国債消化、日銀頼み?~いえいえ、「日銀の国債購入が銀行頼み」です

「日本国債の保有が日銀に集中する構図が強まって来た。日銀が19日発表した7~9月期の資金循環統計(速報値)によると、9月末時点の日銀の国債保有残高(短期国債を含む)は前年比6割増の170兆円となり、ゆうちょ銀行を含む中小企業金融機関などを上回った。国債消化の日銀頼みがさらに進めば、財政規律の緩みから金利上昇につながりかねない」(20日付日本経済新聞 「国債消化、日銀頼み鮮明」)

このようなレベルの低い記事が、日本経済新聞の紙面を飾っているという現実を目の当たりにすると、怒りを通り越し、情けなくなってしまいます。記事を書いたのが若手の記者であったとしても、それを紙面に掲載することを決めた編集長がいるわけですから、日本経済新聞全体のレベルが低下していることを表していることに他なりません。

「日銀の保有残高は1年前の105兆円から65兆円も増えた」「逆にメガバンクなど国内銀行の保有残高は136兆円と、1年前から13.2%減った」(同)

この記事の書き方からをすると、日本経済新聞は、「メガバンクなど国内銀行が保有残高を13.2%(金額にして約20兆円)減らしたたことで国債消化に支障が生じ、日銀がその穴埋めのために国債保有残高を増やした」と判断しているのだと思います。しかし、それは完全な間違いです。

実際の構図は、「日銀が国債を買い入れたがるから、メガバンクなど国内銀行が国債を日銀に売ってあげている」というものになっています。

この記事が指摘している通り、日銀はこの1年間で金融機関から約65兆円の国債を購入し、保有残高を増加させました。しかし、同じ期間の「総貸出平残(銀行計)」は約406.5兆円と、前年比で9兆円弱、率にして2.2%しか増えていません。日銀が金融機関に支払った約65兆円の国債の購入代金のうち約54.5兆円、率にして84%強は、日銀の当座預金にそのまま積み上げられたままになっています。

金融機関が預金量に応じて積まなければならない法定準備預金は、足下で8兆円程度ですが、11月時点で日銀当座預金には、法定準備預金の約12倍に相当する101兆円強(前年同月比160.5%)の資金が「ブタ積み」されています。この「ブタ積み」された資金には、日銀が0.1%の金利を付けていますから、銀行にとっては、短期金融市場で運用しているのと同じ経済的収益を得られていることになります。

つまり、メガバンクなど国内銀行には国債を購入するに十分な資金を日銀に預けているので、日銀が国債購入を止めたとしても、メガバンクなど国内銀行が国債を購入するという、「異次元の金融緩和」以前の状態に戻るだけのことなのです。メガバンクなど国内銀行に国債を購入する資金が乏しくなって来ているのであれば「日銀頼みの国債消化」ということが出来ます。しかし、現状は国債を購入するための資金を十分に持っている銀行が、日銀に国債を売却してあげている、換言すれば、「日銀の国債購入は銀行頼み」になっているといえる状況にあるのです。

「巨額の日本国債が円滑に消化され、長期金利が低く抑えられてきたのは、『消費税率が5%と先進国で最も低く、いずれきちんと増税される』という投資家の暗黙の了解があればこそ。もしも、消費増税のやり方で前提が崩れると、逃げ足の速いグローバル・マネーは瞬時に『日本売り』に走りかねない」(8/9付日本経済新聞「消費増税、97年と環境変化 成長へ財政再建急務 企業に耐久力、国の債務拡大」) 

それにしても、日本経済新聞は、何故根拠の怪しい「日本国債暴落(長期金利急騰)論」を煽り続けるのでしょうか。

消費増税決定前は「逃げ足の速いグローバル・マネー」が、そして消費増税が決定した今では「日銀の国債購入」が、「日本国債暴落」の要因になると騒ぎ立てています。消費増税では「日本国債暴落」を食い止められず、「日銀の国債購入」が「日本国債暴落」の要因になるのであれば、国民にとって消費増税は「やられ損」ということになってしまいます。「日本国債暴落論」を振りかざして消費増税容認へと世論を誘導していった日本経済新聞は、なぜ、消費増税が決定する前の4月から始められている「日本国債暴落」に繋がりかねない「日銀の国債購入」には何の警鐘も鳴らさないのでしょうか。その主張の一貫性のなさには敬服する限りです。

参考までに、今回発表された日銀資金循環統計では、消費増税決定前に日本経済新聞が「日本国債暴落」を引き起しかねないと騒ぎ立てた「海外による保有」比率は、9月末時点で8.0%と、昨年9月末の9.1%から1.4%低下、保有金額ベースでは78.6兆円と、前年9月末の86.1兆円から8.7%の減少となったことが明らかにされました(チャート等資料はこちら)。

今回日銀が発表した資金循環統計は、「日本国債暴落論」の根拠に祭り上げられていた「海外による保有」比率の上昇は、日本の国債消化が「海外頼み」になっていたからでなく、海外の投資家が「円高」の恩恵を受けるために日本国債の保有を増やしていただけであったことを示唆した内容になっています。しかし、19日に発表された資金循環統計について日本経済新聞は、さんざん騒ぎ立てた「海外の保有」比率にはほとんど触れず、「株高を背景に、家計が手持ちのお金を高リスクで高利回りの資産にシフトし始めている」(20日付「家計、リスク資産シフト」)ことだけを報じています。

さて、9月末時点での日本国債の「海外による保有」は78.6兆円でした。では、9月末時点で日本国債を保有している海外投資家は、日本の財政再建への本気度に期待して日本国債に投資している「逃げ足の速いグローバル・マネー」なのでしょうか。

世界の債券運用のベンチマークとして知られている「シティグループ世界国債インデックス」でみると、日本国債の構成ウエィトは27.28%です。仮に、9月末時点で日本国債を保有している海外投資家全てが、世界国債のインデックスに連動することを目指している投資家だとしたら、ファンドの規模総額は288兆円(=78.6兆円÷27.28%)になる計算になります。この288兆円という規模は、2013年8月末の米国投資信託の債券ファンド4.4兆ドル(104円換算で約458兆円:「野村資本市場クオータリー 2013 Autumn」)の62%程度ですから、年金などを含めた世界全体の債券ファンド総額で考えたら、日本国債を288兆円程度組み入れるインデックスファンドが存在している可能性は十分にあるといっていいのではないかと思います。

もし、日本国債の「海外による保有」が、「シティグループ世界国債インデックス」などをベンチマークにしたインデックスファンドに組み入れられているものだとしたら、「日本の財政再建への本気度」は、彼らの日本国債の投資判断基準として重要度が高くない、さらには「逃げ足の速いグローバル・マネー」という定義は正しくないということになります。

このように、日本経済新聞が騒ぎ立てる、「逃げ足の速いグローバル・マネー」も、「日銀頼みの国債消化」も、「日本国債暴落論」の根拠としては、かなり怪しげなものでしかありません。さて、日本経済新聞は、次に「日本国債暴落論」を正当化するために、どのような「根拠の怪しい理屈」をでっち上げて来るのでしょうか。

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