が大きくなって利息も増える」借金は、インフレになっても実質的に減って行かないものです。財政再建が喫緊の課題だとされている日本で、何故「消費者物価指数が上がると、元本が大きくなって利息も増える」ような、財政を圧迫するような国債を増やしていく必要があるのでしょうか。

「日銀の黒田東彦総裁は2日、名古屋市内で記者会見し、『2年程度で2%』の達成を目指す物価目標について『修正する必要もないし、そのつもりもない』と強調した」(3日付日本経済新聞 「2%目標 『修正不要』」)

それが日本経済にとってどのような意味を持つのかということに思いを巡らせたことの無い黒田日銀総裁は、依然としてオオムのように「消費増税の影響を除いた2%の物価安定目標」を目指して、「異次元の金融緩和」を続けると繰り返しています。

忘れてならないことは、この「2%の物価安定目標」というのは、14年4月に実施される「消費増税の影響を除いた物価上昇率」のことであるのに対して、物価連動国債の元利払いの基準になる消費者物価は「消費増税の影響を加味した物価指数」であることです。

日銀は10月31日に公表した「経済・物価情勢の展望」のなかで、「税率の引き上げ分が現行の課税品目すべてにフル転嫁されると仮定して機械的に試算すると、2014年度の消費者物価は2.0%ポイント、2015年度下期の消費者物価は1.3%ポイント(2015年度全体では0.7%ポイント)押し上げられる」としています。そして、消費増税の影響を加味した2014年度消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率を+3.3%と見込んでいます。

つまり、日銀の「異次元の金融政策」と、政府が進める「消費増税分の価格転嫁」が想定通りの効果を上げたとすると、物価連動国債の元利金の支払いは、3.3%も増えてしまう計算になるのです。国を挙げて「財政再建」、「デフレからの脱却」を目指している中で、デフレ脱却を果たしても実質的に借金が減らないような物価連動国債の発行を増やしていくという政策は、支離滅裂なものだと言えます。こうした支離滅裂な政策は、財政健全化という「でっちあげ国際公約」に背くものでもあります。

【参考記事】 「至れり尽くせり」の物価連動国債入札 ~政策目標を達成すると財政負担が増える「異次元のおバカな政策」

「日本の連動債が国債全体に占める割合は0.4%。イギリスは23%、米国やフランスは1割前後である点を踏まえ、財務省は『連動債の発行余地は大きい』(理財局)とみる」(同 日本経済新聞)

財務省と日本経済新聞は、ここでも「誤ったグローバルスタンダード」を持ち出し、「国債発行残高に占める物価連動債の比率」などというグラフまで示しています。財務省も日本経済新聞も、日本で物価連動国債の発行が少なかったのは「深刻なデフレを受け物価の上昇が見込めなくなった08年9月以降、発行を見送って来た」と、日本経済がデフレに陥っていたからだとしています。

もちろん、デフレ経済も一つの大きな要因ですが、無視してはいけないのは、日本国債は国内でほとんど消化されているのに対して、世界の主要国は外国人なしには国債発行が出来ない状況にあることです。物価連動債の比率が高いと言われる主要国の国債の外国人保有比率を見てみると、イギリスは30%程度、フランスは約60%、米国も約50%と、8%強の日本とは状況が全く異なっています。

【内閣府】先進主要国の国債の外国人保有比率
 【内閣府】先進主要国の国債の外国人保有比率

理論上、インフレ国の通貨は、2国間の相対インフレ分減価して行きます。ですから、外国人投資家に自国の国債に投資してもらう必要のある国は、通貨安によって外国人投資家が為替差損を被る可能性がありますから、物価上昇に連動して元利金の支払いを増やして埋め合わせないと、海外から資金調達がし難くなるという事情があるのです。日本も「大胆な金融緩和」という、通貨安政策と言われても仕方のない政策を採用していますが、必要な資金のほとんどを国内で調達出来ている日本が、こうした、外国人投資家からの資金を必要としている国の国債管理政策を真似る必要性は何処にもないのです。

「物価連動債は市場の物価見通しを測るものさしである」(同 日本経済新聞「解説」)

物価連動国債の発行増に関しては、中央銀行が金融政策を決める際の参考指標になっている「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」を得ることが出来るという主張もあります。しかし、こうした主張も、「異次元の金融緩和」によって、国債利回りが歪められてしまっている中では、説得力の乏しい主張です。さらに、物価連動国債をGPIFが購入するようになれば、物価連動国債の利回りまでも歪められることになります。歪められた10年国債の利回りから、歪められた物価連動国債の利回りを引いたBEIが、金融政策の指標として相応しい指標と言えるのでしょうか。歪められたものから歪められたものを差引いて算出されたBEIも歪んでいると考えるのが普通だと思います。そして、歪められたBEIを指標にして打ち出される金融政策も、歪められたものになる可能性が高いということです。

「歪んだグローバルスタンダード」に基づいた、日本の国債管理政策は、見直す必要があるように思えてなりません。


⦅ Market Data 更新のお知らせ ⦆
近藤駿介 Official Site/ Market Data」 で公開している下記のチャートを11月29日付に更新しましたので、ご活用ください。

 1. 2013年度主要国株式市場騰落率
 2. MSCI WORLD Country Index Performance & Ranking
 3. 日経平均株価と主要国ボラティリティ(21営業日)
 4. 日経平均株価とNT倍率
 5. 日興国債パフォーマンスインデックスとVolatility

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コメント

国の借金を国民の預金で穴埋めすることを良しとするのでしょうか?
とんでもないですね。

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