実質金利 ~必要以上に重視される、「教科書の世界」には存在するが、「事業計画の世界」には存在しない項目

「名目金利から物価の影響を除いた実質金利を日米欧で比べると、日本が突出して低くなっている。日本は物価の上昇に伴い実質金利が2013年夏からマイナスに転じた。対照的に米独英の実質金利はマイナスからプラスに浮上している。実質金利の低下には企業の投資を刺激する効果がある」(6日付日本経済新聞「実質金利低下際立つ日本」)

「実質金利の低下には企業の投資を刺激する効果がある」…。理屈上では、こうした見方は成り立つものかもしれません。しかし、「企業が設備投資に動くには、実質金利の低下という資金の調達環境の好転だけでは不十分。中期的な期待成長率が上がり、需要拡大が続くという見通しを企業が持つことが必要」(同)というのが現実です。

経済学を知っている人達の中には、「名目金利から物価の影響を除いた実質金利」という概念を重要視される方も多くいらっしゃいます。しかし、「実質金利」という項目は企業の事業計画においては存在しないものです。日本経済新聞のこの記事は「実質金利の低下」を「資金調達環境の好転」と説明していますが、これは正しい説明だとは言えません。

事業計画の基本は、「売上」と「経費」、そして「売上」から「経費」を引いた「収益」で成り立っています。ここで「売上」は「単価×数量」に分解され、この「単価」の部分に「物価の影響」が反映されます。国内景気がよく、価格の上昇によっても「数量」が減らなければ、「単価」の上昇に伴い「売上」も上がっていくことになります。

そして、金利は「経費」の部分に含まれますが、使われるのはあくまで「名目金利」です。つまり、「実質金利(=名目金利ー物価上昇率)」というのは、「売上」の想定に使われる「単価」の上昇と、「経費」を見積もる際の「名目金利」を通して間接的に事業計画に反映される形になっています。したがって、「実質金利」の低下、マイナスというのは、「収益」が拡大するための一つの要素に過ぎないということです。

「実質金利」が低下、マイナスになったからといって、「収益」が自動的に拡大するわけではありません。国内景気がそれほど強くなく、「単価」の上昇に伴い「数量」が減ってしまうような場合には、「単価」が上がっても「売上」はあがらないことになります。現在のように、内容量を減らして販売価格を維持する「隠れ値上げ」が行われているのは、多くの業者が「単価」を引上げたら「数量」が減り、「売上」が減少してしまうと考えているからです。

「13年11月の全国消費者物価指数(CPI)は総合で前年同月比プラス1.5%に上昇した」(同)といっても、物価上昇の主役は「生鮮野菜(前年同月比18.1%)」「電気代(同8.2%)」「ガソリン(同8.7%)」という、「経費」を押し上げるもので、「売上」上昇に繋がらないもので占められています。「売上」の拡大に繋がらず、「経費」の増加をもたらす物価上昇は、結果的に「収益」を圧迫するものにしかなりません。

企業が投資に踏み切の必要条件は「収益拡大」ですし、マクロ的に経済全体を押し上げる投資というのは、「経費削減」を目的とした投資よりも、「売上増」を目指した投資です。

「実質金利の変化と設備投資の増減には数か月のタイムラグがあり、実質金利が低下しても、すぐには投資が回復しないという問題もある。14年にマイナスの実質金利が定着し、どれだけ企業の投資活動につながるかが、持続的な景気回復のカギを握る」(同)

日本経済新聞は、実質金利がマイナスになったにも関らず、国内投資が増えない理由として「タイムラグ」を挙げています。しかし、「売上」が増える見込みが立たないなかでは、幾ら時間が経過しても国内投資が増えることは期待できません。日本企業の多くが、設備投資をアジアを中心とした海外中心に考えているのは、「売上」が伸びる可能性が日本よりも高いからに他なりません。確かに円安によって輸出に対する逆風は止まり、「売上」も回復しましたが、需要が海外にあることには変わりがないからです。

12月の月例経済報告で、4年2カ月ぶりに「デフレ」の文言を削除され、消費者物価の上昇によって「実質金利」がマイナスになったとはいえ、2013年7~9月の需給ギャップはもなお1.6%のマイナスで、金額にして8兆円程度の需要不足が残っている状況にあります。国内でこうした需要不足が続く限りは、いくら消費者物価の上昇によって「実質金利がマイナス」になったとしても、「売上」の拡大は望めませんから、国内の投資もなかなか増えて来ないのも当然です。

「実質金利」「期待インフレ率」…。現在の日銀総裁を筆頭に、経済学に造詣の深いと言われる人達ほど、企業の事業計画の中には存在しない項目を重要視する傾向にあります。しかし、「教科書の世界」には存在するが、「事業計画の世界」には存在しないものを重要視する限り、経済の本質を見極めることは難しいと言わざるを得ません。それは「タイムラグ」ではなく、「認識ギャップ」だからです。

日本経済の抱える大きな問題は、「需給ギャップ(需要不足社会)」が存在することに加え、政策当局や有識者と企業の投資判断の間に「認識ギャップ」が存在することかもしれません。経済の本質を見極め、適切な経済政策を採って行くためには、「教科書の世界」を飛び出し、「大胆な景気判断」をする必要がありそうです。

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コメント

存在しますよ。

来期の売り上げ予想がそれです。そこに自分達の商品の価格がどうなるかの見通しが入っているでしょう。今期の価格と、来期の価格の見通しの比から期待インフレは出てきます。企業の行動なのだから、世の中一般の物価ではなく自社商品や中間財の価格を見ることになるわけです。

そして、その来期の価格上がって売り上げが拡大しそうだから借り入れを増やして設備投資しようか、といった感じに、来期の価格や売り上げと現在の借り入れコストを比較して考えることが、まさに実質金利を
見るという行為そのものです。

字ずらしか追えない杓子定規なものの考え方をしていると実質金利が実際には事業計画書に見当たらないと思ってしまうのかも知れませんが、自社の商品からみた借り入れコストの価値であるとちゃんと意味を理解すれば載っていることがわかるものです。

来期の自社商品の価格設定、売り上げ見通しや、借り入れのコストが入っていない事業計画はあまりないと思います。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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