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円高終息 ~「成長戦略」なき「円安・株高」

「円は主要通貨に対して全面的に値下がりする『独歩安』の様相を強めている。ユーロ、英ポンド、韓国ウォンに対しても08年10月以来、5年2カ月ぶりの安値圏。スイスフランでは23年ぶりの安値圏で推移している」(14日付日本経済新聞 「円高5年終息へ」)

13日の東京為替市場で、円は一時103円92銭と、2008年10月以来の水準まで円安が進みました。背景として挙げられているのは、「前日発表の米個人消費統計が好調で、米景気が堅調との見方からドル買いの流れが強まった」(日本経済新聞)ということです。

確かに、米国の11月の雇用統計が予想以上に強い数字になったこともあり、来週17日、18日に開催されるFOMCで、FRBが「金融緩和規模縮小(Tapering)」に踏み出す可能性を市場が意識して来ていますから、ドル高になるのは、自然な流れだともいえます。

この数か月顕著なことは、ユーロに対して円安が進んで来ていることです。8月末比でみると、円は対ドルで5.65%下落していますが、対ユーロでの下落は9.78%とドルを上回る下落となっています。

市場の関心は、FRBのテーパリングの開始時期に注がれていました。しかし、その陰で、日経が報じている「ECBの11月の資金供給量は前年同月比約27%減」という事実は軽視されて来ました。拙HP内の「参考資料室」でも11月8日に指摘しましたが、ECBの資金供給量は2017年7月のピークから11月時点で▲31.4%(ユーロベース)と大幅に減少しています。その結果、日米欧の中央銀行の資金供給量全体に対する円換算後のシェアは、2013年6月時点で日銀がECBを逆転し、日米欧のなかでユーロが最も資金供給量が少ない通貨「レアマネー」に転じています。

ユーロの「レアマネー」化は、ユーロ高の必要条件にはなりますが、それだけで通貨高を招くわけではありません。資金が「レアマネー」に向かった場合、他の通貨よりも通貨高になりやすいというものです。

日米欧のなかで最も景気低迷が激しい欧州でECBの資金供給量が大幅に減少し、ユーロが「レアマネー」になったのは、日米欧で量的緩和の目的が異なっていたからです。FRB及び日銀の量的緩和の目的が「景気浮揚」、「ディスインフレ/デフレからの脱却」を目指したものであったのに対して、ECBの量的緩和は「金融システム維持」を主眼に置いたものでした。ソブリン危機がピークを越え、銀行の資金調達における障害が軽くなって来たことで、ECBには「金融システム維持」を目的とした量的緩和をする必要性が薄れてきたことが、ユーロを「レアマネー」にさせる要因だったといえます。

こうした日米欧の中央銀行による資金供給量に相違が出て来るなか、マーケットはFRBのテーパリング観測の高まりと、新興国の景気低迷を受け、先進国回帰を強めて来ました。3月末比で見た場合、先進国で構成されるMSCI Worldが10%強上昇している(US$ベース)のに対して、新興国で構成されるMSCI Emerging Markets(同)は、4%強の下落となっています。

2013年度の金融市場の特徴の一つは、株式と債券という投資対象資産で見た場合には「リスクオン」といえる状況にある一方で、投資対象国という観点からは「リスクオフ」という動きが鮮明になっていることです。

このような、先進国中心という、投資対象国という観点で「リスクオフ」の動きが鮮明になったことで、日本株は外人買いを中心に大きく上昇して来ました。しかし、外国人投資家の資金が日本株に向かう中で、為替は円安に振れて来ました。もちろん、これは、日本の貿易収支が赤字になって来たこと、日銀が出口なき量的緩和に向かっているというファンダメンタルズを反映したものです。このような、円という通貨を巡る状況が変化したことに伴う円安期待が、外国人投資家の日本株上昇期待を生む大きな要因となっています。

ただ、「円安による株高」を期待する海外投資家にとって、「円安」は株価上昇による収益を目減りさせるものでもあります。日本株は円建てのMSCI Japanでみると3月末から19.9%上昇していますが、ドル建てのMSCI Japanの上昇率は9.3%にとどまっており、ドルベースで投資する投資家は、円安によって10%程度リターンが減ってしまう可能性があったことが分かります

年初からの外国人投資家の日本株の買越額は既に13兆円を超えており、6兆円弱と予想されている日本の2013年度の貿易赤字をはるかに上回っている上、経常収支は2010年度の3分の1程度に減ると想定されているものの5兆円強の黒字が見込まれています。こうした状況下で13兆円を超える日本株買いの資金が流入したら、規模の面からは「円安」にはなり難いと言えます。

それでも2013年度に入り対US$で10%も円安になって来たのは、ドルベースで投資する投資家が、「円安」によるデメリットを消すためには、為替ヘッジ(円売り予約)をして来たことで、日本株買いが直接的な円高圧力にならなかったからだと思われます。これを反映するように、IMMの投機筋の円売りポジションは、外国人投資家の日本株の買い越しにあわせるように増加して来ています。

外国人売買動向とIMM円ポジション

外国人投資家による「円安期待(懸念)」が、為替差損を回避するための円のヘッジ売りを生み、それが円高圧力を弱め、円安を支える形になったことで、さらなる「日本株買い+為替ヘッジ(円売り)」が進むという、夢のような展開になっていったということかもしれません。

エコノミストなど経済の専門家の多くは、外国人投資家はアベノミクスの「成長戦略」に期待して日本株を買っており、その期待が裏切られたら日本株は売られるというような解説を加えています。しかし、「成長戦略国会」が「特定秘密保護法案国会」になったなかで日本株が上昇して来たということは、「外国人投資家はアベノミクスの『成長戦略』に期待して日本株に投資している」という彼らの見立てが間違っていることを示唆するものでもあります。

外国人投資家の日本株買いは、「円安」による株価の上昇に期待したものであり、「成長戦略」に期待したものではない可能性が高いというのが現実のように思えます。これは、アベノミクスの「成長戦略」が期待外れであってもそれが日本株売りの理由にはならないということでもあり、一方では「円安」が止まれば日本株も止まる可能性があるということでもあります。

日本株は、安倍政権がまともな「成長戦略」を描けない中で上昇して来ました。しかし、株価指数上昇の原動力になって来た裁定取引は、限界に近い規模まで膨れ上がって来ており、このまま株価上昇の原動力になり続けることよりも、短期的には株価の下押し要因になる可能性を見ておいた方が賢明な状況にあります。

かなりの確率で裁定解消売りに押される局面が近付いていると思われますが、それが一時的なもので終わるか否かは、「円安期待」が持続しているかどうかにかかっているように思われます。「円安期待」が続くためには、日本の貿易赤字が続くことも重要な要素になりますが、その際に考えておかなければならないリスクは、「円安」でも輸出数量が伸びないという事実が浸透して行き、「円安期待」と「株価上昇期待」の間に乖離が生じて行くことです。投資家が考えておかなければならないことは、「円安期待」と「株価上昇期待」の間に生じた乖離は、「成長戦略」では埋め合わせることが出来ないということです。

◆◇◆◇ お知らせ ◆◇◆◇

「近藤駿介Official Site~ Market Data」 で公開している下記のチャートを12月13日付に更新しましたので、ご活用ください。
  1.   2013年度主要国株式市場騰落率
  2.   MSCI WORLD Country Index Performance & Ranking
  3.  日経平均株価と主要国ボラティリティ(21営業日)
  4.  日経平均株価とNT倍率

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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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