ビットコイン取引所「マウントゴックス」破綻 ~「行政システムに弱いところがあった」国で起きた、「システムに弱いところ」をつかれた破綻劇

「仮想通貨の取引所を運営するMTGOXが28日に民事再生手続きを申請した。『未来の通貨』の中心となる取引所だが、ハッキング被害にあったうえ、顧客から預かった現金をきちんと管理せず、客の預かり金28億円も宙に浮いていた」(1日付日本経済新聞 「ビットコイン取引所 ハッキング被害で消失」)

2013年3月のキプロス危機以降、世界的に注目を集めて来た「仮想通貨ビットコイン」。その最大の取引所である「マウントゴックス」がハッキングの被害にあい、あっけなく破綻に追い込まれました。

麻生財務相は28日の会見で「あれは、通貨か。通貨として誰もが認めているわけではない」「こんなものは長くは続かないと思っていた。どこかで破綻すると思っていた」と、さすが財務相、先見性が高いと思わせる発言をされたことが報じられています。

個人的には、「仮想通貨」という名前が様々な誤解を生む原因であったと思います。単純化してしまえば、「実物貨幣」の一種ともいえるビットコインに関する狂騒は、オランダのチューリップバブルの21世紀版だったような気がします。そして、供給量に限界があるという点では、金取引や不動産取引とも共通性のあるものだとも言えますから、ビットコインが特殊性の高いものだという印象を与えた「仮想通貨」という名称が、良くも悪くも多くの人達に誤解を与えてしまったように思えてなりません。

ところで、株式会社MTGOX(資本金500万円、渋谷)破綻に関する報道を見ていて感じることは、何故破綻に追い込まれたのか、今後ビットコインという「仮想通貨」がどうなるのかに関するものが中心になっていることです。

「システムの弱いところがあり、そのせいでご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません」

28日に開かれた記者会見で、マウントゴックスのマルク・カルプレスCEOは、決して流暢とはいえない日本語で謝罪の言葉を述べ、頭を下げました。たしかに、マウントゴックスが破綻に追い込まれたのは、「システム上の甘さ」が原因だったのかもしれません。しかし、個人的には今回の「マウントゴックス破綻」には、日本の「行政システムの弱いところ」があったことを露呈した事件だと捉える必要もあるように思います。

まず引っ掛かるのは、何故これまで「マウントゴックス」が日本で営業活動を続けて来られたのかという点です。

仮に、ビットコインが「仮想通貨」で、「マウントゴックス」がその「私設取引所」であるならば、(株)MTGOXは金融商品取引法上、金融庁に第一種金融商品取引業者の登録をしたうえで、内閣総理大臣から「PTS(私設取引所)認可」を受ける必要があったことになります。第一種金融商品取引業者の登録するための最低資本金は5000万円ですから、資本金500万円の(株)MTGOXはそもそも第一種金融商品取引業者に登録することは出来ませんから、当然日本国内で「私設取引所」を運営することも出来なかったということになります。

財務省はビットコインという「仮想通貨」を「通貨」として認めていませんし、ビットコインが「有価証券」にも該当しないという判断から、実質的な「私設取引所」であっても管轄外だとして放置して来たのだと思われます。

これに対して(株)MTGOXは、取り扱っている商品が「通貨」でも「有価証券」でもないビットコインという「仮想通貨」であることや、金融商品仲介業においては最低資本金制度が設けられていないことを利用して「仲介業者」だと強調することで、金商法の網の目を潜り抜け、無登録で実質的な「私設取引所(PTS)」の運営を続けて来たといえます。

しかし、金融商品取引法の穴は抜けられても、その他の法律で規制することは可能だったように思えます。

例えば、「実物通貨」という点においてビットコインと共通性がある金の買い取り業務を行う際には古物商の免許が必要ですし、インターネット上でオークションサイトを運営するためには、古物競り斡旋業の届け出が必要です。もし、副総理でもある財務相が、マウントゴックスが「どこかで破綻する」と考えていたのであれば、単に破綻するまで静観するのではなく、何かしらの指導監督をするべきだったのではないでしょうか。

470億円という多額の資金が、何の行政の監視も受けない業者に預けられている異様な状態に疑問を感じさえすれば、当局は何かしらの指導、監督を行うことが出来たはずです。その結果、マウントゴックスの「システムの弱いところ」は改善させることが出来たかもしれません。今回のマウントゴックスの「システムの弱いところ」は、技術的には公知のことで、他の取引所では対応済みだと言われていますから、「システムに弱いところがありビットコインがなくなった」という事件を未然に防げたかもしれません。

(株)MTGOXは、日本の法規制の網を潜り抜け、無認可で実質的な「私設取引所」の運営を行って来ました。そしてこの実質無登録業者である(株)MTGOXは民事再生法の適用を申請しました。

民事再生法は、債務者の事業・経済生活の再生を図ることを目的として制定された「再建型」の倒産法です。手続き上はこれから再建計画が作成されることになるはずですが、もしこれが認められるということは、司法が無登録業者の再建を認めるという、おかしな構図になってしまうような気がしてなりません。民事再生法の適用を申請した代理人弁護士達は、この点についてどのような見解を持たれているのか、是非確認したいものです。

今回の(株)MTGOXの破綻に関する報道は、「仮想通貨」という分かり難いものが対象であったこともあってか、これまでのビットコインの注目度の割には地味な扱いになっているような印象です。その背景としては、マウントゴックスが日本に拠点を置く「私設取引所」であったにもかかわらず、「マウントゴックスの債権者は現時点でおよそ12万7000人おり、このうちの大半が海外の利用者で、日本人の利用者は全体の1%に満たない」という事情もあるのかもしれません。

ここで湧いてくる疑問は、「大半が海外の利用者」であるにも関らず、何故マウントゴックスは拠点を東京に置いたのか、ということです。

「大半が海外の利用者」であるならば、時差を考えても海外に拠点を持つのが自然のような気がします。BISが2013年4月に公表した「国別1日当たり外国為替取引額」を見てみると、最も取引規模が大きいのは英国で、そのシェアは40.9%となっています。英国に次ぐのが米国ですが、そのシェアは英国の半分以下の18.9%、そして日本はシンガポールに次ぐ第4位で、そのシェアは5.6%と英国の13.7%程度に過ぎません。「仮想通貨」の取引所を運営するなら、為替取引が最も盛んなロンドンに拠点を設けるのが自然のはずです。さらに、マウントゴックスのマルク・カルブレスCEOはフランス人なのですから。

こうした状況を考えると、マウントゴックスが「世界的にみて実効税率が高い」と言われ続けている日本に「経済的合理性」に基づいて拠点を置いたのかは疑わしい限りです。

Wall Street Journalの報道によると、2013年5月に「米規制当局がマウントゴックスという取引所が米国で正規登録されていないと通告」し、6月時点で日本に活動拠点を置くマウントゴックスに対して「資金決済・両替事業としての登録」させています。ですから、財務相がビットコインを「通貨」として認めるか否かに関係なく、日本の規制当局も、自国を活動拠点としているマウントゴックスの業務が金融商品取引に該当する可能性があることは認識できたはずですから、今回のマウントゴックスの破綻は行政の怠慢に責任の一端があると言えるような気がします。

ビットコインが大きな注目を浴びて来た割には、今回のマウントゴックスの破綻のニュースの扱いは小さなものにとどまったのは、行政の怠慢に責任が及ぶことを避けるという意図があったのかもしれません。

「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」

安倍総理は成長戦略として「世界で一番企業が活躍しやすい国」というキャッチフレーズを掲げています。しかし、この成長戦略のために、「世界一規制・監督が緩い国」にならないようにして頂きたいものです。

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コメント

「勝手に潰れろ」という当局の意志もあったのでは?
とにかく、日本では新しい事を嫌う風潮がありますし。

Re: タイトルなし

> 「勝手に潰れろ」という当局の意志もあったのでは?
> とにかく、日本では新しい事を嫌う風潮がありますし。

コメントを頂きありがとうございます。
確かに、潰れても構わない、という意識もどこかにあったと思います。それに、出来れば関わりたくないという気持ちもあったと思います。実態を把握しようとしただけで、規制を掛けているという非難を受けかねませんから。小生も長年「自己責任原則」の社会で生きて来ましたから、規制は最小限である方が良いと思っています。しかし、「自己責任原則」と「情報開示」は一体のものですから、当局が適切な「情報開示」を求めるのは当然の行為だとも思っています。資本金500万円の会社が、何の「情報開示」もなく時価で500億円近い資産を集められるというのは、やはり異様だと思います。マウントゴックスに資金を預ける格好になっていた投資家のどの位が、マウントゴックス社の資本金が500万円だと知っていたのでしょうか。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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