偏った「新成長戦略」 ~ 必要以上に被害者として扱われる「法人」と、必要以上に悪者扱いされる「専業主婦」

「政府が6月にまとめる新たな成長戦略の検討方針が明らかになった」(18日付日本経済新聞 「外国人の就労拡大検討」)

政府は新たな成長戦略の検討に入るようです。昨年の成長戦略「日本再生戦略」で踏み込み不足という批判を浴びた分野が中心になるとのことですから、主な検討テーマとして挙げられている顔触れは、「昔の名前で出ています」といった代り映えのしないものになっています。

代り映えしない顔触れの中で、個人的には「法人実効税率の引下げ」と「専業主婦を優遇する配偶者控除などの見直し」の2項目には違和感を覚えています。

「国税と地方税を合わせた法人実効税率は2014年度から2.37%下がり35.64%(東京都の場合)になるが、他の主要国の25~30%より高く、首相は引下げに意欲を示す」(同)

「日本の法人実効税率は他の主要国より高い」という台詞は、法人税率引下げ議論で必ず出されるものです。もちろん事実に即した主張だとは思いますが、財務省のHPに掲載されている「法人所得課税の実効税率の国際比較(2013年4月現在)」によると、現在世界経済の主役となっている米国(カリフォルニア州)の法人実効税率は40.75%(グラフ上では国税31.91%、地方税8.84%となっていますが、説明書きでは連邦法人税率=35%、州法人税率=8.84%となっており、足し算すると43.84%になっています)となっていますから、「他の主要国」というのは、米国を含まない話したということです。

米国のグローバル企業の中には「ダブルアイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」というような日本企業が使わない節税スキームなどを使っている企業もありますから、実際の法人税率は40%台より低いのかもしれません。しかし、国税庁が公表している「会社標本調査結果(23年度)」には、「利益計上法人における益金処分の内訳を構成比でみると、社内留保45.1%、支払配当21.8%、法人税21.3%、その他の社外流出11.7%となっている」と指摘されており、日本の「法人実効税率は35.64%と、他の主要国の25~30%より高い」という主張は「定価」でのお話しであり、実際に企業が支払っている法人税率は「他の主要国の25~30%より低い」可能性すらあるように思えます。

法人実効税率の引下げが必要であるという主張も尤もなものではありますが、「日本の法人実効税率は他の主要国より高い」と、米国も日本より高いかのような錯覚を覚えさせるような表現を繰り返すのは如何なものでしょうか。きちんと「日本の法人実効税率は米国を除いた他の主要国より高い」と説明するべきではないかと思います。国民に、都合の良い誤解をさせるような説明を繰り返す「偽装表示」は慎むべきだと思います。

また、「専業主婦を優遇する」という表現にも、違和感を覚えます。

女性が男性と同様に社会進出が可能で、同等の権利を有する社会にしなければならないことに関しては、ほとんど異論はないと思います。

しかし、「少子高齢化による労働力人口の減少を補うため」に、女性の社会進出を促すというのは時代遅れの考え方のような気がします。「少子高齢化による労働力人口の減少」が起きる原因の一つは、子供が減って来ていることにあります。不謹慎な表現になってしまいますが、もし、生まれて来る子供の数が減らなければ、団塊の世代が平均寿命に達する20年後以降は少子高齢化の進行は止まるはずです。しかし、内閣府の「高齢社会白書(平成25年度版)」によると、日本の人口は2048年には1億人を割り込むうえに、2012年に24.1%であった高齢化率(65歳以上人口割合)は2060年には39.9%に達すると推計されています。

つまり、「少子高齢化による労働力人口の減少を補うため」には、女性の社会進出を促すことだけではなく、女性に出産・育児を促すことも必要だということです。育児は男性でも担うことは可能ですが、出産だけは男性がどんなに努力しても不可能ですから、女性に担ってもらう以外にありません。

出産・子育てをする女性を増やす必要があるときに、「専業主婦を優遇する配偶者控除」、「主婦は税制や社会保障制度で優遇されている」という、「専業主婦」に対するネガティブキャンペーンをはり、「専業主婦」に肩身の狭い思いをさせることには違和感を禁じ得ません。

同日の一面に掲載されている「Wの未来」という連載記事のなかでは、「税優遇のロス3800億円」という小見出しで、「試算してもらったところ、配偶者控除による2012年の税収ロスは少なくとも3868億円」という試算結果が報じられています。しかし、税収ロスを0円にすることが「少子高齢化」の解決策ではありませんから、こうした試算に意味があるのかは疑わしい限りです。

逆に、3800億円という社会的コストを払ったことで「2012年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとされる子供の数)が前年を0.02ポイント上回る1.41だったと発表した。上昇は2年ぶりで、1.4台の回復は1996年以来16年ぶり」(2013年6月5日 日経電子版「出生率が16年ぶり1.4超 12年、出生数は最少更新」)となったのであれば、喜ばしいことだともいえます。

「人口の減少によって経済が縮小して社会の活力が低下し、社会保障や地域での支え合いといった社会システムそのものが成り立たなくなる」

先日辞任した猪瀬前都知事も、2013年6月4日に行われた東京都議会の所信表明演説で、少子化や人口減少を大きな課題に挙げ、経済や福祉への影響を詳細に調査した上で新たな対策を打ち出す意向を示しました。日本の成長戦略において、優先的課題となっている「少子化」の解決に貢献する可能性の高い「配偶者控除による税収ロス3800億円」という負担は、果たして社会的コストとして過剰なのでしょうか。

「主婦が遺憾なく力を発揮できることが、より豊かな社会をひらく」

18日付の「Wの未来」は、こうした一文で締め括られています。この文章に代表されるように、「ウーマノミクス」は女性を社会の働き手に駆り出すことに偏り過ぎているような気がします。しかし、「主婦が遺憾なく力を発揮できる場」は、必ずしも職場だとは限りません。貴重な「労働力」として社会に出て「需要拡大」の担い手となり「現在の日本に貢献することを目指す女性」と、主婦として「少子化」問題解決の担い手となることで「将来の日本に貢献することを目指す女性」がバランスよく存在するようにすることこそが、今の日本に求められる成長戦略ではないでしょうか。専業主婦として、母親として、「遺憾なく力を発揮」したい女性に対してそれを実現出来る「選択肢を与える社会」こそが、「より豊かな社会をひらく」ように思えてなりません。

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コメント

「違和感を禁じ得ません。」

よく意味が分かりません。

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私は有職主婦でしたが、今は専業主婦です。夫は海外出張が多く、残業は少ないです。
主人が帰宅する時間には、なるべく家に居て欲しいと言われています。そういう気持ちも、分からなくもありません。
残業がなくて家から近い仕事にしてくれと言われています。が、そんな仕事は、私の職種では、なかなか見つかりません。

なので、一旦職を辞すると待機期間が長くなり、専業主婦状態になります。

いろいろな形態の「専業主婦」がいます。子育てに専念したり、家事の傍ら趣味にいそしんだりして、何が悪いのでしょうか。社会全体が労働に向かい、余裕の無い社会になることは、ちょっと怖くもあります。

介護分野はアウトソーシングできないので労働力が不足していますが、それ以外の労働力は、余っています。供給過剰になれば賃金が安くなる。それを政財界は狙っているのだと思います。

またバカな国民が騙される

これは税制に関する本に書いてありましたが、

配偶者控除は、サラリーパーソンや自営業者の基礎控除と同じ制度趣旨です。

本来ならば、日本における無収入の者には生活保護を支給しないといけないが、専業主婦(夫)およびパート主婦(夫)にそれを支給するわけにもいかない。
だから実質的に主婦(夫)を養ってる人から控除すればいいだろう、という
行政事務コストの削減のための制度です


生活保護支給水準と、基礎控除と、配偶者控除は
すべて連動しています。


努力してるから国家に貢献しているから特別に税金控除
ではなく、
行政事務方の都合なんですよね。
専業主婦(夫)は得してるのでもなんでもない。
ただ基礎控除分だけ夫の収入から控除されてるだけなんです。


削減するなら、基礎控除額も引き下げられると思います。

専業主婦叩きは、主にフェミニストと財務省がやってましたが、今回もまたか・・という感じです。


こうやって国民は騙されて増税させられるんだと思いますね。

バカな人は「専業主婦ざまあ」と思ってるんでしょうけれども。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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