「One Issue日銀」が示した危険性 ~ 「二匹目のドジョウ」を狙った「2倍」「2倍」の「馬子にも衣装」政策

「株高・円安に一服感が漂い、アベノミクスの陰りも指摘される中、追加緩和カードを温存しつつ、市場の期待をつないだ格好だ」(19日付日本経済新聞 「日銀、市場の期待つなぐ」)

正直、かなり買い被った見方をしている印象です。日本経済新聞は、日銀政策決定会合の結果発表後から市場が円安、株高に反応し、日経平均株価が今年最大の上げ幅を記録したことを高く評価したようです。

日本経済新聞は、電子版でも「黒田日銀が示した演出力」と題した記事を掲載し、「決定内容が公表された直後から金融・資本市場では円安・株高が進行。市場から『無風』と思われていた会合が、まるで追加の金融緩和を決めたかのような効果を発揮した」と、決定内容公表直後に「円安・株高」という反応を引出した「演出力」に賛辞を送っています。

中央銀行の言動によって市場が安定することは重要なことですが、黒田日銀の最大の問題点は「市場を動かすこと」を目的化してしまっていることです。これは黒田日銀総裁が財務官という政治畑出身で「市場を動かす=力」という感覚が染み付いているからだと思います。また、「異次元緩和」の論理的支柱である岩田副総裁は学者で実際の市場経験がありませんから、「市場を動かす=政策効果」という錯覚を持っているように思われます。

つまり、黒田総裁、岩田副総裁に率いられる今の日銀は、市場から無視されることに対して過度に恐怖感を抱く体制になっているということです。

それは、黒田日銀が、安倍総理が掲げた「2%の物価安定目標」を達成するまで「大胆な金融緩和」を行うというワンイシュー(One Issue)を達成するために誕生した歪んだ生まれに端を発しているものです。

「近く期限が到来する貸出増加支援資金供給、成長基盤強化支援資金供給、被災地金融機関支援資金供給について、それぞれ1年間延長することを決定しました。その上で、貸出増加支援資金供給については、金融機関が貸出を増加させた額の2 倍まで、日本銀行から資金供給を受けられることとします。また、成長基盤強化支援資金供給については、本則の総枠を3兆5 千億円から7 兆円に倍増します」(日銀「総裁記者会見要旨」)

今回日銀による、金融機関の貸出増加を支援する制度を「2倍」に拡充という決定は、「追加緩和」ではなく「緩和の効果波及メカニズムを強化する」(日本経済新聞「日銀総裁の会見要旨」)ものだそうです。こうした見直しによって、黒田総裁は「貸付を倍増することで、今と同程度の利用率でも最終的な貸付残高は30兆円程度になる」(同)と想定しているようです。

両制度で構成する「貸出支援基金」の2月10日時点の残高は9兆1656億円ですから、黒田総裁は、貸出支援制度の延長と規模倍増によって、約20兆円の貸出増加を見込んでいるということです。しかし、貸出支援制度の実績を見てみると、2013年3月末の「貸出支援基金」の残高は3兆6534億円でしたから、「異次元緩和」実施による残高増加額は5兆5122億円に過ぎません。

こうした実績に基づいて、今回の1年の延長で5兆円程度残高が増えるというのなら理解出来ますし、規模を倍にしたことによって、その倍の10兆円程度残高が増えるという見通しならまだ論理的許容範囲かと思います。しかし、「今と同程度の利用率でも最終的な貸付残高は30兆円程度になる」という想定にはかなりの無理があるような気がします。少なくとも金融の専門家はこうした「裏付けの乏しい想定」を示すことはないはずです。こうした「裏付けの乏しい想定」を平気で掲げられるところに、黒田総裁が「金融の専門家」ではないことが如実に表れています。

そもそも、黒田日銀が「異次元緩和」を打ち出してからマネタリーベースは65兆6728億円増加し200兆4141億円まで拡大して来ています。しかし、マネタリーベース増加分の93.3%に相当する61兆3036億円は「当座預金残高」の増加によるものになっており、「総貸出平残(銀行計)」の増加額は8兆9078億円と、マネタリーベース増加額の12.8%にすぎません。

仮にマネタリーベースと「総貸出平残」の関係が「同程度」だとしたら、20兆円貸出を増やすためには、計算上マネタリーベースを156兆円増やし、356兆円にする必要があることになります。これは「異次元緩和」で掲げた「2014年末270兆円」というマネタリーベースの目標値を90兆円上回る必要があるということです。

逆に、マネタリーベースを計画通り270兆円へ、後70兆円増加させるなかで貸出しを20兆円増やすとためには、マネタリーベース増加額の12.8%にとどまっている「総貸出平残」に向かう比率を28%強まで引き上げなくてはなりません。黒田総裁はそのための施策については何も言及をしていません。

これまでの「異次元緩和の実績」から見る限り、貸出支援制度を拡充し、期間を1年間延長することで貸付残高を20兆円増加させることはかなり難しいと言わざるを得ない状況です。

「当座預金残高」を増やすことでマネタリーベースの残高目標を達成した実績を持つ黒田日銀が1年後に使いそうな詭弁は、「総貸出平残」は増えなかったが、「貸出支援基金」の残高は30兆円になり、目標を達成したというものです。そのためこの先1年間黒田日銀総裁は、金融の専門家としての手腕でなく、メガバンクに対して財務省財務官という行政経験に基づく手腕を発揮するつもりなのかもしれません。

今回の日銀の貸出支援制度の拡充と延長という措置は、経済的には殆ど意味がないものだと思われます。黒田総裁は記者会見で今回の政策決定について「喩えていえば、『量的・質的金融緩和』の導入でエンジンの馬力を大幅に上げたので、その性能を十分に活かすためにタイヤを強化したと言っても良いと思います」と発言されています。

マネタリーベースの拡大が殆ど「当座預金残高」にまわり、「総貸出平残」に回っていない状況を鑑みると、その実態は、「軽自動車にポルシェのエンジンを積み、ダンプのタイヤを付けている」という滑稽なものに思えてなりません。

それでも金融市場が反応したのは、市場が「材料」を欲しがっていたからに他なりません。昨日の「StockvoiceTV~WORLD MARKETZ」でも少し触れましたが、日経平均株価のボラティリティーを見る限り、市場内に自律反発するエネルギーは十分に蓄積されていない状況です。そうした状況下で、「市場を動かす=力」だと勘違いした日銀が、「異次元緩和」の際に効果的だった「2倍」「2倍」という言葉で着飾った中身のない政策を発表したことによって、市場は十分に蓄積されていなかった自律反発エネルギーを前日比450円高という今年最大の上げ幅に使ってしまいました。日銀は、市場内に自律反発エネルギーが十分に蓄積される前にそれを放出させると同時に、株式市場を外部の悪材料に弱い状況にしてしまいました。

「追加緩和カードを温存しつつ、市場の期待をつないだ」(日本経済新聞)という好意的見方もありますが、「One Issue中央銀行」の金融政策の危うさを痛感させられるものたったような気がしてなりません。

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近藤駿介

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