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個人向け国債増額 ~ ある時は「借金」であり、ある時は「資産」となる

「財務省は2014年度に個人向け国債の発行額を2兆1千億円とし、前年度の当初計画に比べ5千億円増やす方針だ。物価上昇の傾向を受け、中長期的な金利の上昇を見込む個人投資家が増えているとの判断が背景だ。財務省は保有者の層を個人に広げ、大量発行が続く国債の安定した消化を目指す」(4日付日本経済新聞 「個人向け国債5000億円増」)

国債や借入金、政府短期証券の残高を合計した「国の借金」が2013年6月末時点で1008兆6281億円となり、2013年7月1日時点での人口推定に基づけば国民1人当たり約792万円の借金を背負う計算となると報じられ、日本政府の厳しい財政事情が繰り返し繰り返し報じられるなか、財務省は個人向け国債発行額を5000億円増やす方針のようです。

国債の発行総額は一応決められていますから、個人向け国債の発行額の増額は、金融機関や海外投資家の向けの国債が減るという「調達先の組換え」が行われるということで、「国の借金」は変わらず、「借手」の構成が変わるということです。従って、「国民一人当たり約792万円の借金を背負う」ことに変りはありません。

日本経済新聞は、こうした動きについて「個人投資家の需要に素早く対応できる販売体制を整え、銀行や生命保険会社などに偏る保有者層を個人に広げる考えだ」と解説しています。

しかし、「国民一人当たり約792万円の借金」を背負い、消費増税実施をしなければ財政が破綻すると、さんざん国の財政危機を煽って来た新聞が、平気で個人投資家の大切な資産を財政破綻しそうな国債に振り向けさせるような記事を掲載する厚かましさには敬服するばかりです。

これまで報道してきた、日本の財政破綻が現実味を帯びた事実であるならば、個人投資家の大切な資産を国債に振り向けてはいけないと主張するのが筋ではないかと思います。反対に、日本国債が、個人投資家の大切な資産に適したものであるのであれば、過剰な財政危機報道は慎むべきだと思います。

日銀の資金循環統計によると、2013年9月末時点での国債発行残高は980兆円で、その内の「海外の保有」は78.6兆円と、全体の8.0%に過ぎません。つまり、980兆円の92%に相当する901兆円は、「国(政府)の借金」であると同時に、「国民の資産」であるという関係になっています。これを国民一人あたりにすると、「一人当たり約708万円の資産を持っている」ということになります。

【参考記事】 国債消化、日銀頼み?~いえいえ、「日銀の国債購入が銀行頼み」です
「借金」なんですか?「資産」なんですか?~AKB48を起用して財務省がPRする個人向け国債

「国民一人当たり約792万円の借金を背負っている」というのは、政府のバランスシートに着目した主張であり、国民のバランスシートに着目すれば「国民一人当たり約708万円の資産(政府に対する貸付)を持っている」という構図になっています。政府のバランスシートだけに注目し、「国民一人当たり約792万円の借金を背負っている」というフレーズで国(政府)の財政危機を煽り、消費増税止む無しという世論を形成できるのは、「ある人の借金は、他の人の資産になっている」という、会計上当然のことを教えない国ならではのことです。

国や日経新聞などは、国民の「金融リテラシー」を向上させる必要性を強調しています。しかし、国民の「金融リテラシー」が本当に向上してしまったら、政策当局が日経新聞などを利用して、都合よく世論を形成して行くことは困難になってしまいます。それ故に、政策当局や日経新聞などは、「貯蓄から投資へ」という尤もらしいキャッチコピーを掲げて、「金融リテラシー≒株式の売買」かのような印象を国民に植え付け、「金融リテラシー」の本質とは全く異なった方向に国民を誘導しようとし続けているように思えてなりません。

消費増税を正当化する段階では「国債は国の借金」と報じ、個人向け国債の増額を図る段階では「国債は国民の資産」であるかのようなカメレオン報道が平然と繰り返される限り、国民の「金融リテラシー」向上など期待すべくもありません。同時に、国民が最も懸念しなければならないことは、国民の「金融リテラシー」の向上の必要性を主張している新聞自体が、霞が関や永田町の広報機関に成り下がることで、既に「金融リテラシー」が極めて低い水準にまで低下して来ていることかもしれません。これは、霞が関や永田町の人間にとって、もっとも好都合な状況ですから。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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