SONY、マクドナルド、日銀副総裁 ~ それぞれの黄昏

「ソニーは6日、テレビ事業の分社やパソコン事業の売却などを柱とするエレクトロニクス事業の再建策を発表した。リストラに伴い国内外で約5000人の人員を削減。スマートフォン(スマホ)やゲームなどに経営資源を集中し、事業再生を急ぐ」(7日付日本経済新聞 「ソニー、テレビ分社」)

我家にあるパソコンは、筆者が使っているものも、奥様が使っているものも、息子が使っているのも、全て「VAIO」です。また、リビングに置いてある40型テレビもSONY製です。その「VAIO」事業は投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡され、テレビも分社化されることになりました。

スマホやタブレットの台頭で、パソコン事業が厳しい状況に追い込まれるのは時代の流れとしても仕方ないことかもしれません。会社側は「スマートフォンやゲームなどに経営資源を集中」するようですが、それに伴い家庭内から「SONY」のロゴが消えて行くということは、今後の同社の潜在的ブランド力を低下させる原因になってしまうような気がしてなりません。

「中国でスマートフォンの増産意欲が止まらない。端末メーカーが相次ぎ誕生し、政府公認だけで400社に迫る勢いだ」(7日付日本経済新聞 「中国 スマホ400社乱戦」)

ソニーが「経営資源を集中する」ことを報じた日本経済新聞は、同じ日にこのような記事に加え、「スマホを世に送り出し強力なブランド力を持つ米アップルもシェアをじりじりと落としている」(日本経済新聞 「ソニー、背水のリストラ」)と、スマホ分野での競争が激化していることを報じています。また、「スマホやゲームも競争環境は厳しい。6日の発表で今期のスマホ世界販売台数を従来の4200万台から4000万台に下方修正した」と報道されている通り、スマホは必ずしも「成長分野」とは言い切れない状況にあります。

こうした状況下で「スマホでは中国や米国市場に本格参入して2年後に販売台数を倍増させ、4割の世界シェアを握る据え置き型ゲーム機は月額課金サービスで収益をさらに高める計画」で成長を取り戻せるのでしょうか。

気になるのは、「テレビ事業は7月に分社して子会社にする方針」に伴い、「人員を減らしたうえで、業績に連動する賃金制度を導入するなどで固定費の圧縮を狙う」と報じられているところです。分社化する狙いは賃金など固定費の圧縮を進めることが出来ることと、何時でもテレビ事業を売却出来るようにすることだと思います。

1980年代後半、筆者の建設会社時代の営業出身の上司が、(当時の)「SONY プルコ生命」の営業職に転職した際、「SONY」のブランド力の高さに感激していたことがあります。しかし、コスト圧縮を狙った海外生産が「SONY タイマー(SONY kill switch)」という都市伝説を生んだように、分社化して固定費圧縮を狙う戦略がSONYで働く人たちの忠誠心(ロイヤルティ)が低下するとしたら、それは「SONY」というブランド力の低下を招くものになりかねません。

「スマートフォンやゲームなどに経営資源を集中」していくことによって家庭の中から「SONY」のロゴが消えて行き、それによって顧客が「SONY」に対して抱いていたロイヤルティが薄れて行くのに加え、固定費を削減することで従業員が会社に対して持っていたロイヤルティが薄れて行くことになってしまっては、SONYの復活は叶わぬ夢で終わってしまうことになりかねません。「SONY」ブランドの復活は、平井CEOが「固定費の削減」と「SONYに対すロイヤルティの維持・向上」という、相反する命題をどのようにコントロールして行くのかに懸かっているように思います。

「日本マクドナルドホールディングスは6日、2014年12月期の経営戦略を発表した。客離れによる業績不振を受け、不採算店など143店を閉鎖、200店を改装。事業会社のサラ・カサノバ社長はもともとの強みだった家族客を増やす『原点回帰』策を打ち出した」(7日付日本経済新聞 「マクドナルド、原点回帰」)

SONYとともに凋落傾向が顕著なのが、日本マクドナルド。この記事の中で注目されるのは、「マクドナルドの客数減少は深刻だ。昨年10~12月、既存店の客数は2ケタ減。通期では客単価が上昇したにもかかわらず、売上高は6.2%落ち込むことになった」という部分。

政府や日銀、さらには御用学者達が繰り返して叫ぶ「デフレからの脱却」は、「客単価」のお話でしかありません。「景気回復の実感を届ける」ためには「売上」が上昇する以外にありません。しかし、マクドナルドに限ってみれば「客単価が上昇」し「デフレからの脱却」に成功したものの、「客数減少」によって売上高は6.2%落ち込むことになり、「景気回復の実感」は遠ざかる結果となりました。勿論、マクドナルドには「モスバーガーより価格が高くなったビッグマックに競争力があるのか」といった固有の問題もありますが。

重要なことは、「客単価(価格)」に着目して「デフレからの脱却」と騒いだところで、「客数減少」によって「売り上げ」が減少してしまえば、「デフレからの脱却」などは単なる空騒ぎに過ぎないということです。

「物価動向については『需要が増加していて、物価が上がっている』と説明。『価格が上がっても生産が増えるのは、需給ギャップが縮まっていることがベースにある』と強調し、円安によるコストプッシュ型の物価上昇という見方を退けた」(6日日経電子版「岩田日銀副総裁、日本経済『下振れリスクは小さい』」)

マクドナルドが「客数減少」によって大幅減益に陥り、多くの企業が内容量を減らして販売価格を維持する「隠れ値上げ」を余儀なくされる中、日銀副総裁の目に日本経済は「需要が増加して、物価が上がっている」と映っているようです。「需要が増加」してみえるのは、消費増税を控えた駆け込み需要によるもので、駆け込み需要によって「需給ギャップが縮まっている」と判断するのは完全な我田引水です。もし、駆け込み需要ではない需要が増加して来ているのであれば、補正予算など必要がないはずですから。

足下で重要なことは、「民間エコノミストの多くは足元の物価上昇に対して円安によるエネルギー価格の上昇が原因で、効果が一巡すれば上昇率は鈍ると予想する」(日本経産新聞)というような、日銀が掲げた「2%の物価安定目標」を達成出来るか否かという表面的な議論ではなく、日銀が掲げている「2%の物価安定目標」が現在の日本経済運営の目標として適切なのかという議論のはずです。

確かなことは、消費増税を控えた駆け込み需要による一時的な「需給ギャップ」の縮小と、景気回復による「需給ギャップ」の縮小との区別もつかない学者が日銀金融政策の理論的支柱になっていることが、国民にとって不幸なことだということです。

日経の記事によると、「『かつての日銀批判が懐かしい』との声すら漏れてくる」と、岩田日銀副総裁に対して、学者として痛烈に日銀批判をしていたころの「歯切れのいい岩田節」の復活を願う声も上がっているようです。しかし、「岩田節の復活」よりも望ましいのは、「インフレを起こせば、景気を立て直すことが出来る」という教科書的な考えに凝り固まった日銀副総裁の脳細胞をSTAP細胞で初期化するか、小保方博士のように、教科書に書かれている教義よりも、目の前に起きている現象を客観的に受け入れられる柔軟な思考力を持っている人を金融政策の中心に据えるかのどちらかのような気がしてなりません。
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コメント

>確かなことは、消費増税を控えた駆け込み需要による一時的な「需給ギャップ」の縮小と、景気回復による「需給ギャップ」の縮小との区別もつかない学者が日銀金融政策の理論的支柱になっていることが、国民にとって不幸なことだということです。

「需給ギャップが5年ぶり小ささ 7~9月、マイナス1.3% 」
[http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2001K_Q3A121C1EE8000/]
消費増税が決定したのは9月です。
その違いがわからないのはあなたの方でしょう。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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