金融版成長戦略 ~ 言い尽くされた「個人金融資産の活用」しか提言できなかった有識者会合の悲劇

13日に金融・資本市場活性化有識者会合が「金融・資本市場活性化に向けての提言」をまとめました。そうそうたるメンバーを集めた作られた提言ですが、その内容は「最大の柱は個人金融資産1600兆円の活用」と、バブル崩壊以降繰り返され、聞き飽きたものでした。

提言では、「個人金融資産の活用」をするために、少額投資非課税講座(NISA)やGPIFの資産配分の見直し及び投資対象の拡大、JPX日経インデックス400の普及、外貨準備の外部委託など様々な対策が羅列されています。有識者が集まった会合ですから、アイディアが尽きなかったのかもしれませんが、「これまで20年間、何故政府を挙げて『貯蓄から投資へ』というスローガンを掲げながらも、個人金融資産が動かなかったのか」という原因に関してはほとんど言及されていません。

提言では、個人金融資産が動かなかった原因を、「日本経済は、バブル経済の崩壊後、長期にわたりいわゆる『デフレの罠』に陥ってきた。企業・家計においてデフレ予想が固定化される中、家計金融資産や公的年金等の多くが現預金などの形で保有され、リスクマネーや成長資金の提供に十分に向けられなかった」と、デフレ経済に求めています。

もちろんデフレ経済の影響は無視できないものだとは思いますが、そもそも「個人金融資産」という、「個人総資産」の一部だけを取り出して議論するところに無理があるような気がします。

「全国消費実態調査(平成21年)」の「一世帯当たり資産額」を見ると、「個人総資産」に占める「金融資産(貯蓄-負債)」の比率は16.8%に過ぎません。「個人総資産」の83.2%は「実物資産」が占めており、内72.7%は「住宅・宅地資産額」で占められています。日本において不動産はリスク資産でもありますから、日本の家計は3.5%程度の「有価証券」を加えると、「個人総資産」の75%程度をリスク資産に振り向けているということになります。

有識者達は、「金融資産」の4~5倍のリスク資産を抱えている家計に対して、16.8%(「有価証券」3.5%を含む)を占めるに過ぎない「金融資産」もリスク性資産に振り向けることを迫るのでしょうか。提言では「個人金融資産」のことを「いわゆる『眠っている』とされる資金」と評していますが、16.8%の「流動性のある金融資産」は、住宅という「流動性の低いリスク資産」を約75%保有していることとあわせて評価すべきものだと思います。

消費増税後の景気悪化を食い止めるために、「個人金融資産」を取り崩して「住宅」に向かわせようとすると同時に、「個人金融資産」そのものもリスクの高いものに向かわせようという、家計に「二兎追わせる」ような政策は、家計の安定を軽視した危険なものでしかありません。

提言の「2020年の姿」のなかでは、「個人の金融リテラシーが向上し、同時に、個人投資家の利益を第一に考え資産形成のニーズに応じて適切なアドバイスを行える幅広い人材が確保されていることが必要である」と記されています。確かに、「個人の金融リテラシーの向上」は必要なことです。しかし、個人がまず身に付けなければならない「金融リテラシー」は、株式や投資信託に投資するテクニックを身に付けることではなく、リスク資産への投資を誘う、様々な尤もらしい話しの真贋を見極めるためのものであるべきです。

「1600兆円もある個人金融資産の1%でも株式市場にシフトすれば…」。「個人総資産」の16.8%を占めるに過ぎない「個人金融資産」だけを取り出して繰り返されてきたこうした発言は、客観的にみて、何とかして株式や投資信託などリスク資産を扱う金融機関の顧客を増やそうとする、甘言でしかないということを見極められる程度の「金融リテラシー」を身に付けることが先決だということです。

成長戦略においては、行政の干渉を減らし、民間の創意工夫を促す必要性が声高に叫ばれています。その一方で、金融分野では、政府自らが「貯蓄から投資へ」というスローガンの旗振り役となり、NISAやGPIFの資産配分や投資対象拡大等々、至れり尽くせりの対応をして来ました。こうした政府を挙げての至れり尽くせりの支援が、金融分野での民間の創意工夫による成長、「失われた20年」からの脱却、さらには、国民の「金融リテラシー」の向上の阻害要因になって来たのかもしれません。

「意欲と能力の高い高齢者や女性の活用を一層促進すること…(中略)…2020 年の姿として、人材の育成、海外からの高度人材の受入れを同時に進め、質・量共に十分な国際的人材を確保することを目指す」

提言の「人材育成、ビジネス環境の整備等」というところでは、このような指摘がされています。こうした目標は尤もなものですが、今回有識者会合が「最大の柱は個人金融資産1600兆円の活用」とする、20年間言い尽くされたことしか提言としてまとめられなかったことを考えると、2020年を待たずに、一刻も早く有識者会合のメンバーを、「意欲と能力の高い高齢者や女性」に変えて行く必要があるように感じてなりません。

「肩書から意欲と能力へ」。数多ある「有識者会議」のメンバーの選出が変わって行けば、日本の成長戦略は8合目まで進んだことになるのかもしれません。

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近藤駿介

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