ビットコイン取引ルール導入~「利用者保護」よりも「財務省保護」に重点を置いた取引指針

「政府はインターネット上の仮想通貨『ビットコイン』の取引ルールを導入する。ビットコインを通貨ではなく『モノ』と認定し、貴金属などと同じく取引での売買益などは課税対象にする。銀行での取り扱いや証券会社の売買仲介は禁止する」(5日付日本経済新聞 「仮想通貨に取引指針」)

政府が、ビットコインを「モノ」とした取引指針を導入することが日本経済新聞の一面で報じられています。記事では「政府が取引ルールを示すのは主要国で初めてで、国際的なルール作りの契機となりそうだ」という観測を示しています。しかし、日本経済新聞で報じられている内容を見る限り、この政府の取引指針は、「投資家保護」よりも「財務省・財務相保護」に主眼を置いて策定された代物ですから、「国際的なルール作りの契機」となるよりも、日本の行政の特殊性を白日にさらすものになる可能性の方が高いのではないかと思われます。

今回報じられている政府の取引指針の背後にあるロジックは、

 1.ビットコインは「モノ」である
 2.「モノ」であるから「金融商品」には該当しない
 3.「金融商品」に該当しないので、金融商品取引業者である銀行や証券会社を介した取引は禁止
 4.それゆえ、金融商品及び金融商品取引業者を管理監督する財務省(金融庁)は一切関与せず責任も負わない

というものです。

先月28日の会見で麻生副総理兼財務相が、「あれは、通貨か。通貨として誰もが認めているわけではない」と発言してしまっていましたから、政府としては今さらビットコインを「通貨」や「金融商品」として認めるような取引指針を策定する訳にはいかなかったのではないかと推察されます。

「指針ではビットコインの取引が課税対象になるとの見解も示す。ビットコインを使って商品を売買した場合は、消費税がかかる。個人がビットコインを購入してその後に値上がりした際は、売却益に所得税が課税されることになる」(同)

ビットコインを「モノ」と認定するということは、ビットコインは「デジタルコンテンツ」という扱いになるのではないかと思います。しかし、「日本の消費者が、 国内事業者X からネットを通じて購入するデジタルコンテンツ(音楽、電子書籍、映画等). は国内取引として消費税が課されるが、 国外事業者Y からネットを通じて購入するデジタルコンテンツは国外取引として課税の対象外とされている」(2013年11月 財務省主税局税制二課「国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方について」)わけですから、世界的に普及が進んだビットコインを消費税の対象にするという指針は、ほとんど意味をなさないことになります。

また、「ビットコインを使って商品を売買した場合」というのは、国内で決済通貨としてビットコインが使われたケースを想定しているのだと思いますが、その場合、消費税はビットコインで支払うのか、それとも円で支払うのか、どちらなのでしょうか。ビットコインで支払えるのだとしたら、当局がビットコインを「仮想通貨」として認めることになってしまいますし、円で支払うのであれば、その「モノ」の時価はどのように決めるのでしょうか。このように考えると、こうした「ビットコインの取引が課税対象になるとの見解を示す」ということに、実質何の意味もないように思えます。

今回の取引指針で、ビットコインをはじめとした「仮想通貨」を「モノ」と認定し、「金融商品」の範疇に含めなかったことは、今後さまざまな混乱を引き起こすことになるかもしれません。

「金融商品」に含まれなかったことで、金融庁(財務省)がビットコインなどを取り扱う業者に対して、何の規制も監督もしなくてもいいようになりました。従って、マウントゴックスのようなビットコインを扱う「私設取引所」も、ビットコインの取引を行う売買仲介会社も、この先ほとんど何の法的な規制を受けずに国内で運営することが出来るようになります。

何の規制も監督も受けない業者が雨後の竹の子のように生まれ、何の規制も監督も受けずに個人投資家などに対して無差別に勧誘、営業活動を行い、何の規制も監督も受けない業者や私設取引所が資金を預かるという、危険極まりない状況を生み出す可能性を秘めているように思えてなりません。

ビットコイン自体は、技術進歩や社会的ニーズに基づいて自然発生的に生まれて来たものだろうと思います。従って、それ自体を規制することは難しいですし、民間活動に過剰な制約を与える行政の介入は必要最小限度に抑え、投資家の「自己責任」に委ねるのがあるべき姿だとは思います。

しかし、忘れてはならないことは、「自己責任原則」と「適切な情報開示」とは、セットになっている、換言すれば「適切な情報開示」があってこそ「自己責任原則」が成り立つということです。「適切な情報開示」がない中での「自己責任原則」は、投資家に鉄火場を提供するような危険なものでしかありません。

ビットコインという、流通を管理する事業主体や国家もなく、中央銀行のようなものも存在しない仮想通貨の場合、それ自体の「適切な情報開示」に期待することは難しい状況です。したがって、ビットコインを取り扱う「私設取引所」や仲介業者に関する「適切な情報開示」はより重要になってくるのです。

先月末経営破綻したマウントゴックス社の資本金は僅か500万円でした。もし、こうした現実を投資家が正しく把握していたら、時価で450億円もの資金を預けたでしょうか。危険を察知してマウントゴックス社に資金を預けたままにせずに、被害を最小限に抑えられた投資家も出て来た可能性はあります。

筆者は法律の専門家ではありませんのではっきりとしたことは申し上げられませんが、ビットコインが「モノ」であるのであれば、それを預かるためには、「倉庫業を営もうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない」という倉庫業法の規制を受けるのではないかと思います。また、「モノ」の購入資金を預かるのであれば、「金融取引業者」としての登録が不可欠ですし、インターネット上でオークションサイトを運営するならば「古物競り斡旋業」の届け出が必要になるはずです。

ビットコインなどの仮想通貨を「モノ」と認定するだけで、業として「モノ」を扱う際に何の登録が必要なのかに触れていないのであれば、「取引指針」としてほとんど価値がありません。

今回日本政府が「主要国で初めて示す取引ルール」の実態は、「利用者保護」からかけ離れた、「財務省保護」を目的にしたようなもののようです。日本経済新聞が指摘するように、日本が主要国始めて仮想通貨の取引指針を示すということは「国際的なルール作りの契機」になるかもしれません。しかしそれは、残念ながら、国際的なルール作りに際して日本の取引指針が「反面教師」になるという形だと思われます。

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR