株、先物主導で荒く?~「鏡の中の自分」に文句をつける如きレベルの低いコメント

「短期筋による株価指数先物取引が主導する形で日経平均株価の日中の値動きが荒くなっている。株価指数先物との裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準となっており、裁定解消売りが相場変動に拍車をかけている格好だ。13日の特別清算指数(SQ)算出を前に波乱要因となるとの見方が出ている」(5日付日本経済新聞 「市場展望~株、先物主導で荒く」)

日経平均先物が日本に登場したのは1988年9月です。それから25年、四半世紀が過ぎました。それにもかかわらず、先物取引に関わる裁定取引に対する理解は、悲しいことに25年前に筆者が先物取引のトレーディングを始めた当初からほとんど進歩を見せていません。

この記事を読むと、日本経済新聞は、「短期筋による株価指数先物取引」が、「裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準」になった原因であると考えているようです。日経が「短期筋」という言葉を、どの程度の期間で売買を行う人達と定義して使用しているのかは定かではありませんが、「裁定取引に伴う現物株の買い残高」は、5月の株価急落局面で大幅に減少してから、ほぼ半年間、一貫して増加して来ています。つまり、デイトレーダーが蔓延る日本の株式市場において、裁定取引は必ずしも「短期筋」とはいえない取引だというのが現実です。

裁定取引によって株式市場が動かされているというのは、表面的な現象論に目を奪われた被害妄想のお話でしかありません。重要なことは、裁定取引が主導して市場を動かすことはないということです。

簡単に言えば、裁定取引は「鏡の中の自分」でしかありません。自分が手を挙げなければ「鏡の中の自分」が手を挙げることはありませんし、反対に、自分が手を下げた時に、「鏡の中の自分」に手を下げるなといっても無理な話しだということです。

「裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準」まで膨れ上がったのは、裁定取引業者が主体的に行った結果ではありません。裁定取引業者ではない投資家が、先物を現物株と比較して割高なレベルまで買い上げることで、「先物売り+現物株買い」という裁定取引機会を提供した結果に過ぎません。割高な方を売って、割安な方を買うという裁定取引を行う投資家が、裁定取引の機会を作り出すために、先物を割高な水準まで買い上げるということはないのです。裁定取引によって株式市場が動かされているという主張は、「鏡の中の自分」が勝手に手を挙げているといっているようなおかしな話しでしかありません。

同様に、「裁定解消売りが相場変動に拍車をかけている」というコメントも、裁定取引の本質を理解していないものです。「裁定解消売り」が出て来るのは、裁定取引を行っていない投資家が、先物を現物株と比較して割安な水準まで売るからであって、裁定取引業者が裁定解消をするために現物株に売りを出しているわけではありません。極端に言えば、誰も現物株を売らなくても、先物を使ってヘッジ売りをしようとする投資家が現れれば、「裁定解消売り」が出てもおかしくないということです。

「近藤駿介Official Site」で公開している「日経平均株価とNT倍率」のところでも触れて来ましたが、11月29日時点のNT倍率(=日経平均÷TOPIX)は12.47倍と、2006年以降では最も高い水準まで上昇(日経平均株価が割高)しています。こうした状況下で「裁定取引に伴う現物買い残高」は、11月22日時点で約4兆575億円と、今年最大規模を記録した5月17日の約4兆3142億円に迫って来ていました。日経平均株価がTOPIXに対して割高な水準にある状況は、日経平均に売り物が出て、それが裁定解消売りを誘発しかねないことを十分に想像させるものでした。

「ただ、裁定買い残の積み上がりへの警戒感は11月下旬から既に広まっていた。強気一辺倒から市場のムードが一変した5月の相場急落時とは異なり『現状は裁定解消への備えはできている』(金融派生商品トレーダー)との声も聞かれた」

日本経済新聞の記事のなかにも、裁定解消売りに対する警戒感が広まっていたことが報じられています。しかし、「現状は裁定解消への備えはできている」といいますが、具体的にどのような備えを行っているのでしょうか。トレーダー個人としては、ポジションを売りに傾けることで、「裁定解消売りに備える」ことは可能です。ただ、市場全体が「裁定解消売りに備えられる」わけではありません。

「裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準」になったということは、裁定業者を除いた投資家のポジション(アウトライトのポジション)が「先物買い」に傾いているということですから、13日のSQまでに売り決済される可能性が高いということです。裁定業者を除いた投資家が「裁定解消売りに備える」ためには、先物を売建てるなどして、買いに傾いているポジションをニュートラルに近付ける必要があります。「裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準」まで膨れ上がった後では、どのような目的であれ、裁定取引業者でない投資家が先物を売れば、裁定解消売りが出て来るのは必然だと考えておかなければなりません。

期先物へのロールオーバーに対する期待もありますが、裁定取引業者が先物をロールオーバーするためには、裁定取引業者以外の投資家が期先物を割高に買い続ける必要があります。これは、裁定業者でない投資家のポジションを、いっそう買いに傾ける必要があるということですから、これには限界があると言えます。その限界がSQ前に来るのか、SQ後に来るのかの違いはあるかもしれませんが、裁定取引業者以外の投資家の買いポジションが限界に達すれば、「今年最高水準」にまで膨れ上がった「裁定取引に伴う現物買いの買い残高」は、解消される運命にあるということです。先物がロールオーバーがされるとしたら、「裁定取引に伴う現物買い残高」は「今年最高水準」よりさらに膨らむということになりますから、裁定解消売りが出て来た際の現物株への影響は、今よりも大きくなる可能性を秘めていることになります。

自分が手を挙げた結果「裁定取引に伴う現物株の買い残高が今年最高水準」まで膨れ上がった今、自分が手を下げるのに、「鏡の中の自分」に手を下げるな、というのは無理な注文だということは認識しておく方が賢明です。

先物取引が登場してから四半世紀が過ぎた今、「短期筋による株価指数先物取引が主導する形で日経平均株価の日中の値動きが荒くなっている」といった、短絡的な考えからは卒業しなくてはなりません。このレベルにとどまる限り、株式市場は先物主導の展開に悩まされ続けることになりそうです。

⦅ Market Data 更新のお知らせ ⦆
近藤駿介 Official Site/ Market Data」 で公開している下記のチャートを11月29日付に更新しましたので、ご活用ください。

 1. 2013年度主要国株式市場騰落率
 2. MSCI WORLD Country Index Performance & Ranking
 3. 日経平均株価と主要国ボラティリティ(21営業日)
 4. 日経平均株価とNT倍率
 5. 日興国債パフォーマンスインデックスとVolatility

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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