ケインズもビックリ ~「公共事業で景気支え」、でもケインズとは違う?

「多くの専門家は増税後の落ち込みは一時的と見ているが、景気の腰折れへの不安もくすぶる」(24日付日本経済新聞 「エコノフォーカス~消費増税、前回とは違う?」)

24日付の日本経済新聞は、一面で世論調査結果をネタに「読者の錯覚」を与えるだけでは不安だったなのか、エコノフォーカスという特集記事で1997年当時との経済統計の比較や専門家達のコメントを紹介しながら、消費増税による景気減速懸念が低いことを再度強調しています。

「97年の助走期間には問題もあった。公共事業が減り続けていたのだ。GDPの公共投資は97年1~3月期まで4四半期にわたって前期の水準を下回っていた。…(中略)… 対照的に、今回は政府が消費増税を実施するために、公共事業を含め5.5兆円の経済対策を2013年度補正予算に盛り込んだ」(同)

確かに、日本経済新聞が指摘するように、公共事業の状況は1997年当時と今回とでは大きく異なります。1997年の消費増税を控えた96年度の公共投資の前年同期比伸び率は、4~6月期に▲6.3%とマイナスに転じて以降、4四半期連続でマイナスを記録しています。

これに対して今回は、アベノミクスもあり消費増税実施の1年以上前の2013年1~3月期から5四半期連続で前期比プラスを記録しており、確かに「財政のリスクを抱えながらも景気を重視している」(日本経済新聞)という状況になっています。

問題は、公共投資を前期比年率で30%以上増やすことで嵩上げされたGDPを理由に消費増税が決定されたということです。これによって、公共投資によって嵩上げされた景気の中で消費増税が決められ、消費増税によって政府自らが景気に穴を掘り、それをさらなる公共投資で埋め合わせるという、完全な「マッチポンプ経済運営」になってしまっています。

著名な経済学者であるケインズは、「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」と主張しています。したがって、公共事業によって消費増税の悪影響を埋め合わせようとする安倍政権の政策は、ケインズ的なものといえるものかもしれません。

しかし、実態は、ケインズも想像していなかったような経済運営になっているように思えます。

まず、「22四半期連続で需給ギャップがマイナス」を記録し、足下(2013年10~12月期)で年換算8兆円もの「需要不足」が生じている「需要不足社会」のなかで、政府自らが消費増税実施によってさらなる「需要不足」を作り出すというのは、おそらくケインズも想定していなかった政策運営だろうと思います。

さらに、ケインズは「『需要不足』によって、意欲も能力もあるのに失業している労働者がいて、遊休している設備や機械があるなら、政府がそれらの生み出すことの可能な生産物の使い手になればいい」(PRESIDENT Online 2009/4/26 ~「穴を掘って埋めるような公共事業でも効果あり?」)といっています。

しかし、現在日本は「22四半期連続の需要不足社会」の真っただ中にいますが、1月の完全失業率は3.7%と低水準で、有効求人倍率は1.04倍と、6年5か月ぶりの高水準となっており、少なくとも統計上は「意欲も能力もあるのに失業している労働者」が失業しているわけではありません。

「人手不足が目立つのが、震災からの復興や東京五輪に向けた工事が増えている建設関連。建設(3.01倍)や土木(2.72倍)の作業員はもちろん、建物の骨組みにあたる躯体(くたい)の工事が7.32倍、電気工事が1.97倍と高い。建築・土木・測量の技術者も3.96倍と、あらゆる職種で間に合っていない」(3/1付日経電子版 「6割超の職種で人手不足」)

さらに、こうした記事から分かるように、安倍政権は消費増税による景気悪化を「意欲も能力もあるのに失業している労働者」が不足している業種に「穴を掘らせる」ことで埋め合わせようとしているのです。

ケインズが主張しているように、「需要不足社会」においては、民間に代わって政府が仕事を生み出すことは当然の政策だと言えます。ですから、アベノミクスの「機動的な財政出動」は理に適った政策だと言えます。しかし、政府自らの手で「需要不足」の傷口を広げ、最も人手不足が激しい業界に「穴を掘らせる」ことで「需要不足」の穴を埋めさせるというマチイポンプ政策パッケージは、おそらくケインズの想像しをはるかに超えた発想だと思います。

このような「ケインズもびっくり」という政策パッケージで日本経済を復活させることが出来たら、ケインズには縁のなかったノーベル経済学賞を最初に手にする日本人は、安倍総理ということになるかもしれません(ノーベル経済学賞が設けられたのは、ケインズが亡くなった1946年の23年後の1969年)。

「97年は翌年に長野県での冬季五輪を控えていたのも、20年の東京五輪に向けて早くも期待を膨らませる今の風景と重なる」(同日本経済新聞「17年前、重なる風景も」)

翌年に控えた五輪と、6年後に決まった五輪とを同列に並べて論じられるところが、この新聞の凄いところでもあります。

さらにこの記事では、とても日本を代表する経済紙とは思えない、「明治神宮(東京・渋谷)と成田山新勝寺(千葉県成田市)、川崎大師(川崎市)の人出は97年には前年より少なく、14年は前年より多かった。『神頼みは人々が慎重に増税に備えていることを示している。今回は増税をうまく乗り切れる』」とするエコノミストの非論理的コメントまで持ち出し、消費増税を乗り切れるという呆れた主張を展開しています。

日本経済新聞も、遂に、整合性を欠いている自らの主張に不安を抱き、「神頼み」に向かい始めたのでしょうか。

このような、とても「日本を代表する経済紙」が載せるべきでないような記事が紙面を飾るというのは、「日本を代表する経済紙」というプライドを失ってしまったからなのでしょうか。

それとも、このような記事を載せなければ紙面を埋められないほど、記事を書く能力が低下して来てしまったということなのでしょうか。

どちらにしても、読者としては「日本を代表する経済紙」の記事が、それに相応しい内容になることを願うばかりです。こればかりは「神頼み」になりそうですが…。

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Re: タイトルなし


昨日はお疲れ様でした。
ここは書き込みにくいので、FBのメッセージで送って貰えますか。
宜しくです。

近藤駿介


> 西村さんの元でインターン生として働いています。豊福です。
>
> 昨晩はありがとうございました。
> 私は頭が良くないので大変勉強になります。せっかくの機会ですので、定期的に読ませて頂きたいと思います。今回は近藤さんの私生活にも関わるコメントですので、秘密コメントにしようと思います。よろしくお願いします。
>
> 以下駄文でございます。
> 消費増税によって需要不足が加速すれば、本当に失業率が上昇して人手を不足させた所にも人が集まるような気がします。よりGDPの嵩上げも増すのでは…とおもいます。
>
> それにしても、人手不足自体が演出のような印象を私は感じます。

公共事業で景気は改善しない。
公共事業の原資は税金だ。
税金を吸い取られた民間部門は縮小する。
つまり、公共事業を通じて、政府は付加価値を創出していない。
右のお金を左に渡しているだけだ。
更に悪いことに、政府の公共事業という投資に審判はいない。
銀行なら、投資に失敗すれば倒産するが、
政府の投資の失敗をとがめる人はいない。
公共事業は市場の失敗が確実な部門に限って
限定的に例外として行われるべきだ。

一方、インフレ政策は有用だ。
通貨が価値の流通手段として機能するためには
通貨は、ババであり続けるべきだ。
通貨がデフレだと、価格の下方強直性の高い賃金は実質値上げが続き、経営の裁量を減らす。
その結果、雇用がインフレ経済圏に流出したり、派遣や非正規雇用などの方便が多用される。
「インフレになると土地が値上がりして生活が苦しくなる」というのはデフレを望む理由とするべきではない。
土地税制が間違っているのが原因だ。
土地は生活必需品だ。
不要不急の土地をすばやく市場に放出してもらうためにも、価格に見合った価値を生み出さない使い方は制限されるべきだ。
土地は持っているだけで、日々課税される地価税などを中心にするべきだ。
マネーゲームの道具のように値上がりしなければ納税しなくて済む譲渡益課税を中心にするべきではない。
非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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