ボラティリティー上昇が鈍い株価下落 ~「理性的リスクオフ」と「破壊的リスクオフ」の大きな違い

3日の日経平均株価は3日続落。終値は前週末比295円40銭(1.98%)安の14,619円と、抵抗線だといわれていた14,800円を割り込み、今年に入ってからの安値を更新、昨年12月30日の昨年来高値(16,291円)からの下落率は10%を超えて来ました。

日経平均の下落を受け、日経平均ボラティリティー・インデックスも先週末比で1.14上昇し30.25となりました。これに対して日経平均株価の21日営業日ベースのヒストリカル・ボラティリティー(HVlt)は25.58%と、先週末比での上昇幅は僅か0.27%。今年に入ってからの安値を更新してもなお、自律反発の可能性が高まる30%には程遠い水準にあります。仮に明日HVltが30%に達するためには、13,855円(前日比▲763円)まで下落する必要がある計算になります。

マスコミ等は株価水準を重要視して報道しますが、投資をする上で最も恐ろしい相場状況は、「価格とボラティリティーが一緒になって下がっていく局面」です。こうした局面で、株価の値頃感から買い向かうのは、多くの場合、その後に苦しい思いをすることになります。

さて、日経平均株価が、昨年末の高値から10%以上下落して来たにもかかわらず、日経平均株価のHVltの上昇が鈍いのは、これまでのところ「リスクオフ」が運用者の意思によって進められているからです。

「リスクオフ」とは、「株式やコモディティ、高金利通貨など、リスクの高い資産を避け、国債や短期金融商品など相対的に安全と思われる資産に資金を移すこと」(iFinaceより)です。ポイントは、「リスクの高い資産から相対的に安全と思われる資産に資金を移す」ことを決める「判断者」です。

現在「リスクオフ」を決めるのは運用者であるファンドマネージャーということになりますが、運用者が主体となって「リスクオフ」を進める場合、それは「理性的」に行われますから、一定の時間を掛かり、市場のボラティリティーの上昇は緩慢になってしまうのです。ボラティリティーの上昇が緩慢ということは、なかなか「あく抜けしない」ということでもあります。

運用者の判断によって「理性的」に「リスクオフ」が進められるのに対して、「破壊的」に「リスクオフ」が進められることもあります。それは、ファンドの解約や、ヘッジファンドに対する融資の引上げなど、運用資産そのものが、最終投資家や融資者の判断で引上げられてしまう場合です。運用資金に大きな変化がない場合には、運用担当者は「理性的」に「リスクオフ」を進められますが、運用資産が引上げられる際に運用者は保有資産を短期間で換金する必要に迫られますから、「理性的」に「リスクオフ」を進めることは出来ず、相対的にリスクが大きいか小さいかにかかわらず保有資産を売却するという「破壊的」行動をとらざるを得ないわけです。同じ「リスクオフ」でも、実際の投資判断者が最終投資家なのか、運用者なのかによって、相場状況は大きく異なって来るのです。

「リーマン・ショック以来、空前の金融緩和は5年に及ぶ。低利のドルを借りて新興国などに投融資する『ドル・キャリー取引』は、相当に膨らんでいるはずだ。不安連鎖の根っこのひとつはこの辺にある」(3日付日本経済新聞 「核心 市場不安連鎖、今度は違う?」)

日本経済新聞を始め有識者達のなかには、今回の新興国発の金融市場の動揺の原因を「ドル・キャリー取引」に求める人も多いようです。しかし、こうした尤もらしい指摘は、実際に運用をした経験のない人の固定観念に基づいた発想でしかありません。

個人的には、今回の新興国発の金融市場の動揺の原因として、「ドル・キャリー取引」はそれほど大きくないと考えています。それは、2013年5月下旬にバーナンキ前FRB議長がテーパリング(金融緩和規模縮小)に言及したことで、それまで積み上げられていた「ドル・キャリー取引」のポジションの多くは解消されたのと同時に、それ以降「ドル・キャリー取引」は「危険な取引」に転じたため、「ドル・キャリー取引」が膨らみ難い状況が続いて来たからです。

「キャリー取引の解消」は、「リスクオフ」を「破壊的」に進める一つの要因になります。「キャリー取引」を考えるうえで見落としてならないことは、「キャリー取引」を行う際の「調達通貨」は、「低金利通貨」であると同時に、「通貨高になり難い通貨」である必要があることです。例えば、ドルを借りて新興国株式などリスク資産に投資する「ドル・キャリー取引」をしているときに、「調達通貨」であるドルが上昇するということは、「借金」が膨らんでいくことを意味するわけですから、「通貨高になりやすい通貨」を「調達通貨」にすることは避けなければならないのです。

確かに、日本経済新聞が指摘するように、バーナンキ前FRB議長がテーパリングに言及した後も、FRBは低金利を維持するというのが市場のコンセンサスでしたから、「低金利通貨」であることには変わりはありませんでした。しかし、バーナンキ前FRB議長がテーパリングに言及したことによって、ドルに対する市場の認識は「通貨高になりやすい通貨」に変わりましたから、ドルは「キャリー取引」の「調達通貨」としての魅力を失ってしまっていたのです。このことを、日本を代表する経済紙は見落としているのです。

「キャリー取引」が解消に向かう局面のひとつの特徴は、「調達通貨」が上昇することです。2013年5月下旬にバーナンキ前FRB議長がテーパリングに言及して以降、ドルが「キャリー取引」の「調達通貨」として相応しい通貨ではなくなったこと、黒田日銀が盲目的に「異次元の金融緩和」を唱えて来たこと、ここに来て円高傾向になって来ていること。こうした状況証拠から判断すると、昨年後半から「キャリー取引」の「調達通貨」の主役は「円」であった可能性が高いと思われます。

リーマン・ショックの時のように、「キャリー取引」が解消に向かう局面では、「破壊的」に「リスクオフ」が進められ、リスク資産が急落するケースが多々あります。しかし、今回のリスク資産の下落は、日経平均株価のHVltが依然として25%台に留まっていることに象徴されるように、今のところリスク資産の「破壊的下落」を招いてはいません。それは、今回の「キャリー取引の解消」が、「資産価格の下落」という「資産サイドの理由」によって引き起こされており、「資金の引上げ」など「調達サイドの理由」によって引き起こされたものではないことを物語っています。

この点が、昨年5月のバーナンキ前FRB議長がテーパリングに言及したことで起きた「キャリー取引の解消」と大きく異なる点です。昨年5月のバーナンキ前FRB議長によるテーパリング言及に端を発した株価下落局面では、日経平均株価が高値から10%下落するのに6営業日しか掛かりませんでしたし、日経平均株価が1日で1,143円急落したことで、19.57%であった日経平均のHVltも、一日で35%程度まで急上昇しました。そして、HVltは6月19日には51.19%まで上昇し、日経平均株価はその直後の25日に2番底の12,834円を記録した後、年末に向けて回復軌道に戻って行きました。

今回の新興国発の金融市場の混乱は、アルゼンチンが実質的に国際金融市場から締め出されていたことや、中国の金融市場が開かれていないことなどが幸いし、世界の金融システムを揺るがすような事態を引き起こすまでに至っていません。このことが、先月末のFOMCでFRBがテーパリングを計画通り粛々と進め、新興国発の金融市場の混乱について一言も言及しなかった理由だと思われます。

今後、「リスクオフ」を進める主役が、運用者から最終投資家に移っていくとしたら、市場は「破壊的リスクオフ」に向かう可能性もあります。これによって、市場は下げ足を速めることになりますが、HVltが上昇しますから、「あく抜け」までの時間は短くて済む可能性は高まります。そして、市場の大幅下落が、金融システムに影響を及ぼす事態に繋がれば、FRBも放置することはなくなるはずです。

ところで、リーマン・ショックに端を発した金融市場の混乱も、ギリシャ危機に端を発した金融市場の混乱も、世界は金融緩和で乗り切って来ました。しかし、今回の新興国発の金融市場の混乱は、震源地である新興国の利上げによって乗り切ろうとしているところが、過去5年強の間に起きた金融危機との大きな相違点です。

金融市場混乱の震源地となった新興国の利上げは、新興国の内需を冷やすものとなります。また、経常赤字が過大な新興国は、金融だけでなく財政も引き締められる方向に向かう可能性が高いと思われます。

こうしたことから想像されることは、今後、新興国の「消費地としての魅力」が低下して行くということです。デカップリング論をはじめ、リーマン・ショック以降世界が新興国の経済成長力に期待して来たのは、「安い労働力提供能力」と「消費地としての魅力」の両輪が揃って回ると考えて来たからです。もし、世界の投資家が今回の金融市場の混乱によって、新興国が「消費地としての魅力」を失っていき、「安い労働力提供能力」だけの片肺飛行に転じると判断したら、投資資金だけでなく、企業の直接投資にも影響を及ぼすことになるはずです。今回の新興国発の金融市場の混乱は、今のところ金融市場に対する影響こそ限定的ですが、もしかしたらこの先10年の世界経済の状況には大きな影響を及ぼすのかもしれません。

今週は、週末の米国雇用統計をはじめ、米国で重要な経済統計が発表になります。新興国が「消費地としての魅力」を失いつつあるなかで、米国が「消費地としての魅力」を維持、拡大出来るかは、世界経済にとってこれまで以上に重要になって来ます。ただ、市場動向を考えるうえでより重要なのは、発表される米国の経済統計が強く出るか弱く出るかということ以上に、それをイエレンFRB新議長がどのように受け取るのかということです。注目の新議長に対する米下院の公聴会は、来週2月11日に予定されています。

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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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