「未熟な記者による、杜撰なデータ分析」に基づいて日本を代表する経済紙が叫ぶ「金利上昇リスク」

「何かの弾みで海外投資家が一斉に売りに回ることがあれば、先物主導で国債が売られ、金利が上昇するリスクをはらむ」(17日付日本経済新聞 「国債 変わる持ち主」)

日本を代表する経済紙は、何としても日本国債の暴落リスクを煽り続けたいようです。

「欧米とロシアの対立が深まれば、投資家のリスク回避姿勢が強まり安全通貨の円が買われる可能性がある」(16日付日本経済新聞 「市場アウトルック」)

日本国債の暴落リスクを煽る一方で、日本を代表する経済紙は、円を「安全通貨」だとしています。彼らの主張に従えば、「何かの弾みで海外投資家が一斉に売りにまわる」ことで「金利が上昇するリスクをはらむ」国債を発行している国の通貨が、「安全通貨」ということになります。

日本国債が「金利上昇リスク」をはらんでいるとしたら、「リスク回避」の目的で「安全な通貨」である円を買った海外投資家は、その資金をどこに置いておくのでしょうか。クレジットの世界では、その国で最も安全な資産は、国債であるというのが原則(あくまで原則)ですから、「安全でない国債」を発行している国の通貨は、「安全な通貨」とはいえません。

「銀行など国内投資家の保有は減る一方、日銀の保有は200兆円に迫り、発行残高の約2割と突出している。1年以内の短期国債(国庫短期証券)では海外投資家が2013年に初めて最大保有者になった」(同)

日本を代表する経済紙は「銀行など国内投資家の保有は減る一方」と表現していますが、それは銀行の判断ではなく、日銀の「異次元の金融緩和」という意味不明の金融政策の影響ですから、何の問題もありません。その証拠に、「異次元の金融緩和」によって日銀は2013年3月比でマネタリーベースを66兆5810億円増やして来ていますが、その内の95.9%の63兆8806億円は日銀当座預金の増加で占められています。

つまり、銀行が国債の「金利上昇リスク」を懸念したり、国債以外に魅力的な投資先が出て来たりしたことで国債への投資を敬遠し始めたわけではありません。もし、日銀が意味不明の「異次元の金融緩和」を止め、国債の買入れを中止すれば、「銀行などの国内投資家の保有が増える一方、日銀の保有が減る」ことで、元の状態に戻るだけのことです。

「今も1年超の長期国債では海外勢が保有する比率は4%にすぎない。だが、発行残高162兆円の短期国債に限れば、13年9月末時点で45兆円と3割近くを海外勢が持つ」(同)

海外勢が価格変動リスクの低い短期国債を持つ主な理由は、円高に備えるか、債券のインデックス運用で保有することです。

民主党政権下では円高が無為に放置されましたこともあり、海外投資家による日本の短期国債の保有額は2011年第1四半期の32.2兆円から2012年第4四半期には50.8兆円まで膨らみ、安倍政権が「大胆な金融緩和」という円安政策を打ち出したことで、2013年第3四半期に45.5兆円まで減少して来ています。海外勢の短期国債の保有額は、為替の見通しによって変化するものですから、「45兆円と3割近くを海外勢が持つ」などと大騒ぎするようなことではありません。

「13年9月末時点で45兆円と3割近くを海外勢が持つ」ことが、「何かの弾みで海外投資家が一斉に売りに回る」というリスクに繋がるのだとしたら、「外国法人等の株式保有比率は、前年度比1.7ポイント上昇して28.0%」(平成24年度株式分布状況調査)となった日本株も大きな「下落リスク」を抱えていることになります。しかし、日本を代表する経済紙は「企業業績は好調だ」(16日付「市場アウトルック」)という理由で「割安感から買いが入りやすい」(同)と、日本株の「下落リスク」は大きくないと繰り返しています。日本国債での海外勢の保有比率上昇は「金利上昇リスク」を高め、株式市場での海外勢の保有比率上昇は「株価下落リスク」に繋がらないという主張の根拠は何処にあるのでしょうか。

2013年9月末時点での海外投資家の日本国債の保有額は、短期国債45.5兆円、長期国債33.0兆円、合計で78.6兆円となっていますが、この規模は大き過ぎるものなのでしょうか。

世界の国債投資の主要なベンチマークの一つとなっている「シティ世界国債インデックス」における日本国債の構成比率は26.24%(2014年2月時点)です。この構成比率をもとに考えると、世界中で300兆円ほどの世界国債インデックス・ファンドがあれば、海外投資家が日本国債を78.6兆円保有していることは、規模の面では説明出来てしまいます。

以前同Blogで指摘した通り、「2013年8月末の米国投資信託の債券ファンド4.4兆ドル(104円換算で約458兆円:「野村資本市場クオータリー 2013 Autumn」)の62%程度」であることを考えると、海外投資家の日本国債保有分78.6兆円という規模は、世界の国債インデックスに連動するファンドが保有しているといっても説明がついてしまうものです。インデックスに組み込まれていることが日本国債を保有する最大の理由だとしたら、「何かの弾みで海外投資家が一斉に売りに回る」可能性はそれほど高くないことになります。

 【参考記事】国債消化、日銀頼み?~いえいえ、「日銀の国債購入が銀行頼み」です

「先物主導で国債が売られ、金利が上昇するリスクをはらむ」(同)

日本を代表する経済紙は、このような主張もしています。しかし、先物には期限がありますから、先物を売建した海外投資家は、それまでに先物を反対売買する(買戻す)か、決済日に先物の買い方に国債の現物を渡す必要があります。買い方に渡す現物国債を持っていない(空売り)場合には、市場で現物国債を買う必要があります。つまり、先物を売建した場合、決済日までに先物か現物かどちらかを買わなければなりませんから、一方的に金利が上昇するというリスクは日本を代表する経済紙が騒ぐほど高くありません。日本を代表する経済紙の記者は、株価指数先物と国債先物の決済方法の違いを理解していないのだと思います。

一言で言えば、空売りは一時的な金利上昇を招くことはあっても、中長期的な金利上昇をもたらせないということです。中長期的な金利上昇をもたらすのは、現物の国債を持っている投資家、つまり、現時点では日本の金融機関が日本国債に見切りをつけて売り手に回る時でしかありません。

日本を代表する経済紙に掲載された記事は、「事実」をベースに書かれた「フィクション」でしかありません。

一般投資家が「金融リテラシー」の向上を目指す際に重要なことは、「事実」と「意見」を区別して記事を読むことです。「事実」と「意見」の区別をせずに記事として書かれていることを覚えるというのは最悪で、これを繰り返している限り「金融リテラシー」が向上することはありません。

また、これは、日本を代表する経済紙の記事だけでなく、拙Blog 記事に関しても同様です。拙Blogを通して、金融経済に関する見方の幅を広げて頂くことはありがたいことですが、筆者の「意見」を覚えて頂いても、ほとんど何の役にも立たないと思います。

今回の日本を代表する経済紙が掲載した「意見」は、小保方氏の論文騒動に準えれば、「未熟な記者による、杜撰なデータ解釈」による現実を無視した「経済解説記事として体をなしていない」お粗末なもので、「未熟でない」編集長がきちんと「査読」をしていれば紙面を飾ることが出来ないものでした。

小保方氏の論文騒動をみても明らかなように、生命科学の分野では、多くの専門家が検証を加えることで一定の自浄作用が働いているようです。しかし、マスコミによる経済報道に関してこうした自浄作用に期待することは出来ない状況にあります。読者は、こうしたことが日本で「金融リテラシー」が向上しない大きな要因の一つになっていることを認識したうえで、記事を読む必要がありそうです。

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コメント

未熟な記者だけではない!!

日経新聞の記者が書いていることはか藤巻氏や一部海外のトレーダーが言っていることとほぼ同じですね。財務省は、以前は日本国債の破たんはあり得ないと挌付けけ会社に反論していましたが、ここ数年は消費税を上げたいがために、財政破綻の危機を煽ることで、国民にスリコミを図っているのでしょう。財務省は本当は今でも財政破たんはあり得ないことと思っていますよ。何故なら、安倍政権の要請に応じて2013年度に13兆円もの補正予算を組み財政出動を実施しています。これは、2013年4^6月期の景気拡大を図ることで、9^10月に消費税を上げる判断材料にするための出来レースでした。多くのマスコミは財務省の言いなりなのは残念です。財務省は自分たちの利権を温存したまま財政を改善したい(?)がために消費税を上げたとしか思えません。本来は、米国がクリントン政権時代に行ったように景気回復を優先し、その後財政を回復させることができるよい手本があるのにまたも間違った政策をとってしまいました。。バブル崩壊後、財務省は今回で3回目の間違った政策を遂行してしまいました。日本経済新聞の記者一人が御用記事を書いているのではなく、日本経済新聞社が御用新聞になり下がってしまっているのではないかと危惧します。何故、歴史に学ばないのかと?

Re: 未熟な記者だけではない!!

自然様、コメントをお寄せ頂きありがとうございます。今日フリーのジャーナリストと情報交換をしていましたが、新聞記者のレベルの低下には呆れていました。自分で一次情報源に取材に行くような記者はほとんどいなくなったようです。霞が関辺りからあてがわれた情報で記事が書けてしまいますし、彼らは自分達の文章能力に強いプライドを持っているそうですから、外部から刺激を与える必要がありそうです。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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