アルゼンチン・ショック ~「経済統計が信用できない国」に退場を迫った金融市場

アルゼンチンの通貨急落が世界の金融市場を揺るがしています。先週末の日経平均株価は304円下落、ニューヨークダウも318ドル下落して安値引け、16,000ドルを割り込みました。為替市場では円高が進み102円台前半、CME日経平均先物は15,000円割れとなり、「週明けの東京市場も株安・円高で始まる可能性が高い」(26日付日本経済新聞 「週明け株安・円高か」)状況となっています。

「週明けの東京市場も株安・円高で始まる可能性が高い」ことを受けて、日本経済新聞では「市場関係者の相場見通し」を紹介しています。以前も指摘しましたが、「市場関係者」や「市場の専門家」というのは、株式や為替の売買の仲介している会社に所属している「利害関係者」ですから、その見通しは「半値八掛け2割引」程度で聞いておくことが肝要です。

このような想定外の危機が発生した際に重要なことは、その危機がどのくらい金融市場や世界経済に広がりを見せる可能性を秘めているかということと、東京市場がどのくらいショックに対する耐性があるかということを分けて考えることだと思います。

個人的には、今回のアルゼンチン・ショックは、ギリシャ危機のように世界の金融市場や経済には大きな影響を及ぼすほど広がりを見せることはないが、円相場や日本株には短期的に大きな影響を及ぼす可能性があるのではないかと考えています。

世界の金融市場や経済に、それほど大きな影響を及ぼさないと考えるのは、アルゼンチンが2002年にデフォルトしてから、国際金融市場からの資金調達が出来ていなかったからです。この点で、海外から必要な資金の7割近くを調達していたギリシャとは状況が大きく異なっており、金融的な連鎖が起きる可能性は低いと思われます。

今月20日には、アルゼンチン政府がパリクラブ(主要債権国会議)と債務返済について話し合いを始める方針であることを示しましたが、その債務は約95億ドル(約9800億円)に過ぎません。さらに、その債務の6割は経済が強いドイツと日本で占めており、日本は2割程度だと言われています。日本の3メガバンクの4~12月期の連結純利益の合計額は1兆9000億円程度ですから、アルゼンチンに対する債務が日本の金融システムに及ぼす影響は限定的であると考えていいと思います(個人的には、20日にアルゼンチン政府がパリクラブと債務返済について話し合いを始める方針を示した僅か3日後というタイミングでアルゼンチン・ペソが売られ、政府が為替の安定操作を放棄する事態になった理由に興味を感じてしまいます)。

気を付けなければならない点は、世界の金融市場や経済に対する影響が限定的にとどまることと、円相場や日本株に及ぼす影響が限定的であることとは必ずしも同義ではないというところです。

一つは、市場内のポジションの偏りです。ピークは越えて来ていますが、IMMの投機筋のネットの円売りポジションは約11万5000枚、株式市場における裁定買残の株数も26億2010万株と、依然として高水準となっています。こうしたポジションの偏りは、連鎖的に解消される可能性がありますから、「値幅」という点では想定以上に出てしまう可能性を秘めていることには注意が必要です。

市場内の偏ったポジションは「時間」と「値幅」(あるいは両方)で調整されていくものですが、今回は「値幅」で調整される可能性が高い状況にあるように思います。このような状況では、企業業績などの「価値」を根拠とした「価格」からアプローチする「市場関係者の相場見通し」は、いつも以上にあてにならないと考えておかなければなりません。「価値」で売られるのではなく、「数」が合うところまで売られ、その結果「価格」が付くのですから。

今回のアルゼンチン・ショックを考えるうえで重要なことは、政府が「ウソ」をつき通すことが出来なくなったことが原因となっていることです。そして、アルゼンチン政府がつき通していた「ウソ」は、インフレ率を実際よりも低めに公表していたことです。このアルゼンチン政府がつき続けて来た「ウソ」は以前から指摘されて来ており周知の事実でした。しかし、その「ウソ」をつき続けるには、自国通貨を買い支えるためのコストが必要で、今回はその弾が尽きたことで危機が表面化してしまったということになります。

必要な資金を海外から調達していたか否かという点において、ギリシャ危機と今回のアルゼンチン・ショックの状況は大きく異なります。しかし、ギリシャとアルゼンチンには共通点があります。それは、「政府がウソをついていた」という点です。

今回アルゼンチン・ペソが急落したことで、アルゼンチンと同じ経常収支が赤字の新興国である「フラジャイル5 (fragile5:ブラジル、トルコ、南アフリカ、インド、インドネシア)」から資金を引上げる動きもみられています。こうした市場の懸念とは関係なく、安倍総理は「フラジャイル5」のトルコとインドには熱を入れていますが…。

「経常収支赤字国」というマクロ的な共通点に着目すれば、こうした「フラジャイル5」から資金が引上げられるのは自然の流れです。そして、その限りにおいては、金融市場や国際経済に及ぼす影響も限定的なものにとどまるかもしれません。しかし、もし「政府がウソをついていた」という共通項に市場が注目したらどうなるでしょうか。

市場の視線が「経済統計が信用できない国」に向けられたとしたら、その視線が中国に集まることは想像に難くありません。つい先日、地方政府が公表するGDPの合計額が政府の発表する国全体のGDPを上回っていることが報じられたばかりですし、シャドウバンキング問題など表面に出てこない負債が存在することは周知の事実ですから。もし、金融市場が「経済統計が信用できない国」に退場を迫りはじめたら、その際の影響はアルゼンチン・ショックの比ではありません。

この中国に最も熱心に投資をして来たのが、日本ですから、市場の視線が「経済統計が信用できない国」に向けられた時には、日本は世界で最も悪影響を受ける国であるともいえます。

こうした点を考えると、アルゼンチン・ショックが金融市場や国際経済に及ぼす影響は限定的であっても、市場のポジションの偏りと市場の視線が向く方向によっては、日本市場は大きな影響を受けかねない状況にあるということを頭の片隅に置いておいた方が賢明のような気がします。

さて、日本は、世界でも有数の「経済統計が信用できる国」だと思われます。しかし、日銀が買入れているETFの残高のについては、やや気に掛かることがあります。

日銀が公表している「ETFの買入れ状況」を見る限り、今年に入ってから先週末の24日まで、日銀によるETFの買入れ総額は848億円となっています。しかし、日銀が発表している「営業毎旬報告」で公表されているETF保有残高をみると、昨年末(2,497,333,050千円)から今月20日(2,620,559,443千円)までの間に既にETFの残高は1232億円増えています。

日経平均株価は昨年末から20日まで652円下落していますから、株価上昇によって残高が増えているわけではなさそうです。日銀の公表している「ETFの買入れ状況」によると、今年に入って20日までの日銀のETF購入額は720億円であるのに対して、「営業毎旬報告」ではETF残高は1232億円増えている…。もしこれが事実だとしたら、日銀は市場を欺く形で株高を演出している疑いがあることになってしまいます。

筆者の単なる誤解、勘違いで、「経済統計が信用できる国」である日本が、ギリシャ、アルゼンチン、中国のように「経済統計が信用できない国」に向かっているわけではないことを祈るばかりです。

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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