どこかおかしな「法人税率引下げ」論争 ~「法人税率」だけを比較して「日本は突出して高い」といえるか?

「財務省は税率10%下げに必要な政策減税の廃止・縮小による増税で確保すべきだという立場。経済界は減増税中立では減税効果が薄まると主張している」(27日付日本経済新聞 「消費増税とアベノミクス~経済の好循環なるか」)

確かに、「減税率中立」にした場合、「減税のみ」の場合と比較して「減税効果が薄まる」のは当然です。

一方、家計は4月からの消費税のみならず、「家庭の電気料金は全社で料金計算が現行方式となった2009年5月以降の最高値となる。消費増税と光熱費上昇が家計にのしかかる」(2/27日経電子版「電気料金、4月から最高に」)と、「増減税中立」どころか、「負担増だけ」を強いられる格好になっています。

こうしたなかで何とも不思議なのは、「減増税中立では減税効果が薄まる」と主張している経済界のトップ達が、「負担増だけ」を強いられる家計が消費増税後の景気回復の牽引役になると考えていることです。

「国内景気の先行きについても9月時点で『よくなっている』『改善の兆しが出ている』との回答は合計で55.4%に達した。12月時点では74.3%まで増える。景気が改善に向かう要因では『個人消費の回復』がいずれも6割程度でトップだった」(23日付日本経済新聞 「社長100人アンケート~消費増税『影響軽微』7割」)

日本を代表する企業経営者が、「負担増だけ」を強いられる家計が、消費増税後の日本経済を支えることで、「消費増税の影響は軽微」だと考えているのであれば、何故、「減増税中立」であれば、十分、法人が日本経済を牽引役になれると考えないのでしょうか。

「官邸が法人減税にこだわるにはわけがある。1つは法人税改革が海外マネーの日本買いの有力な材料になっている点。」(同 日本経済新聞)

このような解説を読むと、本当に気分が悪くなってしまいます。

ようするに官邸は、外国人投資家に日本株を買ってもらいたいから法人税改革にこだわっているということです。「円安・株高」以外に具体的成果のないアベノミクスにとって、外人買いで日本株が上昇していなければ、「景気回復の実感」を感じていない7割近くの国民に対して、「景気回復の実感を全国津々浦々までお届けする」というようなごまかしが効かなくなってしまうということに過ぎません。

「この4月の復興特別法人税の廃止で日本の法人実効税率は38%台から35%台まで下がる。ドイツの30%弱には及ばないが、約40%の米国より低い。だが、実質的な法人税負担でみると、違った現実が見えて来る。日本33%、米国19%、ドイツ15%-。全米経済研究所が推計した企業の実質法人課税負担率(税引き前利益に占める法人所得税額の割合)を見ると、日本の高さが突出している」(同 日本経済新聞)

法人実効税率の引下げ派の主張の根拠は、国際的に見て日本の法人実効税率が高いということです。

こうした尤もらしい主張が、日本経済新聞で執拗に繰り返し報道されると、もしかしたらこれは「法人税」だけを取り出した詭弁ではないかという疑いを抱いてしまいます。「法人実効税率が高い」ことと、「税負担率が高い」ことは同じなのでしょうか。「法人税率」は高くても、「還付金」を多く受け取ることで、実質的な「税負担率」は高くないということもあり得るのではないかということです。

日本では、輸出企業に対して、国内での仕入の際に支払った消費税を還付しています。国税庁の「統計年鑑」によると、2012年度の法人税は約9.8兆円です。これに対して、「消費税及地方消費税」の還付金は、約3.1兆円となっています。

「財務省貿易統計」によると、2012年の輸出総額は約63.75兆円です。「消費税及地方消費税」の還付金が全て輸出企業向けではないとは思いますが、3.1兆円という規模の「消費税及地方消費税還付金」は、輸出総額63.75兆円に対して偶然にも5%と、消費税率の5%と等しくなっています。

2012年度の法人税は約9.8兆円ですから、「税引き前利益に占める法人税額の割合」が、この記事で報じられている通り33%だとすると、法人の「税引き前利益」は約29.7兆円ということになります。

仮に、3.1兆円という「消費税及び消費税還付金」が輸出企業に対するものだったとすると、企業が実際に負担した税金は約6.7兆円(=法人税約9.8兆円-消費税還付金約3.1兆円)、「税引き前利益に占める税金の割合」は約22.5%ということになります。

さらに、輸出総額が63.75兆円で一定だと仮定したら、消費税率が8%になれば「消費税還付金」は5.1兆円に、10%になれば6.4兆円に、自動的に増えることになります。その際の「税引き前利益に占める税金の割合」は、消費税率が8%になれば15.8%、10%になれば11.5%へと自動的に下がっていくことになります。

つまり、これらの仮定が正しければ、消費税率が8%に引上げられるだけで、「税引き前利益に占める税金の割合」はほぼドイツと同じになり、さらに消費税率が10%に引上げられれば、この比率は11.5%と、「日本の低さが突出」する状況になる可能性があるということです。

世界各国が、日本と同様に輸出企業に対して消費税(付加価値税)還付を行っているか確かではありませんから、この仮定から推計した「税額」を用いて試算した「税引き前利益に占める税金の割合」を、この記事で報じられている「米国19%、ドイツ15%」とそのまま比較していいのか定かではありません。しかし、消費税還付を加味した場合、日本の輸出企業の「実質実効法人税率」が、「高さが突出」しているといわれるほど高くないことは間違いないように思われます。

「国際競争力」が問われるのは、主に輸出企業ですから、現状のように輸出企業に対する消費税還付制度があるなかで法人税率を10%も引下げると、輸出企業の実質実効税率は限りなく0%に近付いてしまうことになります。

法人税の引下げが、「『公平・中立・簡素』であることが税制を構築するうえでの基本原則」(財務省HP~もっと知りたい税のこと)に適ったものなのか、もう少し慎重に議論する必要があるように思います。

安倍総理は、法人税を引下げることを国際公約に掲げ、「成長戦略」の柱に据えています。

しかし、海外企業の日本進出を促すためならば、法人税率引下げを国際公約として掲げるよりも、「日本は輸出企業に対して消費税還付を行っていますので、実質実効税率は欧米と比較しても低い」ことを強くアピールした方が効果的であるような気がします。

何しろ、法人税率引下げの恩恵は、利益を出している企業にしか及びませんが、消費税還付金は利益に関係なく、国内で仕入をした輸出企業全てに及ぶわけですから。

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