「特定秘密保護法案」可決成立~「政治は数」を否定した国民に襲い掛かった「政治は数」という民主主義原則

6日深夜、混乱の中、参院本会議で特定秘密保護法案が成立しました。

自公が国会の多数を占めている現実を考えれば、国会外での反対がどんなに強くても、この法案が国会で可決、成立するのは時間の問題でした。野党側は、「丁寧な議論」を繰り返して求めていましたが、機密情報漏洩防止のために成立ありきの与党と、「国民の知る権利」を掲げる反対者という、イデオロギー的に正反対の立場に立つ者たちが幾ら時間を掛けて議論しても、対立軸が明らかになるだけで、建設的な議論にならないのは、歴史を振り返っても当然だったと言えそうです。

「国家の秘密保護」と「国民の知る権利」という、イデオロギー的な対立ですから、本来ならば白か黒、2者択一の議論になるはずでした。しかし、そこに「法案賛成、強引な国会運営反対」という新たな勢力が現れたことで、ただでさえ分かり難い議論がさらに複雑化してしまったように思います。

「各国の情報機関との情報の交換、政策における意見の交換を行っていく上では、秘密を厳守することが大前提だ。NSC(国家安全保障会議)の機能を発揮させるには、どうしても必要ではないかと考えている」

安倍総理を筆頭に特定秘密保護法案の賛成派は、この法案の必要性について、このように主張して来ました。つまり、賛成派の理屈の根本は、「各国の情報機関と情報の交換、政策における意見の交換」を行っていくうえで、海外から得られた秘密を厳守する体制整備が必要だというところです。

国民のなかにも、外交や防衛分野で国家秘密があっても当然だという認識はありますから、こうした主張については、おそらく多くの国民が理解を示すのではないかと思います。しかし、「各国の情報機関と情報の交換、政策における意見の交換」を行っていくうえで、海外から得られた秘密を厳守する体制整備が必要だというのが主張の根幹であるのであれば、特定秘密の範囲を「海外から機密情報として取得したもの」に特定しても、「各国の情報機関との情報の交換」などを行っていくうえでの障害を取り除くという当初の目的は達成出来たのではないでしょうか。

それにも拘らず、特定秘密保護法案では、特定秘密の範囲を「防衛や外交など4分野で、漏洩すると国の安全保障に著しく支障を与える情報」(日本経済新聞)と、既に国内に存在する情報や、国内で取得される情報までも広く網をかけるようとする「欲張りな内容」になっています。

政府与党側が特定秘密保護法案を「欲張りな内容」にしようとしたことで、「特定秘密保護法案の治安維持法化」という懸念を生み、国民の間に不安と懸念が広がっていったのではないかと思います。

一方、この法案に反対する勢力は、「報道の自由や国民の知る権利を侵害する恐れがある」というスローガンを掲げて国民世論を喚起しようとしていました。しかし、著名人やマスコミが尤もらしく掲げるこうしたスローガンは、筆者以上の世代の国民にとっては、30年以上前の政治色の強い学生運動を思い起こさせるもので、スローガンの正しさほどには共感を持てないものでもありました。

これまでマスコミは、国民が知りたい客観的情報よりも、官僚やマスコミのスポンサーに都合のいい情報だけを散々伝えて来ました。こうしたことを感じている多くの国民にとって、マスコミが叫ぶ「報道の自由」は胡散臭さを生むだけで、共感に繋がらなかったのではないでしょうか。最近のマスコミの報道ぶりからは、国家権力におもねることなく国民が知るべき情報を伝える、といった気概が全く伝わって来ていませんから、多くの国民の目に「報道の自由」と叫ばれても、取材活動中に逮捕されることのないように保身を図っているように映ったとしても不思議ではありません。これまで、マスコミ自身が「報道の自由」と「国民の知る権利」が現実に直結しない状況を作り出してしまったことが、特定秘密保護法案に対する反対運動が広がりを見せなかった原因かもしれません。

外交、防衛の分野において、一定範囲の秘密が存在することを認めている国民の多くは、「国民の知る権利」をかざしてまで、それを開示させる必要があるとは考えていないはずです。多くの国民が懸念しているのは、「特定秘密保護法案の治安維持法化」によって、日常生活が脅かされることだったのではないでしょうか。反対派が国民生活に対する悪影響を懸念するのであれば、「報道の自由と国民の知る権利を守る」というイデオロギー的な曖昧なスローガンではなく、「特定秘密保護法案の治安維持法化阻止」を掲げるべきだったと思います。そうすれば、自ずとその主張も、特定秘密の範囲を「海外から機密情報として取得されたもの」に限定せよという、「特定秘密保護法案の治安維持法化阻止」の方向に向かっていったのではないかと思います。

さらに議論を混乱させたのは、「法案賛成、強引な国会運営反対」という、国民に理解し難い判断をした一部の野党の存在です。彼らは、国会での審議時間を確保することで、何を明らかにしたかったのか、何を決めたかったのか、多くの国民にほとんど何も提示しませんでした。修正案を飲ませることを大きな手柄のように主張をしていますが、所詮「特定秘密保護法案の治安維持法化」を図る法案の文言の修正でしかありませんから、与党の掌の上で踊らされただけだと批判されても仕方ありません。

もし、彼らが、「特定秘密保護法案の治安維持法化阻止」を目標に議論をしていれば、特定秘密の範囲を「海外から機密情報として取得されたもの」に限定することが出来たかもしれません。彼らは、「各国の情報機関との情報の交換」などを行うために、なぜ「防衛や外交など4分野で漏洩すると国の安全保障に著しく支障を与える情報」と、国内にある、国内で取得される情報まで広げる必要があるのかを徹底的に追及するべきだったのではないかと思います。日本と情報の交換を行う各国の情報機関にとって、日本国内に既にある情報や、日本国内で取得される情報が漏洩することがないような法整備がなされていないことが、直接的な障害になっているのでしょうか。各国の情報機関が、日本に提供する情報が漏洩しない体制整備さえ整っていれば、情報交換をする上での障害は殆どなかったのではないかと思います。

防衛や外交の分野で一定程度の国家機密があることを認識している国民にとって、特定秘密の範囲が「海外から機密情報として取得されたもの」と規定されれば、ここまで大きな騒ぎは起こらず、「成長戦略国会」が「国家秘密防衛国会」になることもなかったように思います。

数年前、日本は国を挙げて「政治は数」という、田中角栄流の政治手法を継承する小沢一郎を政治的に葬り去りました。そして、「決められる政治」というスローガンに期待して、自民党安倍政権に必要以上の議席を与えてしまいました。それによって「ねじれ国会」は解消し、「決められる政治」が実現しましたが、得られた果実は、国会議員の定数削減でも、一票の格差是正でもなく、消費増税実施、TPP交渉参加、特定秘密保護法案の成立という、マニュフェストに謳われていなかった政策のオンパレードです。「決められる政治」という尤もらしいスローガンは、「政治は数」と同義語だということに思いが至らなかった国民の悲劇かもしれません。

「政治は数」という政治手法を否定した国民が、「政治は数」という民主主義の原則によって、民意に沿わない政治を甘受しなくてはならない状況に追い込まれたことは、何とも皮肉なものです。しかしこれは、イメージ選挙を繰り返して来た結果ですから、少なくとも次の総選挙まで、「自己責任原則」に基づいて受け入れるしかありません。


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近藤駿介 Official Site/ Market Data」 で公開している下記のチャートを12月6日付に更新しましたので、ご活用ください。

 1. 2013年度主要国株式市場騰落率
 2. MSCI WORLD Country Index Performance & Ranking
 3. 日経平均株価と主要国ボラティリティ(21営業日)
 4. 日経平均株価とNT倍率

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ご指摘ありがとうございました。先ほど訂正させて頂きました。
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